特区宣言




 アッシュフォード学園の学園祭。
 第3世代KMFガニメデの手の上で、このエリア11副総督であるユーフェミア第3皇女が、マスコミのカメラとマイクに向かって告げる。
「私は神聖ブリタニア帝国エリア11副総督ユーフェミアです。
 今日は私から皆さまにお伝えしたいことがあります」
 朗らかに宣言する。
「私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは、フジサン周辺に“行政特区日本”を設立する事を宣言致します」
 その言葉を聞いた途端、生徒会長であるミレイは、副会長であるルルーシュ・ランペルージとその妹ナナリーの姿を探した。その姿は直ぐに見つかった。ユーフェミアがいる場所からさして離れていない学園祭用に立てられた仮設小屋、その中に身を隠すようにしている。その姿を認めた途端、ミレイは駆けた。
 ドアを開けて中に入り、直ぐにそのドアを閉める。誰も入ってこれないように鍵もかけた。
「ルルーシュ様、ナナリー様」
 二人は、蒼褪めた顔をしてミレイを見た。
「ミレイ……、ユーフェミアに見つかった」
「やはり……」
 そうでなければいきなりこの場であんな宣言はしないだろう。
 外ではユーフェミアの宣言が続いている。
「内緒にしてくれると約束したから、それは大丈夫だと思う。そういうことはきちんと約束を守る()だから」
「ですがあのような宣言……」
「そうだな……」
 ルルーシュは未だ微かに震える手で髪を掻き揚げた。
「本国が認めるわけがない。いや、それ以前に総督であるコーネリアが認めるわけがない」
「総督が認めないってっ!?」
「十中八九、ユーフェミアの独断だ。せいぜい本国のシュナイゼルに相談した程度だろう。そしておそらくシュナイゼルは、副総督としてではなく、単に異母妹(いもうと)のユフィに、いい案だ、とでも言ったんだろう。それもおそらくその本心は、このエリア最大のテロ組織である黒の騎士団の弱体化狙い」
「それではあの宣言は……」
「認められるわけがない。仮にああして宣言してしまった以上、妹可愛さでコーネリアが認めたとしても、上手くいくはずがない。せいぜい、シュナイゼルの思惑通り、エリア内のテロ活動を抑え込むために利用するだけだ。上手くいきっこない。ユーフェミアは自分で自分の死刑宣告書にサインしたようなものだ」
「ではユーフェミア様は……」
「何も分かってない。弱肉強食を国是とし、ブリタニア人とナンバーズをきっちり分けるブリタニアで、彼女が言うような特区が認められるはずがない。仮に認められるとすれば、何か── 皇位継承権辺りと引き換えか。たとえそうであっても、いや、そうであればあるほど、成功するはずがない」
「ルルーシュ様たちはこれからどうなさるおつもりですか? まさか……」
 此処を出て行かれるのでは、とミレイの脳裏を(よぎ)る。
「暫くは様子見、だな」
 ルルーシュは隣で蒼褪めた顔色のままの妹を見やる。
「多分、スザク辺りが特区への参加を促してくるだろうが、俺たちがあんな特区に参加できるわけがないんだから」
「そうですよね」
 様子見といったルルーシュにホッと一安心しながらも、暫く、と付いたことに、いずれは出て行かれるのかもしれないという思いが拭えない。
 お二人のための学園で、しかも学園祭でマスコミを前にあんな宣言をして、学園祭をめちゃくちゃにしたユーフェミア。この学園という箱庭の中に隠れている二人のことを何も考えていない、綺麗なだけの、穢れを知らない、世間を知らない彼女への怒りのみが、ミレイの中で沸々と湧き上がっていく。

── The End




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