友達── 互いに心を許し合って、対等に交わっている人。一緒に遊んだり喋ったりする親しい人。友人。朋友。
果たして枢木スザクはルルーシュ・ランペルージ、否、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの友達と言えるのか。
幼馴染であることには違いない。だが、友達としてはどうなのだろうか。
スザクがアッシュフォード学園に編入してきて再会した時、ルルーシュはアッシュフォードに匿われているのだと告げていた。つまり、皇族としては隠れているのだと。
ゆえに、スザクもそれは誰にも告げなかった。ルルーシュとは幼馴染の友達としか。
しかしスザクがブリタニア第3皇女ユーフェミアによって選任騎士に任命されて事態は変わった。
確かに友達だからといって全てを話せるわけではない。例えば、相手の立場、性質、考え方などにより、Aという友達には話せてもBという友達には話せない場合、またその逆の場合がある。
だからルルーシュが名誉でありブリタニアの軍人であるスザクに、自分が黒の騎士団のゼロであるということを話さないでいるように、スザクはルルーシュやナナリーに心配させないために、己の所属が特別派遣嚮導技術部、通称“特派”と呼ばれる最前線であろうと、単なる技術部としか告げていなかった。
だが皇族の選任騎士ともなれば状況は全く変わってくる。
皇族の選任騎士になるということは生半可なことではない。
騎士になる者は、その身辺調査もされる。つまりその周囲の人間も調べられるということだ。
従って、スザクにルルーシュという友人がいること、その友人が元皇族であることがバレる可能性を考えた場合、スザクはルルーシュから一定の距離を取って友達付き合いを止めるか、あるいは、無理なことではあろうが騎士となることを辞退すべきであった。一番は学園を去ることだったのだが。しかしスザクはそのどれもしなかった。第3皇女ユーフェミアの選任騎士となった後も、学園に在籍し続け、ルルーシュの友達であり続けた。
それは単に調べられるということをスザクが知らなかったからなのか。それとも、たとえ調べられたとしてもランペルージという一般人としてアッシュフォードに匿われているから何の心配もいらないと簡単に思い込んだからか。あるいは何も考えていなかったのか。もしかしたらそれが可能性としては一番大きいかもしれない。なにせ、端からどう見えるか分からないし、果たして本人にその自覚があるかどうかも甚だ不明だが、スザクには確固とした自分が無いから。彼が何よりもルールに固執するのがその証左とも言えるのではないか。スザクは、自分では「昔、間違ったから」などと言っているが、ルルーシュはそれが枢木スザクという男の本質なのではないかと、最近はそう思えてならない。
そしてアッシュフォード学園の学園祭で行われた、エリア11副総督ユーフェミアによる“行政特区日本”の宣言。
スザクはルルーシュとその妹のナナリーにも特区に参加して欲しかったし、してくれるものと期待していた。だがそれはスザクの勝手な思い込みである。
“行政特区日本”を、日本と日本人の名を求めるのは元日本人であるイレブンのみ。つまり参加者はイレブンしかいない。ブリタニア人で参加する者がいるとすれば、それは、行政に携わる者などの関係者以外は主義者と呼ばれるほんの一握りの者たちだろう。
つまり特区に参加するブリタニア人は全くいないか、いたとしても極僅かで、目立つことこの上ない。そして目立つということは、それだけ注目を浴びるということだ。
元皇族であるということを隠しているルルーシュとナナリーは、目立つことを避けなければならない。必然的に特区への参加はどうあがいても無理なのだ。けれどスザクはそんな簡単な事にも思い至らない。
そのように、少し考えればすぐ分かるようなことを考えられない、考えない人間を、相手の事情を察し図ることをせずに、自分の意見、考えを押し付けるかのような真似をする人間を、本当に友達と呼べるのだろうか。
ゼロとしてのルルーシュと、特派の第7世代KMFランスロットのデヴァイサーとしてのスザクは、互いにそうとは知らず敵対者であったが、ルルーシュ・ランペルージとしてのルルーシュと第3皇女ユーフェミアの選任騎士となった名誉ブリタニア人枢木スザクは、互いの考え、思惑はどうあれ、スザクが皇族の選任騎士となった時に、すでに友達ではなくなっていたのだ。スザクの無知、あるいは、考えなしゆえに。
── The End
|