始まりは何時だったのかと振り返って考えるならば、それはルルーシュの実母であり、皇帝の第5皇妃であったマリアンヌ死亡した時だろう。その死が何者によるものであるかは別にして、それが第11皇子たるルルーシュにとって、事の始まりであるのは間違いない。
母の死と、襲撃に巻き込まれて負傷した妹ナナリーの入院治療を受けて、ルルーシュが父である皇帝シャルルに謁見する前夜、宮殿の地下を縦横無尽に走る地下道を通って、極秘にルルーシュを訪ねてきた者があった。
翌日、皇帝との謁見の時、ルルーシュは、
「生まれた時から死んでおる」
と皇帝に言われ、そしてまた、ナナリーと共にいずれ開戦することになるであろう日本に送られることが決まった。
さしずめ、そこまでが序幕、といったところだろうか。
皇帝直属の諮問機関である枢密院には、色々と秘密も多い。
貴族年鑑や皇籍などの原本は、基本的に枢密院の書庫にあるのだが、それは表に出回っているものと多少違っていたりする。
例えば、マリアンヌ皇妃の死によって爵位を奪われたはずのアッシュフォード家が未だ大公爵家として載っていたり、日本開戦の折りに亡くなったとされる第11皇子ルルーシュと第6皇女ナナリーがまだ生存し、皇位継承権を持っていることになっていたり。
もっとも、それを知るのは枢密院の議長をはじめとする者たちだけで、決して他言はされないために、枢密院関係者、それも議員たち以外は誰も知らないのだが。
第一幕は、皇帝から枢密院のトップである枢機卿への一言で始まった。
曰く、「エリア11を総督の第3皇子と合わせてなんとかしろ」と。
エリア11── かつての日本── は、他のエリアに比べてテロが多く横行している。それは総督たる第3皇子クロヴィスの無能のせいでもあり、テロの鎮圧と合わせて処理をしろというのだ。
もちろん、本来の枢密院の業務からは外れていることなのだが、皇帝の命令とあればやらざるを得ない。幸いなことにその手段は任されている。
そしてその命令の下、枢密院は動いた。
すなわち、エリア11総督たる第3皇子クロヴィスの暗殺と、テロ組織をある程度纏めあげた上での、殲滅作戦である。
その後、新たに任命された総督は第2皇女のコーネリアであり、彼女は妹の第3皇女ユーフェミアを副総督として連れてきた。そのエリア11副総督であるユーフェミアの突然の乱心によるイレブン虐殺に始まる、後にブラック・リベリオンと呼ばれる、エリア11最大のテロ組織である黒の騎士団を中心としたイレブンと、“ブリタニアの魔女”の異名をとる第2皇女コーネリア総督をいただくブリタニア軍の戦闘は、当初は黒の騎士団、つまりはイレブン側が優勢だったが、黒の騎士団の司令たるゼロの突然の戦線離脱後、所詮、正規軍ではないテロ組織だけに徐々に押され始め、やがてあっという間に、コーネリアの負傷を受けて途中から指揮を受け継いだ彼女の選任騎士であるギルフォード卿の指揮の下、そして更には本国からの援軍を受け、統制のとれたブリタニア軍に絡めとられた。
やがてブリタニア側からゼロ捕縛と、それに続く処刑の報が入り、第一幕は終了した。
第二幕は、ゼロの復活から始まった。
ゼロが最初にしたことは、ブリタニア側を挑発して捕らえられていた黒の騎士団のメンバーたちを救い出すことだった。ちなみにゼロ復活の際に、出撃した代理総督のカラレス将軍は死亡している。
そして新総督として新たに赴任してきた第6皇女ナナリーが、死亡した異母姉ユーフェミアの提唱した“行政特区日本”を自分の手で今度こそ成功させる、との言に、ゼロは姦計を用いて100万というイレブンを引き連れてエリア11を後にし、中華連邦に引いてしまったのである。
その後、ブリタニアの第1皇子と中華の天子との結婚を阻み、中華を自分たち黒の騎士団側に引き込み、それだけではなく、他の多くの国々を巻き込んで対ブリタニアのための組織として、超合集国連合を創り上げ、黒の騎士団をテロリストではなく、超合集国連合の外部機関、つまりれっきとした軍事組織としたのである。
超合集国連合の最初の決議は日本の奪還。黒の騎士団はトウキョウ方面軍と本隊のキュウシュウ方面軍の二つに分け、戦闘状態に入った。
しかしその戦いの中、ブリタニアは第2次トウキョウ決戦において自国の多数の民間人をすら巻き込む大量破壊兵器フレイヤ弾頭を投下し、巨大なクレーターを造り出し、戦いは膠着状態に陥った。
そんな中、黒の騎士団の旗艦である斑鳩において、特使として訪れた帝国宰相シュナイゼルと、ゼロを抜かした騎士団幹部たちとの密談が行われ、幹部たちは日本返還と引き換えに、ゼロをブリタニアに売り渡した── 正確には殺そうとした── のであるが、あと少しというところでゼロは逃亡に成功し、舞台は第三幕を迎えることになる。
黒の騎士団からゼロ死亡の報が出されてからおよそ1ヵ月後、ブリタニアに異変が起きた。
日本侵攻の際に死亡したとされていた第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、第99代皇帝として現れたのである。皇帝となったルルーシュは、それまでのブリタニアの旧弊を悉く打ち壊していった。そうしてブリタニア本国の反体制派を打倒し、舞台は再び日本へ戻る。
ルルーシュは超合集国連合への参加を表明したが、そのための会談は決裂し、しかもその間に本国の帝都ペンドラゴンに対して、リミッターの外されたフレイヤ弾頭が投下されたのである。それはルルーシュの実妹ナナリーを皇帝とする帝国宰相シュナイゼルによるものだった。シュナイゼルは黒の騎士団を味方── という名の駒── につけ、ルルーシュ率いるブリタニア軍と対峙した。
アンチ・フレイヤ・システムの開発に成功し、シュナイゼルたちのいる天空要塞ダモクレスを急襲、その身柄を拘束してダモクレス── つまりはフレイヤ── を手にしたルルーシュは、超合集国連合参加どころか、世界の覇者となったのである。
そして終幕。
皇帝直轄領となったエリア11たる日本、その中心であるトウキョウ租界の大通りをパレードするルルーシュの前に、2度目の復活を果たしたゼロが立ち塞がる。
護衛する者たちの発する銃弾を交わし、ルルーシュに迫ったゼロは、その手にした剣でルルーシュの体を刺し貫いた。
── 父上、これで私とあなたの望んだ平和な世界が訪れるでしょう。よくやったと、褒めていただけますか……?
全てはマリアンヌ死亡後の謁見の前夜に決めたこと。
父と母、そしてコード保持者である父の双子の兄は、嘘のない世界を創ろうと、“アーカーシャの剣”で神を殺す計画を立てた。しかし双子の兄はマリアンヌのために変わりゆく弟に懐疑的になり、マリアンヌを殺害して弟に嘘をついた。嘘のない世界を望んだ兄が嘘をついた時、シャルルの世界は変わった。しかしもう後戻りはできない。だからシャルルは望んだのだ、ルルーシュが自分たちの目的を達すること、ブリタニアという国を破壊し、新しい“優しい世界”を創り上げることを。
父の望みと苦悩を知って、ルルーシュはそれを果たすためにゼロとなり、ブリタニアを壊すために動いた。少なくとも、旧態依然とした、力が全てと、弱肉強食を謳うブリタニアは破壊できたと思いたい。
ルルーシュの意識が戻ったのは、本国のかつての、そしてまた新たな帝都となったヴラニクスにある枢密院の奥の部屋だった。
自分を見つめてくるC.C.、ジェレミア、シュトライト伯の顔に、ルルーシュは自分が生きていることを悟った。
「どういうことだ?」
「どうやらCの世界で、シャルルの持っていたコードがおまえに継承されたらしい」
「なんだそれは! これからもこの国の面倒を見ろってことか、あのクソオヤジ!!」
── The End
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