吐 息



 よく晴れた冬の日曜日の朝、ルルーシュは洗濯物を干し終えて息を吐き出した。天気はいいが、空気は冷え込み、ルルーシュの吐き出した息は白かった。



 ブリタニアが支配するかつての日本、現エリア11。ブリタニア人として、かつての日本人たるイレブンとは異なり、支配者の側としてトウキョウ租界にあるアッシュフォード学園のクラブハウスに起居している現在。
 だがブリタニア人であるとはいえ、ブリタニアのやり方を肯定はできない。
 弱肉強食、覇権主義、植民地主義、徹底した身分社会。その中で、自分たち兄弟はブリタニア人の中ではどちらかと言えば弱者に分類されるのではないかと思う。両親も親類もなく、ただかつて両親に世話になったことがあるとして、自分たち兄弟の後見をしてくれているアッシュフォード家がなければ、自分たちは路頭に迷っていたことだろう。戦後の混乱期、幼い兄弟だけで保護者がいない自分たちは弱者としかなりえなかった。
 そんな社会の在り方を、どうして肯定できるだろう。
 自分は主義者ではないと思う。だが現在のブリタニアの在り方に疑問を持つ自分は、端から見れば主義者に近いのかもしれない。
 自分が望むのは、弟のロロと二人、平穏に暮らしていくことだ。何も贅沢なことを望んではいない。しかし考え方によっては、その平穏な生活というものが一番難しいのかもしれないと考えることもある。
 現在のエリア11は矯正エリアだ。仮面のテロリスト、ゼロが率いた黒の騎士団によるブリタニアに対する総決起たるブラック・リベリオンが失敗し、ゼロはブリタニアに捕まって処刑され、黒の騎士団のメンバーも多くが死亡、あるいはブリタニアに捕まっている。
 以来、以前に比べれば格段にテロの頻度は落ちてきている。それでも完全に無くなったわけではなく、ゆえに、一歩租界を出れば何があるかしれない状態は変わらない。
 そんなエリアで平穏無事に暮らしていけるというのは、あるいは何よりも贅沢なことなのだろう。そんなふうにも思う。
 しかしブリタニアという国はどこか間違っていると、その在り方はおかしいと、そう考える度、自分たち兄弟の境遇を鑑みた時、そう思ったからといって自分に何ができるのかと思う。アッシュフォード家の庇護を受けてどうにか生活できている現在を考えれば、祖国に楯突こうなどというおこがましいことなどできようはずもない。積極的に何か行動を起こそうなどと思ったことはない。
 けれどどうしても考えてしまうのは止められない。
 どうしてそこまで深く考えてしまうのか。将来的な不安はないとは言えないが、少なくとも現在の自分たちの状況に不満があるわけでもないのに。
 いくら考えてみても答えは出ず、ただ考えれば考えるほど、心の中にもやもやとしたものが溜まっていく。



 ルルーシュはそこまで考えた後、それ以上考えることを放棄して、再び深く白い息を吐き出し、住まいたるクラブハウス内に戻った。

── The End




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