昔、ある子供が自分の父親を殺してしまいました。
父親を殺せば戦争は終わる、そう考えてのことでした。
子供はあまりにも物事を知らな過ぎました。
混乱の中、大勢の人が死に、国は敗戦し、エリア11という名を与えられ、人々はナンバーズ── イレブン── と呼ばれるようになりました。
子供は大きくなって名誉ブリタニア人になり、軍人になりました。
名誉ブリタニア人になるということは、日本人であることを捨てるということです。
軍人になるということは、人殺しを仕事にするということです。
人を殺したくないと言いながら、それでも子供は軍人になりました。
ある時、子供は白い騎士のパイロットに選ばれました。
他にそれができる人が見つからなかったからです。
そしてある事件をきっかけに副総督や総督とも知り合いになりました。
子供は浮かれます。
やがてある基地で、かつて自分の師匠だった人の処刑人たることを命ぜられました。
そのことに子供は何の疑問も持ちませんでした。
何故ならその師匠は子供からすれば間違ったことをしているからです。
だから辛くないと言ったら嘘になりますが、子供は処刑人となることを引き受けました。
でもその師匠は彼の部下たちによって助けられてしまい、処刑は執行されませんでした。
なのにそんな自分を待っていたのは、副総督である真っ白なお姫さまの騎士に任命されたという吉報でした。
これで中から国を変えていける、子供はそう思いました。
その国は皇帝による専制主義国家で、たとえどんなに出世してもそんなことは不可能なのに、子供はそんなことも知りませんでした。
結局、父親を殺した時と同じで、何も知らないままだったのです。
だから子供が騎士に任命されたことで悲しんでいる幼馴染の兄妹がいることにも気付きませんでした。
そしてお姫さまの望むままに、お姫さまを愛称で呼びました。それが周りにどんな影響を与えるかも考えずに。
子供が許されて通っている学園で行われている学園祭に、彼のお姫さまがやってきました。
そしてお姫さまはその子供の前で宣言します。
“行政特区日本”の設立を。
子供は素晴らしいと思いました。
幼馴染の、隠れて暮らしている兄妹が絶望に駆られているのにも気付きませんでした。
これで正しい方法で国を変えていける、間違ったテロなんてなくなる、と子供はそう簡単に思い込んでいました。
父親を殺した頃と何も変わっていませんでした。やはり何も知らないままだったのです。
“行政特区日本”設立の日、彼のお姫さまは優しい魔王が誤ってかけてしまって呪文で真っ赤に染まってその命を落としました。
誤りだったのだと、そんなことを知らない子供は、お姫さまが死ななければもっと多くの人間が死んでいたということにも気付かずにただ魔王を恨み、憎しみました。 その事件がきっかけで起こった一斉蜂起の中、子供はある島で魔王と対決していました。
子供は魔王を殺さずに生け捕って、皇帝に差し出しました。そして望んだのです。もっと上の位をと。
国の中で最も偉い騎士の称号を望み、そしてそれは叶えられました。
これで魔王の間違った方法ではなく、正しい方法で国を中から変えていけるとの思いを、一番偉い騎士になった子供は強くしました。そんなことは決してないというのに。
子供の無知は、何一つも変わっていなかったのです。
── The End
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