歴史に、もしも、なんてことはないことは分かっている。それは歴史だけではなく、人の人生においても同じことだ。それでも考えてしまう時はある。
もしもあの日、アリエス離宮が襲われなかったら、母上が殺されたりしなかったら、俺の人生は随分と変わったものになっていたことだろう。
後見であったアッシュフォード家も没落することなく、今でもKMFの開発をしていたかもしれない。
ナナリーは視力を失わず、足も麻痺などせずに元気に走り回っていたことだろう。
俺は父上に謁見せず、従って、「死んでいる」などと言われることもなく、自分の存在価値に疑問を持つこともなく、皇位継承権を返上することもなく、もちろん当時の日本に人質としてナナリーと共に送られるなんてこともなかっただろう。
そうであるならば、枢木スザクを友人と呼ぶこともなかったに違いない。出会いそのものがなかったのだから。
母上が無事であったなら、俺はブリタニアという国の在り方に疑問を持つこともなく、国是を何の不思議も思わずに受け入れ、ナンバーズ制度を正しいこととし、今頃はコーネリア異母姉上がその武力で奪い取った何処かのエリアの総督にでもなっていたかもしれない。
そう考えれば、母上の死は俺の人生の最大の転機であったのは間違いない。
母上が存命であり、あのままブリタニアで育っていたなら、ブリタニアの国是である弱肉強食、覇権主義、植民地主義、ナンバーズ制度を間違ったものだと、人の生きる権利は皆平等なのだと気付くこともなかったかもしれない。
ましてや仮面のテロリスト── ゼロ── として祖国に反逆をするなどということもなかったに違いない。
だが実際に母上は殺され、ナナリーは身体障害を抱え、アッシュフォード家は、それまでのものがあったために裕福ではあったが、身分的には爵位を剥奪されて没落し、そして俺は祖国への反逆者となった。
仮にもしそうなっていなかったなら、逆に今頃、ラグナレクの接続が完成し、神── 人間の集合無意識── は殺され、世界は一つになっていたのだろう。
いいや、そんなことはあり得ない。生者も死者も関係なく、嘘のない世界など、逆に人間の精神に混乱を招くだけだ。
そう考えれば、やはり母上があそこで殺されたのは── 精神だけはアーニャの中で生きていたとしても── 正しかったのだ。
そしてつまるところ、俺がC.C.と出会い、力を得たことは人間の世界を守るための必然だったのか。
人の世の事柄が間違っているかどうかなど、誰にも分からない。その答えを出すのはきっと神ではなく、かといって今を生きている者でもない。未来を生きる者が過去を振り返って判断することなのだろう。
ゆえに俺がこれから為そうとしていること── ゼロ・レクイエム── も、正しいことだったのか、間違ったことだったのか、その答えを出すのは未来を生きる者たちだ。
しかしもしその者たちが間違っていたと答えを出したとしても、今の俺にはこの道しか選べない。
さあ、最期のパレードが今始まる── 。
── The End
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