()くした夢




 母の死の真相を、犯人を知りたい、そして何よりも、かつて誓ったように、現在のブリタニアという国をぶっ壊したい、その思いに間違いはない。紛れもない事実、本心だ。
 けれど、皇室から隠れて偽りのIDで、アッシュフォードに、正確にはルーベンとミレイの計らいでどうにか生きている状況を考えれば、到底無理なことは承知していた。
 だから、ナナリーが高等部を卒業するまで、あるいは自分が大学部を卒業するまでアッシュフォードの世話になり、その後は、アッシュフォードを出て、二人だけでこのエリア11で、皇室から隠れ、あくまでも一般の庶民として暮らしていくつもりだった。身体障害を抱えているナナリーのことを思えば、決して楽な生活にはならないだろうこと、苦労するだろうことは承知していた。しかしそれでもよかった。ブリタニアの国是に照らせば、ナナリーはどうしたって弱者に分類されることになるが、それでも、兄妹二人して、一般的な普通とは多少は違うものとなるだろうが、それでも、普通に生きていくことができれば、それでよかった。それだけが、幼い頃に誓った事とは違ったものになったが、望みだった。二人でいることができればそれだけでよかったのだ。それ以上のことは無理と分かっている以上、現実に照らして望みはしなかった。どんなに心からそれを望んでも、無理だと分かっていたから。
 それがあまりにも簡単に崩れた。ささやかと言っていいだろう願いが、ナナリーの身体障害からの苦労ということを別にすれば、極一般的であろう夢が、失われた。
 悪友のリヴァルとの賭けチェスの帰り、ナナリーをおいて死ぬことはできない、その思いから、助けた、そしてまた逆に助けられた一人の少女── C.C.── と交わした契約によって得た“絶対遵守”というギアスという力によって。
 その力を得たことにより、ある意味、幼い頃から持っていた本当の望みを、そしてナナリーの願いを叶えるために行動を開始したことによって。
 結果的に、その力によって人間(ひと)としての()を超えた願いを叶えようとしていた父帝シャルルと、精神体として生きていた母マリアンヌの、世界の(ことわり)を壊すことになる、ラグナレクの接続という神殺しを防ぐことができ、かつ、シャルルとマリアンヌを消滅させることができたのだから、ある意味、結果オーライと言えなくもないのだろうが、それでも、力を得たことによって起こした行動のために、ただの一人の人間として、ただナナリーの兄として望んだ夢は、完全に絶たれた。失われたのだ。もう二度と、その夢が叶えられることはない。
 果たしてそれはルルーシュにとって、どういう意味を持つのか。良かったのか、それとも……?

── The End




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