南佳高は走っていた。ひたすら、斑鳩の中を人を求めて走っていた。
そうして漸くゼロの部屋の入口の傍らで、床に蹲るようにして座っている目的の人物を見つけた。
「ロロ!」
呼ばれた人物── ロロ── は俯けていた顔を上げた。
「南、さん?」
南の名を呼びながら、ロロは立ち上がった。
「ゼロを助けてくれ!」
正直なところ、南にロロにゼロを助けられるような力があるとは思えなかった。しかしジェレミアが未だ哨戒任務に就いている今、手を借りられるのはロロしかいないと判断したのだ。
「ゼロを助けて、って、兄、ゼロに何かあったんですか!?」
南の言葉に勢い込んでロロは問い返す。
「扇たちがシュナイゼルたちに唆されてゼロを裏切った。今にもゼロを殺そうとしている!」
「何ですって? 一体どうしてそんなことに……?」
「ゼロが元はブリタニアの皇子で、ギアスという異能の力を持っていて、その力でかつての“行政日本特区”での虐殺もゼロがやらせたことだと言われて、あいつらはそれを頭から信じたんだ! ゼロは裏切り者だと、自分たちを駒として騙していたんだと言って……」
「そんなこと! 兄っ、ゼロは本心からブリタニアを憎んで戦ってきたのに!」
二人はゼロがカレンによって連れていかれた4番倉庫に急いで向かいながら話を続ける。
「俺も正直最初は疑った、ゼロに騙されてきたんだって。でも少し冷静になって考えてみれば、そんなことは決してない。そりゃ確かにゼロは隠し事が多い。だから疑われる原因にもなったんだろうけど、でも、ゼロは何時だって俺たちの先頭に立ってブリタニアと戦ってきた。その行動に嘘はないはずだ。もし本当に俺たちをただの駒だと思っていたなら、自分は後方に控えていればいいんだ。そしてギアスとやらでいくらでも団員を増やしていけた。けどゼロはそんなことしなかった、何時だって自分が前に立って指揮を執ってくれた。それに処刑されそうになった時だって、下手すれば自分の命だって危ないのに俺たちを助けてくれた。第一、敵の持ってきた情報を頭から鵜呑みにするのだっておかしな話だ。だから俺はゼロを信じたい。扇たちが殺そうとしているゼロを何とかして助けたい。俺だけの力でできることなんて何があるのか分からないけど、でも何かしないといけないと思うんだ。ロロ、おまえなら何かできるか? 今からジェレミアを呼んでも間に合わない」
「……何とか、します。何があっても、ゼロを殺させたりはしない! それより、南さんの方こそ大丈夫なんですか? 扇さんたち皆がゼロを裏切ろうとしてるのに、それをあなた一人逆に裏切ろうとしてる。後で問題になりませんか? 僕はゼロを救い出したらそのままこの斑鳩を出ます。そうしたら後に残ったあなたが、今度は扇さんたちから裏切り者扱いされるんじゃないですか?」
ロロの言葉に、ロロにはゼロを救い出す手段があるのだと知って南は首を振った。
「大丈夫だ。君がゼロを間違いなく救い出すというなら、悪いが俺は扇たちについたふりをさせてもらう」
「分かりました。それなら僕は何としてでも、僕の命に代えても、ゼロを救い出します。今の僕を創ってくれたのは、唯の人形だった僕を人間にしてくれたのは兄さんだから!」
先刻、ルルーシュは自分を利用していたのだと、本当は憎いのだと言った。
けれどただ嚮団に言われるがままに暗殺を続けて何も感じていなかった自分に、人の感情を教えてくれたのは紛れもなくルルーシュだ。そしてルルーシュの記憶が改竄されていたからとはいえ、アッシュフォードで過ごした1年という月日に嘘はなかった。自分は間違いなくルルーシュの弟だ。だから弟として、何としても兄を救い出す。
4番倉庫に向かいながら、ロロはそう決意した。
ロロの言葉の意味は分からないまでも、ロロはゼロを裏切らない、そして彼には救い出す方法があるのだと確信した南は、後をロロに任せることに決めた。
4番倉庫に着いた二人は、ゼロを責める言葉が倉庫内に響き渡る中、それぞれ別の方向に別れた。
「じゃあ、後は頼むな」
との南の言葉を後に。
「撃て!」
藤堂の号令の下、一斉にゼロに向けられていた銃口から弾丸が撃たれた。
しかしゼロは突如動き出した蜃気楼によって守られ、気が付けば蜃気楼は斑鳩の外に出ていた。
その蜃気楼に対して撃墜命令が出される中、南は、ゼロとロロにどうか無事で、とそう祈った。
── The End
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