嘆 き




「どういうことか、きちんと説明していただきましょうか」
 神楽耶は扇や藤堂をはじめとした騎士団の幹部たちを前に問い質した。
「ですから、先程も申し上げたように」
 一歩前に踏み出して、低姿勢で扇が神楽耶に説明を始める。
「ゼロはブリタニア人、それも帝国の皇子で、我々を騙して駒として扱ってたんです。しかもギアスとかいう力で俺たちを操って、この戦いも奴にとってはゲームでしかなかったんですよ」
「それは何処からの情報です?」
 握りしめた両の拳を震わせながら神楽耶は問いを重ねる。
「ブリタニアのシュナイゼル宰相です。証拠も提示してもらいましたし、間違いはないんです」
「つまりあなたがたは、自ら捨て駒になる覚悟もないままにこの戦争に参加し、敵の大将ともいえるシュナイゼルの言葉や持参した証拠を何の検証をすることもなく鵜呑みにして、ゼロ様を、ルルーシュ様を殺そうとしたということですね!?」
「しかしあいつは自分から俺たちのことを駒だと認めて、ゲームだったと言ったんですよ」
 神楽耶の両の眦には懸命に堪えている涙が滲んでいる。
「それはその場にシュナイゼルがいたからでしょう。あなたがたが完全にシュナイゼルに取り込まれ、最早何を言っても無駄と、ましてやたった一人の妹君を亡くされて、黒の騎士団に、そして己の未来に見切りを付けられたのですよ!」
「妹?」
「エリア11の総督であり、先のフレイヤで亡くなったと発表されたナナリー・ヴィ・ブリタニアはルルーシュ様の、母を同じくした唯一の妹君。藤堂、あなたは覚えていないのですか? かつて当時の首相だった枢木家に預けられたブリタニアの幼い皇子と皇女の事を」
 問われて気が付いた、というように、藤堂はハッと顔を上げた。
 開戦前、桐原の命を受けて何度か枢木神社をその供をして訪れたことがあり、その際、枢木の嫡子であるスザクと遊んでいたブリタニアの幼い兄妹がいたことを思い出した。
「ルルーシュ様とその妹のナナリー様は、留学という名目の下、人質として、いいえ、行って死んでこいと人身御供として母国から切り捨てられ、送られてきた日本ではブリタニア人ということで現在の日本人がブリタニア人から受けているよりも酷い扱いを受け、土蔵暮らしを強いられておりました。
 それでもルルーシュ様は日本を、日本人を憎まず、それよりも己たちを切り捨てた母国を、敗戦した日本人の誰よりも憎み恨んでおられました。
 それを、この愚か者共が!
 あなたがたはかつてキョウト六家が、桐原が黒の騎士団に援助を始めた時のことを忘れたのですか!? ゼロ様は桐原の前で仮面を外し、己が正体を晒し、そして彼が何者であるかを承知の上で桐原は黒の騎士団への援助を決めたのですよ!
 紅月カレン! 私は詳細は存じませんが、あなたは全てを承知の上でルルーシュ様をこの修羅の道へ再び連れ戻したのではなかったのですか!? それなのに何故あなただけでも信じなかったのです!!」
「あ、わ、私は……」
 藤堂に続いて指摘を受けたカレンは、答える言葉を持たなかった。
 そう、自分は知っていたとカレンは思い出す。彼がブリタニアの皇子であることも、ギアスという力を持っていることも、かつて神根島で知った。知って逃げた。そしてまた逃げた。同じ事をした。
 神楽耶の頬を、耐えきれなくなった涙が一筋伝う。
「扇事務総長、藤堂統合幕僚長、あなたがたが、今回、本隊である私たちや超合集国連合に何の連絡も寄こさずに敵との休戦条約、日本返還を勝手に決めたのは明らかな越権行為、超合集国連合への裏切り行為以外の何物でもありません。処分が出るのを大人しく待っていなさい。他の者たちもですよ」
 神楽耶は合衆国日本の代表として、そして超合集国連合の最高評議会議長としてそう告げると、頬を伝う涙を拭うこともなく斑鳩の会議室を後にした。
 そして心の中で思う、ルルーシュ様、どうぞご無事で、と──

── The End




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