改革の波




 世界中にあらゆる情報が流れた後、やってきたのは改革の波だった。
 それは当然のことだろう。現在の世界の在り方を根底から覆されたのだから。
 超合集国連合最高評議会は、その唯一の剣であり盾でもある黒の騎士団を御しきれず、その黒の騎士団の幹部たちはCEOであったゼロを裏切り、あまつさえその命を奪おうとし、ゼロの正体は“悪逆皇帝”と呼ばれたルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであり、つまり現在のゼロは偽物、そして“悪逆皇帝”と最後まで戦った聖女は自国の帝都に大量破壊兵器を投下した史上最大の殺戮者だったのだから。
 超合集国連合は瓦解した。というよりも、それを元にして新しい組織が造られた。
 各国の思惑の入り乱れる中、世界中の有識者を集めた特別委員会を設置し、その委員会の出した結論を元に改編されたのだ。
 まず第一は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを最初に“悪逆皇帝”と罵った皇神楽耶を議長職から追い落とし、あらゆる国家は大小を問わず一国一票制をとり、人口比率条項は廃棄された。
 また合衆国と名乗らずとも加盟できるように、新たに世界連盟という名称に代わり、そしてまた世界を覆う個別の問題、すなわち、エネルギー、食糧、教育、保健衛生等々の諸問題には各国の利害を超えて手を取り合い話し合う場として、全体評議会の他にそれぞれ専門の委員会が設置され、その委員会の代表や委員は、議員たる各国の代表とは別個に有識者たちなどから選出されることとなった。
 ブリタニアの元エリアであり、疲弊し、貧困や悪政に喘ぐ各国、開発途上国などへはそれぞれの委員会から必要に応じて援助の手が差し伸べられることとなる。
 また黒の騎士団は世界安全保障軍と名称を変え、それぞれの国の実情に合わせた規模の軍人の出向を求められ、その幹部は、かつての合衆国日本、及び合衆国中華に偏重しがちだった点も改正され、各国からそれぞれ一名が代表者として幹部に名を連ね、更にその中から投票によって委員会を構成し、軍の構成、指揮に当たることとされた。
 個別の国で言うなら、合衆国日本においては皇神楽耶は一線を退き、遥かに血縁関係が薄くなっているとはいえ、その遠縁の者が国家元首、ひいては世界連盟の議員となった。ゼロを裏切ったかつての黒の騎士団の事務総長であり、合衆国日本の初代首相となっていた扇要は退陣を余儀なくされ、遣り直しの総選挙の結果、黒の騎士団とはほとんど無関係だった党が与党となり、その党首が首相となって内閣を組閣、新たな出発を図った。
 そして合衆国ブリタニアにおいては、全国規模で起こったデモの結果、国家代表であったナナリー・ヴィ・ブリタニアはその名を地に貶めた挙句に代表の座から追われ、更には戦争犯罪人として訴追されるに至った。それは現在のゼロの下にあるシュナイゼル、そして特別警務隊の指揮官となっていたコーネリア・リ・ブリタニアも同様であった。その後、各地のデモの主導者や識者たちによる合議の結果、数代前の皇族の血を引く、為政者として諸外国に対して恥ずかしくない人物を捜し出して皇帝とし、国名もブリタニア帝国と元に戻された。ただし合衆国日本のように再び選挙が行われ、その結果、かつての貴族たちの顔ぶれは少なくなり、デモの主導的役割を果たした者や有識者たちが議員として名を連ねることとなり、帝国制に戻ったとはいえ、以前の絶対専制主義国家ではなく、緩やかな立憲君主制度の国家となった。
 戦争犯罪人として逮捕拘留され起訴された三人だが、そのうちナナリーはペンドラゴンにフレイヤを投下したことは認めたものの、そこにいた者たちに対しては避難勧告が出され被害者はほとんど出なかったはずだとの、シュナイゼルから与えられた情報をあくまで真実として、現実を受け入れず、被害者遺族たちからは反省の色もなく、自分が何を為したのかを理解していない、為政者の資格など全くない存在として扱われた。裁判の結果は三人ともが死刑というものであったが、シュナイゼルとコーネリアが黙って受け入れたのに対し、ナナリーだけはどこまでも承服しかねる、何故自分が1億もの人間を殺戮したなどと言われねばならないのかと処刑される直前まで、自分の為したことと正面から向き合うことはなかった。そう、ナナリーは結局最後まで現実と向き合うことをせず、真実から目を背けたままだったのだ。シュナイゼルの言葉の巧みさはあったのであろうが、それでも現実を見ることをしない者に、もとより為政者たる資格はなく、弑された当初は“悪逆皇帝”と呼ばれたルルーシュの死に熱に浮かされていたとはいえ、ブリタニア人は何故そんな人物を聖女扱いして国家の代表などとしてしまったのかと多くの者が反省したものだ。
 そしてゼロ── 枢木スザク── は人知れず姿を消した。仮面をしていたためにその偽物のゼロが何者なのか、世界の人は知る由もないが、スザクとしてはフジ決戦において死んだことになっている以上、彼は隠れ住むしか道はない。



 ブリタニア大陸の太平洋に面したとあるオレンジ農園、その農場主の家のテラスでテーブルを囲む数名の男女がいた。
「本当にここまでやる必要があったのか?」
 ブリタニア人には珍しい漆黒の髪の少年が隣に座るライトグリーンの髪の少女に問うた。
「あそこまでやるとはいささか予想外、想定以上だった。だがそれだけ奴らのやり方がまずかったという証明だろう。結局は自分たちのしでかしたことのツケが返ってきているだけのこと。いわば自業自得だ」
「妹君を失うことになってお辛い気持ちは分かりますが、それでも妹君は取り返しのつかない大量殺戮者だということが世界中に分かってしまったんですから、致し方ないですよぉ」
 農園にいるには相応しくない白衣を着た青年の言葉に、少年は紫電の瞳を歪めながら諦めたような溜息を零すしかなかった。
「……一体何のためのゼロ・レクイエムだったのか……」
「それはつまるところ、おまえとスザクの自己満足のためだったのだろう」
 少女に言われて、少年は瞳を伏せ、返す言葉を見い出せなかった。

── The End




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