Kuramano Tengu




 ルルーシュが妹のナナリーと共に京都の枢木神社に住むようになってから暫く経ったある夜のこと。
 何かに呼ばれたような気がして、ルルーシュは住まいとして与えられている土蔵から外に出た。
 あたりを見回すが何もない。気のせいだったのかと思い引き返そうとした時、土蔵の入口の屋根の上に、不思議で不気味な格好をしたモノがいた。
『これはこれは、この地に異国からの(わらべ)が来たと耳にして鞍馬の山より遥々やって来てみれば、これは不思議なこともあるものよ。こなた、我が見えるか?』
「は、はい」
 相手が言葉にしているのは日本語なのに、頭の中に相手が何を言っているのかはっきりと響いてきて意味がくみとれる。ルルーシュは恐る恐る、その相手の問いに答えた。
『我は鞍馬山に棲む大天狗なり。人間(ひと)の身でありながら、ましてやこの日の本の民ではない者が我の姿を見るとは、人間の世とは面白いものよ』
「鞍馬山の大天狗?」
『いかにも。我がこうして本性を見せるは、今は昔の源家の紗那王以来のこと。だが紗那王とて、我が先に仮の姿にて認めたが後のことであったに、初めから我の姿を見る人間はこなたが初めてのことよ』
 これは褒められていると思ってよいのだろうか、とルルーシュは考える。
『こなた、その幼さで何故(なにゆえ)このようなところに参った?』
「……人質として。僕の国がこの国を攻めない証として。でもそんなことはない。ブリタニアは、僕の国は、僕やナナリーがいようがいまいが、そんなこと関係なくこの国を攻めてくるに決まっている」
『行って死んでこいと送り出されたか』
 ルルーシュは右の手を胸のあたりで握りしめ、僅かに震わせながら頷いた。
『さても人間とは不思議なものよ。身内同士で相争う。思えばあの紗那王も、長じて兄によって死に至らしめさせられた』
「父上は、母上を守らなかった。その上、僕だけでなく、足をダメにして目まで見えなくなったナナリーまで捨てた。僕は父上が、ブリタニアが憎い。叶うなら、何時の日にかブリタニアという国をぶっ壊したい!」
 ルルーシュは、相手が人間ではないことも忘れたかのように思いのたけを口にする。
『さすれば、我が知る軍略をこなたに授けようぞ。何時の日にか()ち上がる時のために。かつての紗那王のように』
「え?」
 その日はそれきり姿を消した大天狗に、ルルーシュは夢だったのだろうかと思ったが、それ以来、ナナリーがすでに寝静まり、ルルーシュが一人の時にやってきては、大天狗は様々なことをルルーシュに教えてくれた。
 やがてほどなく、ブリタニアと日本は戦争状態に入り、大天狗が姿を現すことはなくなった。



 戦後、アッシュフォードに引き取られ匿われてからルルーシュは時々考える。
 あれは夢だったのだろか、それとも本当にあったことだったのだろうか。もし本当にあったことだとしたら、あの大天狗は今も無事なのだろうかと、ルルーシュは思う。
 それでも確かに、大天狗の教えてくれた様々な知識は間違いなく己の中にある。そして最後に会った時に言われた言葉もはっきり覚えている。

『敵を平らげ、会稽を雪がん御身と守るべし』

── The End




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