後日談




 神聖ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが亡くなってからおよそ半世紀。
 現在ではブリタニア連邦共和国と名を変え、かつてのエリアは独立を果たし終えた。しかし中にはそのままブリタニアの支配下にあることを望み、ゆえにそれらの国は属州として存在した。その数4ヵ国。結果、現在は元々の北ブリタニア大陸の領土が60州に分けられ、他にその4ヵ国を加えて64州から成り立っている。
 各州は州政府によって運営され、それを首都ヴラニクスにある中央政府が纏めるという形で、かつての弱肉強食を謳っていた頃とは雲泥の差である。
 しかしかつての帝国時代から,、今尚残っている組織が一つだけ存在している。
 それが中央政府、国家元首たる大統領直接の諮問機関たる枢密院である。構成人員は帝国時代よりも若干増えて、議長、副議長を含めて15名。その多くは過去において爵位を有していた者たちであり、実費の他に特に給与が支払われているわけではなく、いわば名誉職── 実際に、現在でも爵位付きで呼ばれているのが実情── である。とはいえ、中央政府の議会である上院と下院が揉めた時や、州同士の間で揉め事が起きた時などに、調停役として確実にそれなりの権威と権力を有し続けている。
 連邦共和国となったブリタニアは、かつてテューリアン男爵によって提唱された、後にテューリアン主義と呼ばれることとなった、他国に干渉しない、されないを通すようになり、植民地であった旧エリアが復興し、独立を為し遂げていくのに比例して、内に籠るようになっていた。
 しかしそれが功を奏したのが超合集国連合の瓦解時の揉め事に際してであった。
 元々その超合集国連合の目的が対ブリタニアであったため、そのブリタニアの最後の皇帝となったルルーシュが殺され、当時の枢密院の指導の下、ブリタニアが穏健な連邦制の共和国となったことで、超合集国連合としての存在そのものの理由が失われてしまったのだ。これにより力のある国から脱退が相次ぎ、遂には超合集国連合は瓦解、時にはかつての超合集国連合の加盟国だった国同士で相争う状態にまで陥った。しかし独立独歩の道をとったブリタニアは、それらの事柄に巻き込まれることなく、内政に専念できたのである。
 しかし半世紀も経てば状況は変わってくる。果たして何時までもこのままテューリアン主義を続けていていいものか、そろそろ他国にも目を向けるべきではないかと、大きく二つの派閥に分かれつつあるのが現状である。
 そして最近になって、とうとう大統領がこの件に関し、枢密院に対して諮問するように依頼をしてきた。
 ところで、枢密院には共和国になって以降、歴代の議長と副議長しか知らない存在がある。
 枢機卿である。
 帝国時代もその存在は秘されている事が多かったが、共和国制度になって尚一層、その傾向は強くなり、今ではその存在を知っている外部の者は存在しない。つまり、大統領でさえも知らないのである。
 枢密院議長ガーランド子爵は、枢密院で合議の後、慣例に従って枢密院の奥の間を訪れた。
「また何か揉め事でも起きたか?」
 奥の間の更に一番奥の椅子に腰かけた枢機卿が、足を組み換えながらガーランドに問いかけた。
「はい、猊下。揉め事、というのとはいささか異なりますが、テューリアン主義に関しまして」
「続けるか否か、か?」
「御意」
「半世紀も経っているというのに、今だにこいつに頼るのか、おまえたちは」
 枢機卿の隣で床に座っていたライトグリーンの髪をした少女が呆れたように言葉を挟んだ。
「おそれながら猊下がこうしてあられる限り、我らの従うべき枢機卿猊下であらせられますがゆえに」
「世界情勢もだいぶ落ち着いてきているようだな」
「はい」
「ならば一度にではなく、近隣諸国から少しずつ門戸を開いていけば良いだろう。急がず、慌てず、相手の様子を見ながらな。他には?」
「ございません。では猊下の仰せのままに大統領に回答致します」
 そして一礼をもって、ガーランドは奥の間を後にした。



 二人きりになった奥の間で、少女が猊下と呼ばれていた、まだ少年と言ってもいい姿の相手に声をかけた。
「おいルルーシュ、何時まで此処にいるつもりだ? 此処にいる限りこの状態が続くぞ」
「別に構わんさ。それよりおまえこそ、俺に付き合っている必要はないんだぞ、C.C.」
「私は魔女で、おまえは私の魔王だろう? おまえ以外の魔王はいらない。だからおまえが此処にいると言うなら私もいる。それだけだ。
 そういえば、確か少し前に日本に亡命していたシュナイゼルが死んだらしいな。コーネリアとナナリーもそう長くはないだろう、年齢的に。いや、ナナリーはもうちょっと先か?」
「どうなろうと俺の知った事ではない。コーネリアは俺にとって異母姉(あね)であり、ナナリーは母も同じ実妹だが、フレイヤの投下とフジ決戦ですでに関係は終わっている。ナナリーは実の兄である俺よりも異母兄(あに)であるシュナイゼルの言葉(うそ)を信じ、俺を詰めって敵と決したのだから。あの時から俺は一人だ」
「おまえ、人の話を聞いてないだろう。おまえがいる限り、私は何時までもおまえの傍にいると言ったばかりだぞ」
「そうだったな」
 苦笑するルルーシュに、C.C.は彼の肩に腕を回して唇を重ね合わせた。

── The End




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