思 慕




 何故? 何故、神楽耶はゼロ様を信じないの? 信じられないの?
 どうして片方だけの言い分を聞いて、ゼロ様の言葉を聞こうとしないの?
 確かにもうゼロ様はいなくなられてしまったけど、どうして片方だけの言い分で、それを全てだと信じてしまうの?
 あれほどに自分はゼロ様の妻だと誇らし気に言っていた神楽耶が、何故?
 私には難しいことは分からないけれど、でも、戦っている敵が持ってきた資料や言葉だけを信じるなんておかしいくらいは分かる。
 そして敵が自分たちに都合のいいことしか言ってこないのも分かる。
 敵が自分たちにとって都合の悪いことを言ってくるはずがないくらいは分かる。
 なのにどうして、それだけを信じてゼロ様を信じてあげないの?
 ゼロ様と過ごした時間は短かったけど、決して長くはなかったけど、ゼロ様は優しかった。
 ゼロ様の言うことは私には難しくて分からなかったけど、でも、ゼロ様が優しい方だっていうのは分かった。
 もし私にお兄さまがいたら、きっとこんなふうに優しい人だったらいいなと思う。
 そしてこの方は信用できる方だって、大宦官たちとは違うって、それだけははっきり分かった。
 なのに神楽耶はゼロ様をもう信用できないって言う。敵だって言う。
 ゼロ様がブリタニアの皇子だったから?
 でも、なら何故ゼロ様は自分の祖国であるブリタニアと戦っていたの?
 それを知ろうともしないで敵だって言うのはおかしい。
 ギアスという力のことだって、どこまで敵の言うことを信じられるの?
 それに自分たちがかかってるって思うってことは、それだけ自分たちがしてきたことが自分で選んだことじゃないって認めるってことではないの?
 なら、皆、自分で戦うことを選んだんじゃないってこと?
 自分の国をブリタニアから取り戻すために戦っていたんじゃないの?
 ゼロ様によって無理やり戦わされたっていうの?
 そんなのおかしい。
 神楽耶の国を取り戻すために、ゼロ様が自分の祖国と戦う方がおかしい。
 本当にブリタニアの皇子であるなら、ゼロ様には神楽耶の国を取り戻してあげる理由なんかない。
 でもゼロ様は本気でブリタニアと戦っていたって、短い間だったけど、私には分かった。
 私は、お兄さまのように優しいゼロ様を信じたい。
 だから──



「星刻、香凛……」

── The End




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