一日総督




「リヴァルく〜ん」
 とても機嫌が良さそうにミレイが生徒会室に入ってきた。
「何ですか、会長?」
「はい、これー」
 そう言って、リヴァルの前に一枚の紙を差し出す。
「一日総督致しませんか?」
 リヴァルは渡された紙の見出しをそのまま読み上げた。
「そう。何でも副総督の案で、市民との交流を図るため、一日総督ってのをやるらしいのね。それで我がアッシュフォード学園からリヴァル君を推薦してみましたー」
「へ?」
「推薦人は会長である私を筆頭に学園の生徒ほとんど。おかげでダントツ一位でリヴァルが一日総督に決定! 新聞部にも属してることだし、いい機会だから政庁を取材してきて」
「取材って、会長……」
 リヴァルをはじめ、生徒会室にいた者たちはミレイの言葉に呆気にとられていた。いくらイベント好きとはいえ、ものには限度があるだろう、というのが皆の心の中の声である。ついでに言うなら、ルルーシュは自分でなくて良かった、というものもあった。
「会長〜、幾らなんでも無理ですってー」
 リヴァルの声には泣き声が入っていた。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんとこのミレイさんが補佐してあげるから」
 そう言って、ミレイはリヴァルの両肩をバンバンと叩く。
 会長の補佐、つまり会長と二人……、その考えにリヴァルは少しだけ浮上した。しかし少しだけなので、やはり無理ですよー、と机に懐く。
「もう決定しちゃったことだから、いまさら取り消し不可! だいたい決行日は明日! キャンセルは無理!」
 ミレイは腰に手をあて、えっへん、とばかりに言い切る。
「それじゃあ余計無理ですよー、何の準備もできないじゃないですかー」
「準備なんて必要ないわよ。元々政庁主催のただのイベントなんだから。気を大きく持って。うん、君ならできる。明日君が持っていくのは取材のためのカメラと録音機と筆記用具だけ!」
 どこからその自信が出てくるんだ、と皆思ったが、誰も口には出さなかった。ただ、生贄の子羊となったリヴァルに対しての同情と、頑張れ、との応援だけである。
 実際、副総督提案のこのイベントは僅か10日ほど前に急遽決まったようなもので、それにイベント好きのミレイが逃す手はないと乗っかっただけである。
 元々政庁側としても大して期待をしているわけではない。ただ、行政を市民に少しでも身近に感じてもらえればもっけの幸い、くらいのものである。
 そして翌日、肩を落としたリヴァルは、意気軒昂なミレイと一緒にアッシュフォード学園を後にした。
 政庁に着いた二人は、説明を受けて執務室に入る。
 執務室では総督のコーネリアと副総督のユーフェミア、そしてそれぞれの騎士が控えていた。
 ユーフェミアの騎士であるスザクの存在に、リヴァルは少しだけ浮上した。とりあえず、ミレイだけではなく他にも一人、頼りになる知り合いがいるのはリヴァルにとっては大きかった。
「君たち二人が、今日一日、この執務室の主だ。面倒な書類などは私の方で片付けるから特に心配するようなことはないだろう。万一テロが起きた場合も、こちらでフォローするよう準備はしてある。社会勉強の一環と思って頑張ってくれ」
 総督のコーネリアは、相手が学生ということもあって万全のフォローをしいていたらしい。そうしてリヴァルと、その補佐としてミレイの一日総督が始まった。
 しかし、始まってみれば拍子抜けの一言である。実際に裁かなければならない書類は、もちろん一般人にやらせるわけにはいかないと、コーネリアの方に回っているし、ほとんど執務机に付いているだけ、である。
「うーん、なーんかこう、物足りないわねぇ。テロでも起きてくれないかしらぁ」
 ミレイの一言にリヴァルは蒼くなった。
「止めてくださいよ、そんなこと言うの」
「あら、だって実際にテロが起こっても準備は為されてるんだから、リヴァルがどうこうするわけでなし、大丈夫でしょう。ただ話のタネに、テロくらい起きてくれてもいいんじゃないかなー、と思うわけよ」
 とミレイが言い終わったと同時に、政庁に警報が鳴り響いた。
「お待ちかねのテロですよ。ですが心配いりません。幸い黒の騎士団ではないようですし」
 部屋の端に控えていた補佐役が、にっこりと笑って二人に告げる。
 どうやら黒の騎士団の時は警報が違うようだとミレイは思った。でなければ、黒の騎士団ではないとそこまで自信を持って言えはしないだろう。それほどに黒の騎士団と他のテロ組織とでは相手が違うのである。
 実を言えば、一日総督のことが話題になってから、黒の騎士団でも動く準備はしていたのだが、前日になってゼロから、
「一日総督をやるのが表の私の知り合いだと分かった。よって済まないが、今回は見合わせる」
 と連絡が入って急遽取り止めとなったのである。
 黒の騎士団でないなら、わざわざ自分が出るまでもないとコーネリアは騎士のギルフォードと一緒に指令室に移動し、そこから実働部隊を指揮していた。
 総督の執務室は政庁の上階にあるので、そこから煙が上がっているのが見える。
 ミレイは窓辺に寄って、
「いい眺めねー。さしずめあの煙の方向がテロの起こってる所ってわけねー」
 とのんびりと言い放つ。
「会長〜」
 情けない声で呼びかけるリヴァルに、ミレイは、
「なーに情けない声出してるのよ。心配いらないって。何かあればコーネリア総督自ら動くでしょうし、こちらにも何か言ってくるでしょ。大船に乗ったつもりでいて大丈夫よ」
 どっからその自信が来るんですかー、とリヴァルは心の中で呟きながら、外を見る気にもならず執務机に座っていた。それにしてもさすがに椅子の座り心地はいいな、と思いながら。そんなことを思うところをみると、やはり少しはミレイの影響を受けているようではある。
 そんな次第で、テロが一件起きたものの、そう時間もかからずに取り締まられ、結局その日一日、リヴァルは特に何をするでもなく、総督室の執務机にへばりついて終わっただけである。
 とはいえ精神的に疲れ切って学園に戻ってきたリヴァルとは対照的に、ミレイは元気一杯、どころか物足りなさそうだった。
 それって、やっぱり黒の騎士団が出てこなかったからですか? とはリヴァルの心の中の声である。
 ちなみに、取材するまでの心理的余裕はリヴァルにはなかったので、持っていったカメラその他は無用の長物であった。

── The End




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