閑 話 【1】




 神聖ブリタニア帝国の帝都ペンドラゴン、そこにある広大な宮殿内の玉座の間と呼ばれる大広間には、今、三人の男だけがいた。
 第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニア、エリア11のテロリストであるゼロを捕まえたことの褒章としてナイト・オブ・ラウンズの地位を要求する第3皇女ユーフェミアの選任騎士であった名誉ブリタニア人の枢木スザク、そしてそのスザクによって仮面を剥がされ、拘束服を纏わされた上で床に抑えつけられているゼロことルルーシュ・ランぺルージ、否、帝国の元第11皇子にして元第17位皇位継承者であったルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
「シャルル・ジ・ブリタニアが刻む、新たな記憶を──
「やめろおぉ───── っっ!」





 シャルルがスザクにラウンズの地位を与えることを告げて下がらせると、玉座の間にはシャルルと倒れ伏しているルルーシュの二人だけとなった。
「大事ないか、ルルーシュ」
 シャルルがそう声をかけると、拘束服を纏わされているためにぎこちなく起き上ったルルーシュが、一、二度、軽く頭を振った。
「ええ、スザクが思い切り抑え付けてくれたので体の節々に痛みはありますが、それ以外は」
 シャルルが右手を上げて合図を送ると、奥から近侍の者が二人やってきた。そのうちの一人は皇族用の金糸の縫い取りが入った豪華な黒の衣装一式を手にしている。
 手の空いている方の近侍の者がルルーシュの拘束を解くと、ルルーシュはその場でもう一人の持ってきた衣装に着替え始めた。
「ナナリーはどうしています?」
 着替えながら、ルルーシュがシャルルに尋ねる。
「今はアリエスの離宮だ、心配はいらぬ。そなたの身を案じながらも元気にやっておるよ。会ってゆくか?」
「いえ、やめておきます。記憶に齟齬が起きてしまうでしょう?」
 着替え終えたルルーシュがシャルルに歩み寄る。
「それより、本当に計画を進めてよろしいので?」
「構わん。嘘のない世界を、と誓いながら、先に嘘をついたのは兄さんの方だ。その時点で契約は破棄された」
「分りました。ならば予定通り進めます。とはいえ、これからは今まで以上に色々と苦労しそうですがね」
 苦笑を浮かべながら、ルルーシュはシャルルに応じた。
「済まぬな、そなたにばかり苦労をかける」
「仕方ありません。父上とあの母上の間に生まれた運命(さだめ)と諦めていますよ」
 シャルルは右手をルルーシュの頬に当てた。ルルーシュを見つめるその眼差しは、他の者が見たら、これがあの弱肉強食を謳うシャルルと同一人物かと思う程に慈愛に満ちている。だがそれもシャルルにとってみれば、誰よりも愛したマリアンヌの面影を色濃く残しているルルーシュが相手であれば、極当然のことなのだが。ましてや直接(まみ)えるのは、ルルーシュとナナリーを日本に送り出して以来なのだから。
「スクリーン越しには何度も会っているが、こうして直接会うのも触れるのも、考えてみれば7年振り。大きくなったな。それにますますマリアンヌの面差しに似てきおった」
 笑みを浮かべながらのシャルルのその言葉に、ルルーシュはクスッと小さく微笑(わら)った。
「そちらの用意が整うまでは枢密院に詰めています。あそこが今の俺にとっては一番安全ですから。それに、こちらとしてもスクリーン越しでしか会っていないシュトライト伯たちに会っておきたいですからね」
「用意ができ次第、そちらに連絡を入れよう。また暫しの別れだな。用意が整ったと連絡をやればそのまま()つのであろう?」
「ええ、そのつもりです」
「枢密院まで送らせよう」
「ありがとうございます。それでは父上、次に会うまでご健勝で」
 ルルーシュのその言葉を最後にシャルルは奥へと姿を消し、ルルーシュは近侍の者と共に玉座の間を後にした。





 エリア11で仮面のテロリスト、ゼロが復活するのはそれから1年後のことであった。

── The End




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