あるところに、何も知らない真っ白なお姫さまがおりました。
自分の日々の生活が何によって賄われているのかも知らないお姫さまでした。
ある時、そのお姫さまは、姉姫と共に副総督という立場でエリア11と呼ばれる地へとやってきました。
でも自分の行動が周りにどんな結果を齎すかも知らない、考えたこともないお姫さまは、勝手にお城を抜け出したりしていました。
その結果、もしお姫さまの身に万一のことがあった場合、周りの者がどんな目に合うのかすら考えたこともなかったのです。
幸いその時は無事にお城に辿りつけはしましたけれど。
ある時、お姫さまはお仕事で美術館に行きました。絵画コンクールで受賞者を決めるためです。
でも本当は、受賞者はすでに決まっていて、お姫さまがするのはその絵に大きな花をつけることだけでした。
けれどそれはお姫さまの気に入った絵ではありませんでした。
なのに何故、その絵を選ばなければならないのか、お姫さまには分かりません。
授賞式の前にマスコミのインタビューがありました。
次々と繰り出される質問に、けれど何も知らない、分からないお姫さまは、何一つ満足に答えることができませんでした。
そしてその後、授賞式の会場に場を移しましたが、お姫さまの顔色は優れません。
その内、会場内に設置されているスクリーンに、ある基地での戦いの場面が映し出されました。
お姫さまの家臣はそれを消させようとしましたが、お姫さまはそれを止めました。
皆、味方の白い騎士を応援していました。
ところが、その白い騎士を操縦していたのがイレブン、名誉ブリタニア人と呼ばれる者だと分かった途端に掌を返したように野次が飛び交い出しました。
お姫さまにとってそれは、ついさっきのマスコミの質問に満足に答えられなかった自分を写し取って見えたのです。
お姫さまはその白い騎士の操縦者を、名誉ブリタニア人と知りながら自分の騎士だと宣言しました。
けれどその陰で嘆いている者がいることなど、お姫さまは知りません。
お姫さまにとっては、それは野次られている騎士── 名誉ブリタニア人── を救っただけのことだったのです。
名誉ブリタニア人を騎士に選んだことが自分の周りにどのような影響を及ぼすか、お姫さまは知りませんし、考えもしませんでした。
ある時、お姫さまは数人の護衛を連れて民間の学校で開かれている学園祭を見に行きました。
そこには自分の騎士もいました。
それどころか、死んだとされていた自分と半分だけ血の繋がった異母兄妹がいることを知りました。
久しぶりの会話を楽しんでいる中、一陣の風が吹いてお姫さまの被っていた帽子を吹き飛ばしてしまいました。
それでお姫さまだということが皆にバレてしまいました。
突然のお姫さまの来場に、周りが騒ぎ始めます。
そんな中、騎士の手が差し伸べられ、お姫さまは取り囲む群衆の中から救い出されました。
丁度会場に来ていたマスコミがインタビューを試みます。
お姫さまはこの前からずっと自分一人の胸の内で温めてきた計画を発表することにしました。
── “行政特区日本”の設立。
それがどんな影響を周りに与えるか、お姫さまは知りませんでした。考えもしませんでした。
それは自分の国の国是に反していることなのに、そんなことにも気付いていませんでした。
専制主義国家である自国の君主である自分の父たる皇帝の意に反していることなのに、それに対して何も考えていませんでした。
ただ自分の考えは正しい。それはお姫さまの理想とする素晴らしい世界で、間違っているのは父たる皇帝、祖国の在り方であると思い込んでいました。
自分の立場がなんなのか、そしてその生活が何によって支えられているかも、何ら理解しないままでした。
そして本来なら、総督という、お姫さまの上司にあたる姉姫に相談しなければならない事だったのに、お姫さまはそれもしていませんでした。
周りの観衆はお姫さまの宣言に沸き立ちます。
けれどお姫さまには何も分かっていませんでした。
喜んでいる者ばかりではないということを、蔑んでいる者もいることを。
そして何よりも、隠れ住んでいた兄妹に絶望を与えたことを。
“行政特区日本”の設立の日、優しい魔王が誤ってかけてしまった呪文── 日本人を殺せ── のために、真っ白だったお姫さまは真っ赤に染まってその命を失いました。
── The End
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