「私は神聖ブリタニア帝国エリア11副総督ユーフェミアです。
今日は私から皆様にお伝えしたいことがあります。
私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは、フジサン周辺に“行政特区日本”を設立することを宣言致します。
この特区では、イレブンは日本人という名前を取り戻すことになります。
イレブンへの規制、並びにブリタニア人の特権はこの特区日本の中には存在しません。ブリタニア人にもイレブンにも平等な世界なのです」
アッシュフォード学園の学園祭で行われたその宣言は、イレブンと呼ばれ蔑まれている日本人に希望を与え、一般のブリタニア人からは侮蔑を持たれ、そして何よりも、アッシュフォードに匿われ、隠れ住んでいる二人の元皇族に絶望を齎した。
アッシュフォード学園は、二人の元皇族のために創られた箱庭だった。
生きていることを悟られず、無事に、安全に過ごすことができるようにと周到に用意された箱庭だった。とはいえ、ずっと何時までも続くものとは、創った側も与えられた側も思ってはいなかった。何時か限界は来ると。
しかしそれがこんな形で終わりを迎えることになろうなどとは、思ってもみなかった。
振り返ってみれば、予兆はあったのだ。
名誉ブリタニア人、枢木スザクの皇族の口利きによる学園への編入、そしてそれ以上に、彼の第3皇女への騎士就任。
もっと注意してしかるべきだったのだ。それをかつての懐かしさと慕わしさに、行動を先延ばしにしてしまった。
匿われているのだと説明したことで、相手も分ってくれているものとばかり思っていた。
しかし彼は何も分かってはいなかった。己の行動が二人の元皇族に危険を及ぼしかねないことを。
そして彼女も分かっていなかった。己の力量も、宣言が齎す危惧も。
何事もなかったような偽りの日々を過ごしながら、彼は打開策に頭を悩ませていた。如何にしてあの宣言から逃れるか。
彼女はそんな兄の出す結論を待っていた。目が見えず、足も動かない不自由な身では、自分からは何もできない。おそらく足手纏いにしかならないであろうことは分っていた。けれど兄の出す結論に従うことを、何処までも共に行くことだけは決めていた。他には何もいらない、兄と共にいることさえできればそれだけでいいのだからと。
“行政特区日本”の式典を翌々日に控えた日の夕食後、ナナリーは兄ルルーシュに問いかけた。
「お兄さま、結論は出ているのでしょう?」
ナナリーは“何に”とは問わなかった。問わずともこの兄には分っているはずだ。
「特区には参加しない。いや、できない」
思っていた通りの答えに、ナナリーはやはり、と思い、そしてまた、納得した。
「そうですよね、日本人の方のための特区に、ブリタニア人が参加するなんて無理が有り過ぎますものね。でも、ユフィお異母姉さまにもスザクさんにも、その危険性は分かってもらえていないんですよね。そして、まだユフィお異母姉さまだけとはいえ、私たちの居場所を知られてしまった以上、もう此処には居続けられないということも」
「ナナリー」
「だからつれていってください、お兄さまのいる所へ」
「ナナリー、おまえ……」
「私が分からないと思ってらっしゃったんですか? お兄さまのなさっていることに」
「危険な所だ。綺麗事だけで済む場所ではない。それでも?」
「足手纏いになるだろうことは分かっています。でも、それでも、私はお兄さまといたいんです。お兄さまと一緒にいられれば、そこがどんな所うと構わないんです。だからつれていってください」
ナナリーは見えないながらも、兄のいる方へ必死にその両腕を伸ばし、ルルーシュはそんな妹の腕を掴むとそのまま抱き締めた。
「つれていってください。それだけが私の望みです」
そうして式典の前日、箱庭の番人たるアッシュフォードにも何も告げず、二人の元皇族は黙ってその姿を消した。
── The End
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