ナナリーに呼ばれた茶会の途中で席を立ったルルーシュとユーフェミアだったが、ルルーシュはユーフェミアに言われた通り、ユーフェミアを彼女の離宮まで送っていった。
そのまま帰ろうとするルルーシュに、ユーフェミアが声をかける。
「せっかく来たんですもの、ゆっくりしていって。今お茶の用意をさせるわ」
少し考えてから、ルルーシュは同意した。
「そうだね、そうさせてもらおうか。ナナリーの茶会では結局何も口にしなかったし」
「そうね」
微笑しながら頷いたユーフェミアは、ルルーシュをテラスの方に誘い、侍女に茶の支度を命じた。
「それにしても、ナナリーもスザクも今日はおかしなことを言っていたわね」
「そうだね。もしかしたらSFとかである並行世界のようなものがあって、そこでナナリーたちの言っていたようなことがあり、たまたまナナリーたちにはその記憶がある、とかかもしれないが、それをこちらも同じだと勝手に思われるのは困るな」
「そうね。面白い話ではあるけれど、そして実際に私はスザクを私の騎士に任命はしたけれど、私にはナナリーたちが言うようなそんな記憶はないもの」
「それよりもユフィ、君の騎士は何時もあんな調子なのかい?」
「あんなって?」
「君を愛称で呼んで、他の皇族を呼び捨てにしたり」
「私のことは、ユフィと呼んで、と言ってはあるけど、他の皇族を呼び捨てにしたりしたのは今日初めて見たわ」
「それは少し考えた方がいいね、君のためにも。主と騎士は仕えられる者と仕える者、はっきりと区別される。そこに信頼関係はあるが、友誼はない。君にとってあの騎士が恋人だとか友人だとか言うなら、本当に二人だけでいる時だけなら愛称呼びもいいかもしれないが、それでは騎士とは言えない。ましてや他の皇族を、まあ、今回の場合は彼らの言う記憶とやらと関係しているのだろうけど、呼び捨てにするのは問題だ。皇族を皇族と思っていないということになる。そしてそれが他の者たちの耳に入ったら、彼を騎士にしている君の評価が下がってしまうことになる。注意すべきだよ。できるなら、彼に自分を愛称で呼ばせるのは止めさせた方がいいと僕は思う」
ルルーシュが話をしている間に、用意された紅茶と、茶菓子としてケーキが出された。
ユーフェミアはルルーシュが話している間、じっと彼の言葉に耳を傾けて、その後、出されたケーキを口にしながら考え込んだ。
ルルーシュの言うことはもっともなことだ。自分のスザクに対する対応は甘かったのかもしれない、とユーフェミアは思った。
「そうね、確かにあなたの言う通りだわ、ルルーシュ。エリア11にいた時は、彼はシュナイゼルお異母兄さま直属の特派が持つ第7世代KMFのテストパイロットでもあって、エリアを安定させて人々が安心して仲良く暮らせるようにと同じ考えを持つ同志のように考えていたから、二人でいる時は愛称のユフィと呼んで、と言ったけど、今日のようなことがあると、考えてしまうわ。彼があなたやナナリーのことを馴れ馴れしく呼び捨てにしているのは、とても不自然なことだもの」
「君にその気があるのなら、いっそのこと、騎士を解任することをお勧めするよ。それでなくてもナンバーズ上がりの名誉を騎士にしているということだけで君に対する評価は落ちてしまっている。人を人種で差別することは、僕個人としては推奨しないが、このブリタニアでは、純ブリタニア人と被支配民族であるナンバーズはきっちりと区別する。それが国是だからね。そういった点から考えれば、君が名誉である彼を騎士としたことは、周囲からはそうそう認められることではない」
「そうなの?」
「そうだよ、気が付いていなかったのかい?」
ルルーシュは紅茶を口にしてから頷いた。
「ナンバーズ、イレブンの出である彼には、ブリタニアの騎士の在り方はそう簡単には理解できないのだろう。彼の、今はもうないが、故国にはない制度だからそれは仕方のないことではあるが。KMFのデヴァイサーとしてなら適性の問題もあるから、それで選ばれたのだろうし、まだ仕方ないもしれないが、皇族の騎士になるということは、同じ騎士といっても全く意味が違う。君はもう少し考えたほうがいい」
紅茶の入ったカップを手にしたまま聞いていたユーフェミアは、ゆっくりとカップをソーサーの上に戻した。
「……そうね、確かにあなたの言う通りだわ。スザクのことはもう一度考え直してみた方がいいのかもしれないわね……」
先刻のアリエス離宮でのスザクの態度を思い出しながら、ユーフェミアは少し落ち込み気味にそうルルーシュに返した。
「ねえルルーシュ、もしスザクを私の騎士から解任したら、彼の立場はどうなるの?」
不思議に思ったことをルルーシュなら答えてくれるだろうと考えて、ユーフェミアは問いかけた。
「ただの名誉ブリタニア人だね。本国に来るにあたって、軍も除隊しているのだろう?」
「軍は、どうなのかしら、聞いたことがないけれど」
「軍を辞めていなければ、君の騎士として君の傍にいることはできないはずだから、彼の方から申し出なくても、軍の方で退役扱いにしていると思うよ。彼が自分から言い出していないなら、もしかしたら彼自身はまだ軍に籍があるつもりでいる可能性も否定できないけれどね」
「そうなの。……そういうことを知らないところが、私がお飾りだって言われてた原因の一つなのかしら……?」
「きつい言い方になるけど、そうだろうね。君は異母姉上にあまりにも溺愛されて育てられたから、この宮廷の醜い争い事や、世間のことを少しばかり知らな過ぎるところがあるからね」
「……確かにそうね、あなたの言うことは否定できないわ……」
少し考え込んでから、ユーフェミアは再び口を開いた。
「もし本当にスザクを私の騎士から解任したら、彼はどうなるのかしら?」
ユーフェミアは再び問い返した。
「エリア11に戻るか、……もしかしたら先程の様子からすると、ナナリーが彼を拾うかもしれないね。そうなると今度はナナリーの評価が下がり、彼の評価もまた更にぐんと下がることになるね。騎士にとって主は一人きりだ。それを右から左にすぐに変えるような者は、ブリタニアの騎士とは言えない」
残っていたケーキを頬張りながら、ユーフェミアは考え込んだ、スザクのことをこれからどうするべきか。どうしたいのか。だがそう簡単に答えは浮かばなかった。
咀嚼して紅茶を口にしてから、ユーフェミアはルルーシュに伝えた。
「スザクのこと、もう一度ゆっくり考えてみるわ」
その言葉に、ルルーシュは微笑みながら返した。
「君にとってより良い答えが出るように期待しているよ」
「ありがとう、ルルーシュ。私の評価がどうとか、そういうことを私にはっきり言ってくれる人っていなかったから、勉強になったわ」
「そんな大したことを言ったわけではないけれどね」
「いいえ、そんなことないわ。あなたは本当に私のことを思って話してくれたもの。だから、私も一生懸命考えて結論を出すわ。今日のことは、その点ではいい機会になったのかもしれない」
「何事も勉強だと思って事にあたるのは悪いことではないね」
「ええ。私はとにかくもう少し世の中のことを勉強すべきだということが分かったわ。あなたのお蔭よ、ルルーシュ」
笑顔でそう告げるユーフェミアに、ルルーシュは微笑んで見せた。
その後はお互いの日常のことを話したりして楽しい一時を過ごし、ルルーシュはユーフェミアの離宮を後にした。
それから数日後、ユーフェミアはスザクを己の騎士から解任し、ある種自由の身となったスザクを、ナナリーが己の元に呼び寄せた。それがナナリーとスザク、互いの宮廷内での評価をどれだけ下げるかも分からぬままに。
── The End
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