「泣こかい、飛ぼかい、泣こよか、ひっ飛べ」(考えている暇があったら、いっそ飛んでしまえ)
これからのことについて、悩んでどうするか考える、そんなことなどなかった。必要なかった。それを実行するための計画は考えたが、それは本当に実行するための手段を考えただけのことにすぎない。だから本当に考えなかった。何故なら、俺にはもう何も残されていないのだから、己の生命以外には。その生命すら、実父に、大切な親友と思っていた男に否定されたもの。更には俺が創り上げた組織の者たちにすら、異母兄の計略があったとはいえ、否定されて殺されかけた。つまり、俺が生きて動いていることそのものが間違いだと言われ続けてきたのだから。ただ一つの心残りは、実父が最期に残した言葉。異母兄が所持している、経緯はどうあれ、俺が行ってしまった異母妹の生命を奪うという行為のために創られてしまった、人間の手には余る、俺と同じく、この世に在ってはならないと言える大量破壊兵器“フレイヤ”の存在。だから、それを消すために、どうせ必要ないのだから、自分の生命を懸け、引き換えにすることにした、それだけだ。結果は考えるまでもなく出ていたから、ただそのための計画を、どうすれば如何に有効的にそれを実行することができるか、それを考えただけで、他には何も考えなかった。
ただ、俺にはもう何も残っていないと、そう思っていたのに、死んだと思っていた実妹が生きていたと知れたこと、更にはその妹が、何も理解せぬままに行った大量虐殺ということから、計画の変更を余儀なくされはしたが、だが結論に変更はない。そう、何も変わらない、途中経過に多少の変更が生じただけだ。
計画は、途中、実妹がフレイヤの発射装置を持ち、自らそれを押していたことを知ったことでまた一部変更を余儀なくされたが、それでも、やはり最終結果に変わりはない。
生きてはいない、死んでいる、存在そのものが間違っていると言われ続け、ただ実妹を守るためだけに在ったこの生命を、その妹と、そして図らずも俺が殺してしまった異母妹の望みを叶えるために利用する、それだけのこと。そのために、今まで生きあがいてきたのだと、今なら思うことができる。だから親友だと思っていた男から「仇だ」と剣を向けられた時、そのままその場、人間の世界とは次元の異なる世界に在り続け、人間の世界から消えることを当初は考えもしたが、どうせ人間の世界から消えるなら、せいぜいこの要らないと、否定され続けた己の生命を利用してやろうと即座に思ったのだ。
そう、考えることなど必要ない。悩むことなどない。俺のために生み出されてしまったフレイヤという兵器と引き換えに、俺は飛びたつ、人間の世界を離れ、今は亡き、こんな俺を守ってその生命を落とした大切な、そう、今では実妹よりも大切だと、愛していると言える、血の繋がりはないとはいえ、俺の真実の弟の元へと。
さあ、最後の仕上げだ。計画通り、契約に従って、かつては大切な親友だった俺を裏切り続けた男が、剣を手に俺に向かってくる、彼の主だった、そして愛していたのだろう少女を殺した俺の生命を奪うために。
今こそ飛びたつ時だ、今度こそ、俺の存在を否定し続けたこの世界から。
── The End
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