どうしてあの方を信じることができなかったのでしょう。自分からあの方の妻と名乗りながら。
あの方が何者なのか、その正体は教えてくれませんでしたが、桐原は、あの方は、あの方の心── ブリタニアに対する憎しみ── に間違いはない、だからあの方の活動に援助を行うと告げていたのに。 なのに私は桐原のその言葉を忘れ、ただあの方を批難し、殺そうとした者たちの声、しかもそれは、一方的に敵の大将たるシュナイゼルから齎されたもので、あの方ご自身の言葉など一切なかった、彼らは聞いてもいなかったというのに、そんな彼らの言葉だけを信じてしまった。
幼い頃、開戦前に枢木に預けられていたあの方とお会いし、はっきりとではなかったけれど、それでも、あの方の母国と父親である皇帝に対する思いの一端に触れていたというのに。
私がそれを知ることができたのは、あの方の最期の時。処刑パレードで、ゼロが現れ、そのゼロの剣にあの方が刺し貫かれた時。遠く微かにではあるけれど、あの方がその時にとても綺麗な、満足そうな微笑みを浮かべているのが見えたから。
だから悟ることができた。あの方の、あの方々の真実を、思いを。
あの方はそれまでご自身の責任で流された血と、そして本来ならそんな事をする必要など無かったというのに、先帝の、母国の行ってきた負の行為の全てをその一身に受けて命を懸けられた。そして残った、いいえ、あの方が遺された人々に後の全てを託されたのだ。
どうして分からなかったのだろう。どうして桐原の言葉を忘れてしまっていたのだろう。
気付くのが、悟るのがあまりにも遅すぎた。悟った時には、すでにあの方は息絶えていらっしゃった。
もう遅い。あの方はもう戻られない。戻ってこられることはない。
ならばあの方の思いに気付き、遺された、後を託された私は、あの方の望まれた世界を創るために努力するだけ。それはとても険しい道のりだと思うけれど、それでもあの方が生きてこられた短い人生よりは、おそらくずっと楽な道だろうと思うから。それ程にあの方の人生は苦難に満ちたものだったのだから。せめてその思いを可能な限り受け継いで、繋いでいきたいと思うのです。
あの方の真実の思いに気付くこともできずにいた後悔を抱きながら、決して長いとは言えないけれど、あの方と共にあった、共に過ごした日々の想い出を糧として。
だって、私はあの方の、妻、ですもの。
── The End
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