時の向こう




 艶のある漆黒の髪、珍しい深い紫電の瞳、誰もが振り替えずにおれない美貌の少年と、その少年の隣に立つ、ライトグリーンの髪と琥珀色の瞳をした少女の組み合わせに、誰もが見とれたように一瞬気を取られた。



 世界は今、協調の時代にある。
 かつての神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニアによる侵略の時代から、ごく短期間ではあったがその後継たるルルーシュ・ヴィ・ブリタニアによる改革の時を経て、けれど彼の短い治世の後半は、前半の“賢帝”と呼ばれていた時代とは真逆に“悪逆皇帝”と呼ばれる世界制圧の時代だった。
 しかし第2次トウキョウ決戦の際に死亡したとされていたゼロの復活により、フジ決戦と呼ばれる戦いの後、ルルーシュはそのゼロに弑され、敗れて処刑の時を待つだけだった者たちは解放された。
 それにより、世界から争いは無くなり平和になると思われていたが、そう簡単にはいかなかった。
 世界は混沌としていた。
 何故なら、世界の指導者として残された者たちがあまりにも無能であったからだ。
 その筆頭は合衆国日本の初代首相となった扇要であったろうか。黒の騎士団の事務総長であったという肩書だけで得たようなその地位に見合うだけの能力を、彼は持たなかった。ゆえにその在任期間は非常に短いものだった。肩書だけにつられて彼を首相の座に押し上げた民衆は、彼にその能力がないと見切るや、彼をその座から引き摺り降ろした。
 黒の騎士団の幹部だったからといって、その能力は必ずしも比例するものではないのだと知らされた民衆は、再度行われた総選挙の結果を受けて、黒の騎士団とは関係のない、扇が首相だった時には野党だった党を与党とし、結果、その党首が首相となった。
 そしてルルーシュの後を継いで合衆国ブリタニアと改名した元神聖ブリタニア帝国の代表である、ルルーシュの実の妹であったナナリー・ヴィ・ブリタニア。
 彼女の理想は高かった。優しい世界を望み、卑劣な悪魔と化した兄ルルーシュと最後まで戦った聖女。しかしその姿が偽りのものであると知れるのは早かった。
 政治学者たちはルルーシュ存命の折りからルルーシュの変遷に疑問を抱いており、その治世に対しての検証を深めていた。
 その結果、ルルーシュによって虐殺されたとされる大勢の人々というものが捏造されたデータであり、本来、その数のほとんどはペンドラゴンに投下されたフレイヤによる死者のものであり、何よりもそのフレイヤを投下したのが、聖女と呼ばれたナナリーの認めたものであったことが知られるに至り、彼女は日本の扇のように代表の座から引き摺り降ろされた。
 のみならず、大虐殺の真犯人としてフレイヤ被災者の遺族の嘆願によって改めて開かれた軍事裁判の結果、ナナリーは処刑されるに至った。
 新しい国家代表には、かつての皇族や貴族たちとは関係のない民間のNPO法人の代表が治まった。
 合衆国中華では政治の事を何も分からぬ天子の下、それでも幸い側近に恵まれ、その者たちが手を施し、天子を教育し、どうにか落ち着いてはいたが、そこに至るまでが長かった。
 良きにつけ悪しきにつけ、ルルーシュほどのカリスマ性をもった指導者は世界にはおらず、世界はゼロの手を求めた。
 ゼロはまるであらかじめ決めていたかのように、世界に対して次々と政策を披露していった。
 ゼロの指導の下、ブリタニアや、ブリタニアから解放されたエリア、加盟していなかった国々をも吸収して、超合集国連合は世界規模の組織となり、不公平だと一部で不評だった人口比率条項は改正され、国の大小にかかわらず一国一票の制度となり、世界が抱えるあらゆる問題に、それぞれ別個に応えるべく専門委員会が作られた。有識者を含むそれらの委員会がエネルギー問題、人口問題、教育問題、食糧問題、そして、宗教や民族間まどの紛争にかかわり、世界を安寧に導くべく努力を重ねた。
 そうして運営されていく世界を見ながら、ゼロは少しずつ世界から距離を取り始めた。
 何時までも自分がかかわっていていいことなどない。人々は自立すべきであると。
 そんなふうにしてゼロが世界から身を引いていく一方で、連合は巨大化し、委員会の発言権は増し、時に各国間で問題が起きつつも、各国はそれぞれの代表の下、超合集国連合最高評議会を話し合いの場として、互いに尊重し合い、事を荒立てることなく話し合いで物事を進めることを良しとした。
 そうして世界が落ち着くまで、ルルーシュの死を経てからおよそ半世紀近くを要した。それは短かったのか、長かったのか。だが人類が誕生し、国家というものが成立して互いに長い争いの時代を経てきたことを考えれば、短かったといっていいだろう。
 世界の人々は、長い時を経て漸く争いのない、平和な時代を迎え、更なる進歩を求めて、新たな世界を求めて、戦争のために費やしていたあらゆるものを、宇宙に向けていくようになっていた。



 そんな平和な時代、ブリタニアの首都ヴラニクスにある公園の一つ、その片隅に止められた屋台でアイスクリームを買い、互いに違うものを選んだ二人は周囲の注目を集める中、そんな視線を気にもかけぬように、互いのアイスを交換してみたりして、何処にでもいる恋人同士のように過ごしている。
 誰も、その少年がかつて悪逆皇帝と呼ばれたルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに瓜二つだなどとは思わない。そして傍らの少女が、そのルルーシュの傍にいた謎の少女にこれまた瓜二つであることにも気付かない。
 人の人生としては、半世紀という時は長い。かつて皇帝ルルーシュの味方であった者も、戦ったことのある者も、すでにこの世を去っているか、あるいは現役を引退する年齢だ。
 世界が協調の中にある今、かつての悪逆皇帝の姿を知る者は少ない。
 全ては時の向こうに過ぎ去った過去。
 少年が愛した少女はすでに亡く、少年の心の中のみに生きている。少女はそんな少年の傍を離れることなく、何時までもおまえの傍にいると約束した通り、常に少年の傍にあった。
 そうして二人は、時の流れから離れたところで、何時までも世界を見守りながら生きていく。魔王と魔女として、誰に知られることもなく。

── The End




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