“悪逆皇帝”ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、当時の皇帝直轄領となったエリア11のトウキョウ租界の大通りでのパレードでゼロによって刺殺されてからおよそ半年余り、世界各国は共通のテーブルにつき、話し合いで物事を解決していこうという姿勢を見せ始め、神聖ブリタニア帝国も帝政を廃して合衆国ブリタニアと名を改め、国家代表ナナリー・ヴィ・ブリタニアの元、世界に受け入れられ始めていた。
その矢先のある時、世界一斉にメディアというメディアがジャックされた。
流される映像は、知っている者は知っている、超合集国連合の剣であり盾でもある黒の騎士団の旗艦たる斑鳩の4番倉庫であり、そこでゼロが黒の騎士団の日本人幹部たちに取り囲まれ、銃を向けられて仮面を外すシーン。
そのシーンに被さるように流される言葉は、神聖ブリタニア帝国第99代“悪逆皇帝”ルルーシュの騎士、ナイト・オブ・ゼロだった枢木スザクと現ブリタニアの代表たるナナリーの声。
『お兄様、スザクさん、私は、お二人の敵です……!』
『ナナリー。君はシュナイゼルが何をしたのか分かっているのかい?』
『はい。帝都ペンドラゴンにフレイヤ弾頭を撃ち込んだ。
お兄様もスザクさんもずっと私に嘘をついていたのですね。本当のことをずっと黙って・・・・・・。でも、私は知りました。お兄さまがゼロだったのですね』
流されたそれらに世界中が混乱した。
流れる映像の中、ゼロの外された仮面の下から現れたのは、漆黒の髪と白磁の肌に紫電の瞳の、紛れもないルルーシュ皇帝の容貌であり、それに被さる声がそのことを事実だと証明していた。
一体何処の誰が世界中の電波をジャックし、このような物を流したのか、その意図は分からない。だがそんなことは最早問題ではない。
“悪逆皇帝”ルルーシュこそがゼロだった。その事実に世界中が騒然となった。
ならばあれは何だったのだ、我々は何を為したのだ。
映像から分かるのは、黒の騎士団の、日本人幹部たちのゼロへの裏切りであり、流れ出た言葉から分かるのは、現在ブリタニアの代表となっているナナリーこそが、こともあろうに自国の帝都にフレイヤ弾頭を投下し、1億余の臣民を大量虐殺したことだ。
世界中が混乱した。
ルルーシュこそがゼロだったならば、世界は、ブリタニアのシャルル皇帝の覇権主義に抵抗し、それに挑んだ英雄ゼロを殺して“悪逆皇帝”を倒したと喜びに浮かれ、大量殺戮者をブリタニアの新たな代表に選んだことになる。
何故そんな事になったのか。世界中が事の真相を知ろうと躍起になった。
そうして世界中の識者によるといっていいだろう調査の結果、明らかになったのは、ルルーシュの生い立ちと、彼が“悪逆皇帝”と呼ばれるようになったのは、当時のブリタニアが超合集国連合加盟を求めて開かれた超合集国連合のアッシュフォード学園での臨時最高評議会における、最高評議会議長皇神楽耶の発言が発端であったこと。そしてそれまでのルルーシュは、強権ではあったが開明的な君主であったこと。抵抗する地方貴族たちに対しては、それを討ち取るべく騎士たちを差し向けたが、それ以外は超合集国連合が望んでいたようなドラスティックな改革を打ち出していたこと。彼が“悪逆皇帝”と呼ばれるに等しい行為を行ったというのは全て捏造されたデータであったこと。
そんなルルーシュ・ヴィ・ブリタニアのどこが“悪逆皇帝”であったのか。むしろその言葉は、自国民1億余をフレイヤ弾頭で一瞬のうちに虐殺したナナリー・ヴィ・ブリタニアにこそ相応しい。
ゼロを裏切った当時の黒の騎士団の日本人幹部たちは捕えられた。その中でも、戦後、合衆国日本の初代首相となっていた扇要は首相の座を追われ、弁解の言葉を聞いて貰うこともできないまま捕縛された。誰も扇の言葉になど耳を貸さなかった。彼の夫人がブリタニアの元純血派であり元男爵という地位にあったことも扇への批難に輪をかけていた。また、事の発端となった超合集国連合最高評議会議長皇神楽耶も議長職を退き、蟄居の身となった。一方ブリタニアでは、ナナリーも代表の座を追われ捕らわれの身となり、遂には大量虐殺の罪により死刑の判決を受けた。
超合集国連合はすでに機能しなくなり、幹部たちのかつての裏切り行為の前に黒の騎士団も崩壊しつつある。現在のゼロも偽りの偽物として石もて追われた。
世界は何が正しく何が間違っているのか分からなくなり、混沌としたものに覆われ始め、そこには一縷の光明も見えてはこない。
そんな世界の片隅で、微笑っている一人の魔女と一握りの人間たちがいたことは、誰も知らない。
── The End
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