魂の回帰



“Cの世界”と呼ばれる世界がある。
 人が生を営む現世とは異なる、しかし、その人々の精神の無意識が集っている異次元。それは生者ばかりではなく、死者も含まれている。そう、そこは生者と死者とにかかわらず、人の魂の、精神の無意識が集う場所。人は、Cの世界から生まれ出でて、だが、その無意識はそこに残したまま現世に出でて、死んで再びCの世界に還る。そこはいわば、人の魂の、精神の故郷とも呼べる所。
“ラグナレクの接続”── 人の無意識の集合体である“神”とも呼ぶ存在を殺すということは、その中にある己をも殺すことであるということを、果たしてそれを為そうとしているシャルルたちは理解しているのだろうか。己の無意識── 言ってみれば、それは己の本質そのものであり、それを殺すということは、己自身を殺すということにほかならないのだ。それがどういったことを招くのか、それは誰にも分からない。何故なら、シャルルと同じようなことを考えた者は、何もシャルルが初めてではなく、過去にもいたが、それは全て拒絶され失敗しているという事実があるからだ。とはいえ、それを知る者は現在何処にも存在しないが。Cの世界にある集合無意識そのものの中以外には。つまるところ、己をも殺すということを理解していない、その覚悟がない、ということが、最終的には拒絶を、失敗を招いている要因の一つなのだが、果たしてシャルルたちはどうなのだろうか。そこまで全てを理解(わか)った上で事を為そうとしているのかといえば、甚だ疑問ではある。
 そして何よりも今、此処にはシャルルたちの行為をあからさまに拒絶する存在がいる。
 シャルルたちの為そうとしていることを知り、それを否定する存在。シャルルの実の息子たるルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。しかも彼は、人に対して一度だけ“絶対遵守”を命じることのできる力── ギアス── を持っている。
「神よ、(とき)を止めないでくれ! それでも俺は明日が欲しい!!」
 全身全霊を懸けたルルーシュの命令、否、願い。
 シャルルは、神に王の力は通じぬと嘲笑(わら)ったが、ルルーシュが使ったギアスは命令ではなく願い。神は願いを叶えるもの。もちろん全てのものを、ではないが。そして神はルルーシュの願いを叶え、己の欲望のために神を殺そうとしていたシャルルとマリアンヌを呑み込み、世界から消し去った。
 Cの世界── そこに存在する人の無意識の集合体もまた、人の(ことわり)の一つ。人が生きていくための理を壊すことはできない。
 不老不死者であるコード保持者、そしてそのコード保持者から人ならざる力を受け取ったギアス保持者は、普通の人の生から見れば理を外れた存在ではあるかもしれない。しかしCの世界から、そこにある神と呼ばれる人の無意識の集合体からすれば、それもまた理のうちの一つであり、壊すものではない。ゆえに存在し続けるのだ。
 そうしてシャルルたちの計画は敗れ、今日もまた、そして明日も、その先も、Cの世界から新たな生命が現世に生まれ、現世で死んだ魂がCの世界に還ってくる。人の魂は、人の知らないところで、Cの世界を中心に回帰し続ける。人という存在自体が()くなるまで、永遠に──

── The End




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