ペンドラゴンの中心部から150Kmほど離れた所に、かつての帝都── ヴラニクス── がある。古い都市ではあるが、かうてペンドラゴン以前の帝都だっただけあって、大きく、まだそこに本社を置く会社もあるため、さすがに現在の帝都たるペンドラゴン程ではないが、活気はさほど失われてはいない。ある意味、ビジネスにおける、帝国内第2の首都のような状態にあると言える。
第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアから第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに代替わりして程なく、枢密院議長シュトライト伯爵に、上司であるで枢機卿から内密の命令が出された。
すなわち、古都ヴラニクスへの移転である。
「猊下、確認させていただきたいのですが、この枢密院だけが、ヴラニクスへ移転、ですか?」
「そうだ。本当は全面的にやりたいんだがな、それだと派手になり過ぎて、移転する意味が無くなる」
「どのような理由か、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
何時もの通りに枢機卿の執務室でスクリーン越しに対話は行われている。
「シュナイゼルが行方を晦ましている。水面下で何か事を起こそうとしているとみて間違いない。その場合の狙いは、おそらく、皇帝が帝都を離れ、今は中立地帯になっている日本に行く時と見て間違いないだろう。そしてその際の目的地は、十中八九帝都ペンドラゴンとなるだろう。だからそうなる前に、内密に引っ越しだ」
「我が枢密院だけよろしいので?」
枢機卿が言葉にした以上、皇帝が日本に行くのはすでに決定事項だ。
「先にも言ったろう。全面的に移転したら、移転がバレて、今度はヴラニクスが攻撃対象になる。ただ、他の官庁の情報が全て失われるのも困る。
とりあえず、ヴラニクス内の何処かのビルを買うか借りるかして、そこにスパコンを入れ、他の諸官庁の情報も可能な限り吸い上げろ。ハッカーを使っても構わない。
どのような攻撃を仕掛けてくるかまでは分からないが、とにかく枢密院だけは全面的に移転する。ただし、移転とあからさまに分かるような状態では行うなよ。
それから、他の諸官庁からも数名ずつでいいから、優秀そうな奴を引き抜いて一緒に移転しろ。情報を吸い出しても、その内容が分からなければ意味がない」
「畏まりました」
スクリーンに向かって頭を垂れながら、シュトライトは大変な事になったと思った。
とにかく誰か人をやってまずはヴラニクスの不動産を当たらねば。それから情報と書類の整理と、ああ、家族の、枢密院の職員ももちろん含めて引っ越しを考えねば。となると、できるだけ大きなビルにして全員入れるようにするのが一番か。
これからの作業を考えて、シュトライトの頭の中で色々と計算が行われていた。
ルルーシュが皇帝として即位してから数ヵ月後、超合集国連合の臨時最高評議会出席のため、エリア11── 日本── に向けて出発し、評議会が行われているその最中、帝都ペンドラゴンに対して、シュナイゼルはリミッターを外したフレイヤ弾頭を投下した。
リミッターが解除されていたために半径100Kmに渡って消滅したペンドラゴンを衝撃をもって目にしながら、枢密院の者たちはのんびりと、かつ慌てて、買い上げたビルの中で新たな作業に追われていた。
── The End
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