流転の先




 初めての任務で、守るべき人を守ることができずに終わってから8年の時を経て、漸く、ジェレミア・ゴットバルトは自分が仕えるべき唯一人の主を見出した。



 ジェレミアが軍人となって最初に与えられた任務は、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの第5皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの住まうアリエス離宮の守衛だった。
 マリアンヌはその美貌もさることながら、庶民から軍人となり第3世代KMFガニメデを駆って“閃光のマリアンヌ”と異名を取り、騎士候にまで登り詰め、遂にはシャルルの皇妃となった女傑であり、多くの軍人から── もちろんジェレミアも含めて── 尊敬と崇拝とも呼べるものを集めていた。しかし同時に、所詮は庶民上がりの下賤な者として、他の皇族や多くの貴族からは憎しみや反感、蔑みを買ってもいた。
 不幸は、ジェレミアが任務に着いた最初の日の夜に起きた。
 アリエス離宮がテロリストに襲われ、マリアンヌはほとんど即死に近い形で亡くなったのだ。
“アリエスの悲劇”と呼ばれるようになったそれが、本当に唯のテロリストによるものだったのか、皇位継承にまつわるものだったのか、様々な憶測や噂が陰で囁かれはしたが、結局は公式に“テロリストの犯行”と公表され、表面上はそれで落ち着いた。
 マリアンヌの遺された二人の遺児── 皇子と皇女── は“留学”という名目の人質として遠い異国の地へと送られた。そして皇帝シャルルは、仮にも自分の子供たちがいるにもかかわらず、その国── 日本── に対して宣戦布告し、侵略戦争を仕掛けた。
 ブリタニアの軍事力は日本と比べて圧倒的であり、僅か1ヵ月ほどで終戦を迎えることとなった。
 そしてその戦争の中、マリアンヌの遺児たちが日本人の手によって殺されたことが知れ、“悲劇の皇族”として有名になった。
 侵略戦争に従軍していたジェレミアは、マリアンヌだけではなく、その遺児をも守れなかったことを深く嘆き、自分の力の無さに歯痒さを感じることを止められなかった。
 戦後、エリア11となったかつての日本に改めて派遣されたジェレミアは、ナンバーズ── イレブンと呼ばれるようになった日本人に対して、少しでもブリタニアに抵抗する者に対しては激しい弾圧を強いていった。それはまだ幼かった皇子皇女を殺した日本人への恨みもあった。
 純血派に属し、また、辺境伯という身分もあって、ジェレミアは軍の中で頭角を現していった。
 そうして順調に進んでいた中での躓きは、一人のテロリストとの出会いだった。
 その人物はエリア11総督クロヴィス・ラ・ブリタニア第3皇子の殺害容疑者として、名誉ブリタニア人である枢木スザクを連行している途中に、ジェレミアたちの目の前に現れた。
 その人物は奇妙な仮面を被り、“ゼロ”と名乗って、自分がクロヴィス総督を殺したのだと告げた。
 そしてその後のことはジェレミアは覚えていない。ただ、枢木とゼロと名乗った反逆者に見事に逃げられた。なんという失態か。そしてあらぬ嫌疑までかけられた。
 失態を晴らすべく臨んだナリタ連山の戦いでは、敵の新型KMFにしてやられた。
 その後の記憶もまた朧だった。
 かろうじて覚えているのは、ブラック・リベリオンにおいてゼロを追いつめながらも取り逃がし、海底に沈んだことだ。
 そしてどういった経緯か、ジェレミアはギアス嚮団という謎の組織において人体改造され、エリア11へゼロことルルーシュ・ランペルージ、否、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアへの刺客として派遣されたのだ。
 今、ジェレミアの目の前にそのゼロことルルーシュがいる。
 今のジェレミアにははっきりとした意識があった。そして何よりも確認したいことがあった。
 亡くなったとされていたルルーシュ殿下が生きていたことは喜ばしいことではあった。だが、ゼロがルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであるならば、何故、祖国に反逆するのか。
 刺客として放たれた存在ではあったが、ジェレミアにとって今何よりも重要なのは、ゼロの、ルルーシュの反逆の理由だった。
 その問いに、ルルーシュは、自分が“ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア”であるからだと答えた。
 皇帝が母を守らなかったことが許せず、母マリアンヌ殺害の真犯人とその目的を知ること。そして憎んでやまないブリタニアという国をぶっ壊すことだと。
 そしてジェレミアは知った。自分の忠義が終わっていなかったことに。
 今目の前にいる亡き者とされた皇子に尽くすことこそが、最初の任務で果たせなかった忠義を果たすことになるのだと。
 ジェレミアは漸く、その流転の終着点を見つけた。これから先、何が待っていると知れずとも、自分の全てを懸けてこの皇子に仕えるのだと。

── The End




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