「ユフィは本当に素晴らしい人なんだ。心からイレブンのことも気にかけてくださっている」
「おまえだけをな」
また何時もと同じように始まったスザクのユーフェミア賞賛の声に、ルルーシュは一言端的に呟いた。
「ルルーシュ?」
ルルーシュの言葉の意味を理解できず、スザクは問いかけるようにただその名前を呼びかけた。
「だってそうだろう? ユーフェミア殿下はおまえの言うように、イレブンのことも気にかけていらっしゃるかもしれない、そのことまでは否定しない。俺には分からないことだからな。だが、現実を見れば、実際に殿下が気にかけられ、引き上げられたのはおまえ唯一人だけで、他には誰もいない。イレブンはもちろん、名誉ブリタニア人ですら一人も。おまえだけなんだ。それでは、どういった経緯か知らないが、周囲からは知己を得たおまえ一人が特別扱いで贔屓されている、そう見られても致し方ない状態だ。そうではないのか?」
「そ、それは……」ルルーシュの言葉に対する答えを探すべく、スザクは頭を巡らした。「確かに、確かに今は僕一人かもしれない。でも、ユフィが他の人たちのことを気にかけてくれているのは事実だし……、ただ、ユフィがいくら意見を言っても、差別が当然とされている現在の状態では、周囲からの理解が得られないから先に進めないだけで、いずれ、ユフィの意見が認められれば……。実際、こうして僕はKMFに騎乗することを認められて、学校に通わせてもらって、その上、ユフィの騎士にまで任命された。だからこれから先も、僕が実力を示すことができれば、時間はかかるかもしれないけど、きっと周囲の人たちにも認めてもらえる。そうして中からブリタニアという国を変えていくべきなんだ。それをテロという行為で犠牲を出しているゼロのやり方は間違ってる!」
スザクが必死になって述べた言葉に、ルルーシュはクスッと小さな笑みを漏らした。
「な、何がおかしいんだ、ルルーシュ!?」
「おかしいことこの上ないからさ」
「一体何がっ!?」
「おまえは実力だというが、どこが実力なんだ? 確かにおまえの身体能力は他の者と比較すれば非常に優れている。それを認めるのはやぶさかではない。だが、それだけだろう?」
「そ、それだけって、僕は……っ!!」
「だってそうだろう? ブリタニアの国是は弱肉強食であり、ナンバーズに対する差別だ。それは名誉も含めて、な。本来なら決して認められない名誉のKMFへの騎乗がおまえに認められたのは、以前におまえから聞いた話だと、あくまでKMFとの適合率の関係だろう? おまえの上司が、出自よりもKMFのデータ収集のために適合率を優先したからに過ぎない。おまえから自分をそのKMFのデヴァイサーに、などと売り込んだわけではないだろう? 第一そんなことができる立場じゃない。おまえの上司がただ適合率の関係からおまえを選んだだけだ。そしておまえが、より正確に言えば、おまえの騎乗するKMFが結果を出しているのは、それらのことから察するに、現行唯一の最新鋭の第7世代であるKMFの機体性能と、その機体に対するおまえの適合率の関係であって、多少はおまえの身体能力もあるのかもしれないが、完全におまえの実力と言い切れるものではない。
そして名誉ということを考えれば、普通に考えておまえが皇族と個人的に面識を得る機会など考えられない。にもかかわらず知己を得たということは、運、としか言えない。まあ、運も力のうちと言えなくもないが、実力、とまでは言えない。それにおまえが騎士に任命されたことだが、俺はTVで見ただけだが、その限りで言わせてもらえば、おまえは本来与えられた任務を失敗していた。コクピット部分を切断され、相手に逃亡された。つまりおまえはイレブンに敗れたんだよ。それでどうして実力と言える? 明らかに負けたのに。そして結果、他のブリタニア人から批難を浴びていた。そこから推測するに、皇女殿下がおまえを騎士として任命したのは、そうして批難されている知己であるおまえを放っておけない、気の毒だという皇女殿下の気持ちから、としか考えられない。そして皇女殿下の騎士となりながら、おまえは変わらずに一般の学校であるこのアッシュフォード学園に通学し続けている。それの一体どこが皇女殿下の騎士なんだ? おまえの言うおまえの実力とやらは一体何なんだ? はっきり分かるように説明してもらえないか?」
スザクはルルーシュの問いに対する答えを見出せず、目を彷徨わせた。
「もう一つ言わせてもらうなら、たとえおまえが言うようにユーフェミア皇女殿下にイレブンに対する思いがあろうと、実際にそれが行われているのがおまえ一人だけだということから考えるなら、皇女殿下の思いはどうあれ、殿下にそれを実行に移すだけの能力は無いとも言える」
「なっ!? ルルーシュ、いくら君でもユフィを侮辱するのは許さない!!」
「侮辱しているつもりはない。冷静に客観的に判断した結果だ。現に、マスコミをはじめとして、周囲の者は皇女殿下には為政者として政治の話をするのは無理だと判断している。公に口にされてはいないがこれは紛れもない事実だ。本当に皇女殿下にそれを行うだけの能力があるなら、程度の差はあれ、おまえ以外の名誉やイレブンに対しても何らかの策がとられているはず。それが為されていないということから推測すれば、対象がおまえ一人だけだから、皇女殿下の我侭として、周囲は黙認している、ということが考えられる。
つまり、繰り返しになるが、おまえがKMFのデヴァイサーになれたのは、新型機の開発のためによりよくそのデータを収集するために、出自よりも適合率を重視した結果、そしておまえが学園に編入することができたのは、どういう経緯かはともかく、たまたまおまえが皇女殿下と知己となったこと、そしておまえがKMFのデヴァイサーであることが知られるところとなり、しかも敗れて批難を浴びていたことから、皇女殿下がおまえを救うため、という言い方が正しいのかは分からないが、おまえに対する批難を反らせるため。その前の皇女殿下の様子を見ると、はっきりと聞き取ることはできなかったが、政治のことを聞くのは無理だというようなことをマスコミ関係者が会話を交わしていたことから、ご自身のお立場に通じるところがあると思われたのかもしれないな。要するに、現在のおまえがその立場にあるのは、運だけで、おまえが言うようなおまえ自身の実力などというものは無い、ということだ」
「ルルーシュッ!!」バンッと大きな音でテーブルを叩き、スザクは立ち上がった。その勢いに、スザクがそれまで座っていた椅子が大きな音を立てて倒れる。「僕についてはどんなことを言われても仕方ない。僕が名誉であることは変えれないから。けど! ユフィを侮辱することは許さない!!」
「先にも言ったが、侮辱などしているつもりはない。ご本人だけでなく、あるいは実の姉であられるコーネリア総督の耳にも入っていない可能性が高いが、俺が言ったことは租界内ではそうそう表沙汰にされていないだけで、皆、思っていることだ。口では何を言おうとも一切実行されていない。ただの理想主義。つまるところ思ってはいてもそれを実行に移すだけの為政者としての能力は全く無いとも。大体、皇女殿下が口にしていることは、全て国是に反することであり、それが咎められずにいるのは、ひたすら皇族、第3皇女という立場であるからに過ぎない。
これらのことに対する不満は、おそらく一般の者たちよりも、政庁にいてその様子を見ている官僚たちならなおさらなことだろう。“慈愛の姫”と言われているが、ただ自分の理想を口にし、自分のやりたいことだけをやっている、本来やらねばならないことを何一つやっていない“自愛の姫”でしかないと」
「そんなことっ……!」
自分をギラギラとした目で見下ろしてくるスザクを、ルルーシュは逆に冷静に見上げて続ける。
「問題はそれだけじゃない。おまえの、いや、皇女殿下も含めてのことと言ったほうが正しいのかな。この学園を、生徒たちを危険に晒している」
「……えっ……!? い、一体どういう、こと……?」
尚も言い募ろうとしていたスザクだったが、ルルーシュが続けて口にした思いもかけない言葉に、意味が分からないと目を見開いた。
「本気で聞いているのか? それとも考えたことが無かったのか? いや、そんな可能性を少しも思ったことさえなかったのか?」
「だって、僕は確かに名誉だけど、それだけじゃないか!?」
「何処がそれだけだ! 違うだろう! 自分の立場が分かっているなら、俺に言われずとも想像がつきそうなものだ!」
スザクの答えに、ルルーシュはあまりのことに呆れを通り越して怒りを覚えた。
「おまえは名誉だ。確かにこのアッシュフォード学園はリベラルで、イレブンは無理だが名誉に関しては、条件を満たせば、実際に入学できている生徒の数はともかく、認められてはいる。
しかしおまえの場合のこの学園への編入の状況はどうだった!? おまえはただの名誉じゃない! 軍人だ! 軍人の名誉が、入れるかどうかは分からないが、それでも士官学校ならまだ分かる。しかも、結果はともかく、一度は前総督のクロヴィス総督暗殺の疑いをかけられ逮捕された立場だ。そんな存在が、一般の私立学園であるこの学園に編入してきた。学園がそれを認めたのは、皇女の殿下の“お願い”という名の“命令”があったからにほかならない!」
「命令なんて、ユフィはそんなことしない!」
「皇族の“お願い”はそれをされる臣民からすれば、“命令”以外の何物でもない。つまり、断ることなど決してできないことだ! そんなことくらい理解していてもよさそうなものだがな」
「そ、そんな……」
立ち上がったまま、スザクは、そんなことはない、とでもいうように何度も首を横に振る。
「ただの軍人だった時ならまだいい。しかし、その後おまえは名誉でありながら特例的にKMFのデヴァイサーであることが知られ、そしてそれをきっかけに皇女殿下の選任騎士となった」
「そ、それは僕の実力だ! そんなこと関係ないじゃないか!!」
「先に言ったはずだぞ、おまえは実力だと思っているようだが、実力ではない、とな。それに、関係ない? 一体何をどうとったらそうなるんだ!!
軍人以外の名誉の学園への入学だって、決して快く認められていない! ましてやおまえは暗殺の疑いをかけられたほぼ直後に編入を許された軍人だ! 軍人が一般校に通うなど、一体誰が考える!? だが皇女ご本人の意識はともかく、命令によって編入を受け入れるよう要請され促された学園側としては断れない。受け入れるしかない! だから、おまえは気付いていなかったかもしれないが、他の名誉に比べて、編入してきたおまえに対する苛めはより陰湿で悪質だったんだ!
そしてそれに加えて、今度はおまえは皇女殿下の騎士に任命された。そうなれば、必然的におまえに対する身辺調査が行われる。調査の目的はそれを行う者の立場によってそれぞれに異なるだろうがな。
一つは、単純におまえが皇女の騎士となることに問題はないかということ。これはさして問題はない。
だがそれ以外は違う。おまえが皇女殿下から騎士に任命される前、周囲から他の人物を騎士として薦められていた。つまり幾人もの騎士候補がいたということだ。それも実姉であるコーネリア殿下をはじめとする方々が認めた由緒正しい、騎士として相応しいと思われた人たちが。それが、ユーフェミア皇女がいきなりおまえを騎士として任命されたことによって、彼らは騎士となるべく精進してきただろうに、そしてそれは本人たちだけではなくその周囲の者にしても同様であっただろうに、それが全くの無駄になった。そんな者たちがおまえに対して恨みを抱いても当然だろう。その結果どういう行動に出るかといえば、確かにあくまで可能性だが、おまえの粗を探して騎士として相応しくないとすることだ。とはいえ、それでもまだました。ブリタニアは専制君主国家で、弱肉強食が国是。それは皇位継承を巡っても言えることで、実際、シャルル皇帝は兄弟姉妹間でも、そのための争いを推奨しているくらいだ。そこまで言えばいくらおまえでも分かるだろう!」
「わ、分からないよ!」
本当に皇族の騎士というものについて理解していない、そして理解しようという努力すらしていないのだろう。ルルーシュは思わず深い、呆れを滲ませたため息をついた。
「皇位継承権を巡って、ユーフェミア皇女が如何に皇族として相応しくない騎士を選んだか、それを公にするだろう。ひいてはそれを認めた実姉のコーネリア殿下にもその影響は及ぶし、そうなれば、リ家の皇室内での影響力は落ちることになる。たとえ皇帝にまでなることは無理でも、少しでも継承権を上げて、家の格を上げたいと思っている皇族とその後見貴族をはじめとする周囲の者たちにとってはよい材料になる。
それだけなら確かに学園に影響はない。特に皇女の騎士となったおまえに対しては、おまえの後ろにはこのエリアの副総督たる皇女の存在があるのだから、学園内での苛めはともかく、外部の人間がおまえに対して何かを、ということはないだろう。皇族侮辱罪に通じるからな。となれば、おまえの、皇女の選任騎士就任をよく思っていない人間が取る、取れる方法は決まってくる。おまえが通学しているこの学園そのもの、あるいは在籍している教職員や生徒たちに対するものだ。おまえを受け入れている学園が悪い、おまえが皇女の騎士になど相応しくないからこのようなことになると吹聴してな! 繰り返すが、これはあくまで推測の段階だが、それらが今後決して起こらないと、どうしたらそう言いきれる! おまえは何も考えずに、何の問題もないとのんびりと皇女殿下に言われるままに学園に通い続けているようだが、俺がずっとおまえに問いかけてきたのはそういうことだ! ついでに言わせてもらえば、その過程で起きる可能性のあるもう一つの問題、知っているおまえには、無い、と否定することは言えないはずだと言わせてもらうぞ!」
生徒会室にいて、突然始まった二人の遣り取りを、特にルルーシュの常にない声を荒げてのスザクに対する言葉を、他の生徒会メンバーは口を挟むこともできずにただ聞いていた。特にミレイは、ルルーシュの告げた最後の言葉に、他のメンバーには何のことか分からずに少しばかり首をひねっているが、思わず俯いた。
「何度も言わせてもらうが、おまえがここまでこれたのは、皇女の騎士にまでなれたのは、運と巡り合わせだけだ。おまえが言う実力とやらはほとんど関係ない。しいて言えば、おまえが騎乗を許されたKMFに対するおまえの適合率の高さと運動神経の良さから、その相乗効果で得た結果くらいのものだろう。ならば、全く無いとまでは言い切れないが、おまえの実力だけなどということはありえない! 違うと言うなら、分かるようにはっきりと答えてもらおう。学園と生徒に対して起きる可能性のある被害に対する補償も含めてな!」
「……そ、それは……」スザクは瞳を彷徨わせながら色々と頭を巡らしていたようだが、ややして、思いついたというように口を開いた。ただし、ルルーシュが告げた「もう一つの問題」については全く思い至っていないようだったが。
「もしそんなことが起きたら、その時は僕が責任を持って助けるよ! なら問題ないだろう!?」
「問題ない!? 大有りだろうが! 問題が起きた時、その場に必ずしもおまえがいるとは限らない! たとえおまえがいたとしても、おまえ一人だけでどうにかできるとは限らない! そしてそれ以前に、おまえにそのようなことをする権利はない! 逆に、もしそんなことをしたら、おまえは処罰を受けるし、事と次第によっては、おまえにそんなことをさせた学園に、生徒にすら責任を問われることになる。そんなことすら分からないのか、おまえは!!」
「確かに間に合うとは限らないかもしれない。けど、守ることがなんでいけないの!? どうして他の人に責任が問われるって言うのさっ!」
「おまえはブリタニアの騎士制度というものを全く理解していない。皇女の選任騎士でありながらな!
皇族の騎士が守るべきは主たるその皇族ただ一人。他の人間を守ることは許されない。もし許されるとしたら、それはその時にその主たる皇族からそうするように命令された時くらいだ。それでも主が一番であることに変わりはない。つまり、主の完全な安全が確認された上でのことだ。主のいないところで、主以外の者を、主を持つ騎士が守ることなど認められていない。そしてそれ以前に、おまえは主たるユーフェミア皇女殿下の許可があるからとこうしてこの学園に通い続けているが、騎士とは常に主の傍らにあるべきものだ。主の命令によってなんらかの務めを果たすためにその場を外さざるを得ない場合以外はな。なのにおまえは平然と主の傍らを離れてこの学園に通学している。そしてそうして主の傍らにいない場合に、その主たる皇族、おまえの場合はユーフェミア殿下になるが、その傍らにいなかったばかりに守ることが叶わなかったとしたらどうなる!? おまえ流に言えば、今のおまえがしていることは、いくら皇女殿下の許しがあったからとはいえ、ブリタニアの国是、つまりルールに照らせば、ルール違反以外の何物でもないんだよ! そしてその責任を問われるのも、やはり皇女の命令だからとはいえ、おまえを受け入れたこの学園だ! だからおまえの行動は学園に、生徒たちに迷惑をかけるものでしかないと言っているんだ! もっと自分の立場というものを、そしてブリタニアの騎士制度というものを理解しろ! それをきちんと理解していれば、決してしないだろうことばかりをおまえはしているんだ! とはいえ、おまえに学園への通学を許し、選任騎士たるおまえが常に自分の傍らにいないことをよしとされている皇女殿下にも問題があると言えることだがな。まあ、ユーフェミア皇女殿下は常に実姉のコーネリア殿下に守られ続けてきたから、これまでの副総督としての地位にみあう行動をとられていないことからも、為政者として、また騎士を持つ主として、そのような意識、理解がなされていないということも考えられるが」
「ルルーシュッ! 君はどこまでユフィを……!」
「俺は皇女殿下を侮辱しているつもりはない。ただ事実を述べているだけだ。そして騎士たるおまえにご自分を愛称を呼ばせていること自体がその何よりの証左だろう! そのような皇族は存在しないからな。そしてそれを受け入れているおまえもだ! 人にはルールを守れと言いながら、その当の本人が一番ルールを破っている、何も理解しないまま、その努力もせずに無視している。
そんな状態にありながら、決して正しい行為だとは俺も思わないし肩を持つ気はないが、それでもブリタニアからの独立を求めて活動しているゼロと黒の騎士団をはじめとするテロリストに対し、自分が名誉になって、軍人になって、皇女殿下に認められその騎士になったことをもって、今はイレブンと呼ばれ差別され虐げられる存在となった人々の本当の望みを無視して、自分がブリタニアを中から変える日を待てとおまえは言う。ブリタニアの政策を変更できるのは皇帝ただ一人だ。仮に現在のシャルル皇帝が亡くなられ他の皇族がその後を継がれることになったとしても、ユーフェミア殿下にはその機会は多分に訪れることはない。何故なら、後継者候補としては、まずは第1皇子のオデュッセウス殿下、帝国宰相を務めていらっしゃる第2皇子のシュナイゼル殿下、他にもユーフェミア皇女殿下以上の継承権をお持ちの方がいらっしゃるのだからな。そんな状態でおまえが言っていることは、ゼロたちに対して、独立を夢見て、その夢であるブリタニアからの独立という結果を託しているだろうイレブンに対して、訪れることなどありえない日を待って、ただ死んでいけと言っているようなものだ
おまえがここまでこれたのは単に運回りがよかっただけで、真に実力と言えるもので得たものなど何もない。その事実を認めることだ。もっとも、これまでのおまえの言動を振り返って鑑みるに、それを求めることは無理なのだろうがな」
ルルーシュが常になく多弁にスザクに対して告げた数々の言葉は、ユーフェミアを賞賛し敬愛を持っているニーナにすら同意できる部分があるもので、結局、如何にスザクが自分を買い被り、皇女の騎士となったことの意味を理解していないかということ以外の何物でもなく、周囲のメンバーを見回したスザクは、ルルーシュと同様の冷めた、あるいは責めるような瞳── その中で最もきついのはミレイだ── で己を見つめる態度に、何を告げることもできず、何をすることもできず、どうしたらいいのか分からないまま、これ以上留まることもできずに、耐え切れないとでもいうように、鞄を持つと生徒会室を飛び出していった。
数日後、スザクからアッシュフォード学園に対して退学届が送られてきた。とはいえ、スザクが本当にルルーシュの告げた内容を理解しているのかは甚だ疑問だ。ただ居辛い、これ以上は居られない、と思っただけと言えなくもないのだから。とはいえ、ルルーシュとミレイが安堵したのは紛れもない事実だ。
── The End
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