エリア11というところへ、何も知らず、何の役にも立たないのにプライドだけは高いお姫さまが副総督という立場で総督の姉姫と一緒にやってきました。
そしてやってきた早々、お城を飛び出して周りの者を慌てふためかせました。
侍従や侍女、兵士たちが一生懸命になってお姫さまを探し回っている間、お姫さまは一人のナンバーズ、いえ、名誉ブリタニア人の少年と知り合ってのんびりと街の中をお散歩としゃれこみ、その間に純血派と呼ばれる派閥の揉め事に首を突っ込み、何事もなかったかのようにお城に帰っていきました。
「おい、例のお姫さま、昨日は無事にご帰還あそばしたのかい?」
「ああ、らしいな」
「けど、どうやら純血派の揉め事に首突っ込んだらしいぜ」
「それはそれは。来た早々とんだ武勇伝だ」
「しかしそのおかげで何人もの人間が配置換えだぜ、本人たちには何の責任もないのに可哀想に」
「心にもないことを」
「とはいえ、赴任早々これじゃ、先が思いやられるってもんだぜ」
「せいぜい自分たちがかかわりにならないことを願うしかないな」
ある日、お姫さまは亡くなった異母兄の名をとったクロヴィス美術館の絵画コンクールの授賞式に参列しました。
授賞式の前にマスコミの会見が行われましたが、お姫さまはほとんど何も答えられず、いたくプライドを傷つけられました。
何も知らないのは私のせいじゃないわ。誰も何も教えてくれないからよ。だから何も答えられないのに、なんで私が無知のように言われなきゃいけないの、と。
そんなふうにして会見を終えた後、授賞式会場に場所を移しました。
そしてお姫さまが受賞作を前に悩んでいる時、会場内に設置されたスクリーンに、ある基地での戦いの様子が映し出されました。
お姫さまの教育係の将軍はすぐに切るようにと言いましたが、お姫さまが最後まで見届けたいと仰って、スクリーンは点いたままになりました。
やがて味方の白い騎士のコクピットの上部が切られ、中のパイロットの姿が見えました。なんとそれはお姫さまが以前にお忍びで街に出かけた時に出会った少年でした。あの後、学校に行っていないというその彼のために、民間の学園に通えるようにしてやっていた少年でした。
周りの者たちは、なんでイレブンが、と罵り、野次を飛ばします。
それに耐えきれなくなったように、お姫さまは言いました。
「私が騎士とするのはあそこにいる方、枢木准尉です」と。
「おい、聞いたか?」
「あのお姫さまの騎士の件だろう」
「朝からその話題で政庁内はもちきりだぜ」
「なんだってよりによってナンバーズ上がりの名誉なんかを選ぶんだか」
「イレブンって蔑む周りに憐れんだんじゃないのか? 会見で何も答えられなくて凹んでたらしいから、その自分と重ね合わせたとか」
「ああ、それはありうるかもな。何せ、“慈愛の姫”さまらしいからな」
「“慈愛”じゃなくて“自愛”じゃないのか?」
臣下の官僚たちが自分のことをそんなふうに言って嘲笑していることも知らず、お姫さまは自分の仕事に励んでいました。といっても、お姫さまの仕事は将軍が目を通して許可したものが回ってくるので、それにサインをして判を押すだけです。たまに中身に目を通してみますが、何のことやら分からず、それに気を取られていたらお茶の時間を過ぎてしまったことがあったので、それ以来、ただ次々とサインをして判を押すだけで、何も学ぼうとしませんし、周りの者もあえて注意はしませんでしたから、それで済んでいました。
それでもお姫さまは考える時は考えるんです。
どうやったらブリタニア人とナンバーズが一緒に仲良くやっていけるのかしらと。自分の騎士がナンバーズ上がりの名誉なので余計にそう考えるのです。
考えて考えて、一緒に仲良くやっていける場所を創ればいいと考えました。
でもそれを相談したのは、本国にいる異母兄君だけで、教育係のダールトン将軍はもちろん、騎士にした少年にも、それどころか自分の上司にあたる姉姫にすらも打ち明けず、心の中にしまっていました。
ある時、騎士にした少年が通っている学園で催されている学園祭に、今度はきちんと数人のSPを連れてお忍びで出かけました。聞いた話では、お姫さまの騎士は大きなピザを作るのが役目だそうです。面白そうです。
そうして出かけた学園で、お姫さまは死んだとばかり思っていた母親の違う兄妹と出会いました。
昔のように仲良く話をしていた時、変装用に被っていた帽子が風に飛ばされて、自分が副総督であることが周囲の者たちにバレてしまいました。
大勢の群衆に取り囲まれるところを、伸ばしている最中のピザの皮を投げ捨てたお姫さまの騎士に救い上げら、助けられました。
そこで、これはいいチャンスだと思ったお姫さまは、心の中にしまっていたことを思い切って打ち明けました。
「“行政特区日本”を設立します」と。
周りの者たちが何を考えているのか、自分の発言がどんな影響を及ぼすのか、お姫さまは何も考えませんでした。ただ、いいことを考えたから、本国の異母兄が「いい案だ」と言ってくれたから、大丈夫、何の心配もないと、自信を持って発表しました。
その発表に、再会したばかりの兄妹が深く傷付いていることも知らないで。
「おい、昨日のあの発表、ホントにやるのかよ?」
「さあな」
「やるんじゃないか? あそこまで大っぴらに発表しちまったものを、いまさらあれは嘘です、間違いです、とは妹姫溺愛の総督には無理だろう?」
「そうなったら俺たちが事務方やらなきゃならなくなるんだろう?」
「なんでブリタニア人じゃなくてイレブンなんかのために働かなきゃならないんだよ」
「何せ選任騎士がイレブンだからな。だからあのお姫さまにはイレブンが大事なんだろ?」
「聞いたところじゃ、その騎士を学校に通わせてるそうじゃないか。しかも特派にも未だ在籍中って。ましてやその特派は、シュナイゼル殿下の設立したものだろう? それのどこが選任騎士なんだよ。どうしてそんなことが許されてるんだよ」
「しかも自分のこと、愛称で呼ばせてるって話も聞いたぜ」
「それじゃ騎士じゃなくて恋人かよ、そのために俺たちは苦労しなきゃならないのかよ」
そして特区設立の日、優しい魔王はきっと参加してくれると信じているお姫さまは、やってきた魔王を笑顔で迎えました。
けれど優しい魔王は誤った呪文── 日本人を殺せ── をかけてしまい、お姫さまは乱心したように日本人を殺し、臣下の兵士たちにもそのように命じました。
優しい魔王はお姫さまを止めるために、手にした銃でお姫さまを撃ちました。
お姫さまは自分の臣下たちが自分のことを何と言っていたか、何も知らないまま、そして優しい魔王の本心を知ることもなく、その命を散らしました。最後まで周りを振り回したままに。
── The End
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