(みれん)



 スザクが、幼馴染で親友ともいえるルルーシュと、その妹であるナナリーに、自分は技術部所属で前線に出ることはないと告げたのに、実は、黒の騎士団が“白兜”と呼んでいる、ブリタニアの有する、現行、世界で唯一の第7世代KMFランスロットのデヴァイサーであると知れたのは、過日のチョウフ基地における、日本解放戦線に所属していた、戦時中、唯一ブリタニアに土をつけたことから“厳島の奇跡”の二つ名をつけて呼ばれている藤堂を救い出す作戦を実行した際だった。
 しかも、それをきっかけにこのエリア11の副総督でもある第3皇女ユーフェミアは、スザクを己の騎士となる者だと公表し、すでにその叙任式も終了し、スザクは、今や肩書きだけは立派に第3皇女ユーフェミアの選任騎士だ。しかも、他の家の皇族、帝国宰相という立場にあるシュナイゼル直轄の組織である特別派遣嚮導技術部── 通称、“特派”── にも所属したまま。加えて、騎士となりながら、スザクは常にユーフェミアの傍にいることなく、彼女がいいと言ってくれているからと、騎士に任命される前と同様に、アッシュフォード学園に籍を置き、出席日数は少なくなってはいるが、通学し続けている。
 それゆえに、周囲の者たちは影で囁いている。あの二人は本当の主と騎士ではない。二人がやっているのは単なる主従ごっこに過ぎないと。
 スザクは、もともと名誉ブリタニア人という出自から、ブリタニアの騎士制度を理解していないのだ、と言われてもいる。それも問題だが、深刻さでいえば、それはユーフェミアの方だろう。他家の皇族の部下であるスザクを、何の断りもなく、事後報告すらもなく、勝手に己の騎士になる者だと唐突にマスコミを前に公表し、しかも常に自分の傍らにいることをさせず、学校に通わせているのだ。騎士とは、常に主の傍らにあり、主を守るべきもの、というのがブリタニアの騎士制度の根本であるのだが、二人のやっていることを見る限り、スザクはもちろん、皇族であり主たる立場のユーフェミアがそれを理解していないのだから。このことでユーフェミアのことを口にするとなると、皇族批判と受け止められることとなるため、本当に影で密やかに囁かれているのみであり、当事者であるユーフェミアはもちろん、名誉ブリタニア人であるスザクが、溺愛している実妹の選任騎士となることを、妹の望んだことだからと、不満は持ちながらも認めてしまったコーネリアに対しても、それらの話が耳に入るようなことは決してなく、ゆえにコーネリアも含めて当の三人は、周囲からそのように思われ、囁かれていることに全く気付いていない。これは幸か不幸か、どちらなのだろうか。ただ、ユーフェミアの騎士となったスザクが名誉ブリタニア人であることについての不満は、皇族自身に対するものではないため、いくらかコーネリアやユーフェミアの耳にも入っているようだが、それは致し方あるまいと思われている。ただ、ユーフェミアは、彼女自身の認識からすれば、如何にスザクが素晴らしい人か誰もきちんと理解してくれないという不満が大きいようではあるが。
 それはともかく、スザクがユーフェミアの騎士となり、その後も“白兜”のデヴァイサーであり続ける状態に、C.C.は危機感を強くしていた。
 スザクはルルーシュにとって、初めてできた友人であり、大切な幼馴染の親友だ。当時は知らなかったからとはいえ、それゆえにルルーシュは仮面のテロリスト“ゼロ”となり、先の総督であったクロヴィス暗殺犯として逮捕されたスザクを救出した。しかし、スザクはゼロから差し伸ばされた手を取ることなく軍に戻っていったのだが。だが、ゼロたるルルーシュが、クロヴィスを殺したのは自分だと名乗り出たこと、アリバイが証明されたことも手伝って、証拠不十分で釈放され、その後、どういった経緯かほとんどの者は知ることはなかったが、ユーフェミアと知り合いとなり、彼女のお願いという名の命令の下、スザクはアッシュフォード学園に編入するに至った。
 とはいえ、相手は名誉ブリタニア人、しかも、釈放されたとはいえ、一度は総督暗殺犯としての容疑から逮捕された人物だ。学園内で何事もなく過ごせるはずはなかった。だがそこにはルルーシュがいた。ルルーシュは、スザクは自分の大切な幼馴染の友人であると公表し、ルルーシュの学園内における立場などのおかげもあって、表立ってのスザクに対する苛めはなくなった。影ではまだ何か言われたりしていることもあるようだが、当初に比べれば些細なことだ。つまり、スザクを学園に入れたのはユーフェミアだが、その学園の中で無事に過ごせるようになったのは、ルルーシュの存在があったればこそである。ユーフェミアはスザクの学園での様子、当初の苛めのことなど何も知らず、考えることもせず、そしてスザクは、苛めがなくなったのは、それに耐えていた自分を皆が認めてくれたのだと単純に考えていた。ルルーシュの存在、彼の言葉があったればこそであるなどとは、彼の告げた言葉にそれほどの重み、他の生徒に対する影響力があるなどとは思ってもいなかった。
 そしてスザクがユーフェミアから騎士の任命を受けたことによって、スザクの周辺は調べられた。幸い、ルルーシュたちの真の出自までは判明することはなかったようだが、相手が名誉ブリタニア人ということで、公的な調査の他に、少しでも彼のアラを探し出し、引き摺り下ろそうとする者はいるだろう。そういった者たちの中には、いまだにスザクの周辺を探り続けている者もいる。つまり、ルルーシュとナナリーの出自が明かされる可能性は完全に無くなってはいないのだ。しかし、スザクはルルーシュから最初に「自分たちはアッシュフォードに匿われている」と告げられていたにもかかわらず、その意味を真に理解はしていなかった。もしルルーシュたち兄妹の真実が明らかになったら、二人がどうなるか、二人を匿ってきたアッシュフォードが、その経営する学園も含めてどうなるか、そこには全く考えが至っていない。想像が働いていない。ゆえに平然と学園に通い続けるということができるのだろうが。
 それらのことから、C.C.は常にゼロであるルルーシュに対して告げていた。スザクは敵だ、殺してしまえと。少なくとも、友人であるという思いは捨てろと。
 しかし、ルルーシュはそれをしなかった。いや、できなかった。それだけ、戦前に名目はどうあれ実質上は人質として送り込まれた日本で親しくなったスザクに対する友情を捨てることはできなかったのだ。
 結果、黒の騎士団にとっては最大最強の敵といえるスザクを殺す絶好のチャンスすらふいにした。それどころか、ルルーシュがスザクにかけた絶対遵守のギアスは“生きろ”だった。
 C.C.は思う。なんと愚かなことをしたのかと。そして危険だと思えてならない。ルルーシュがスザクにかけたギアスは、今後、場合によってはルルーシュにとって命取りになる可能性もあるのではないか。そして、だからこそ、さっさとスザクを殺すか、ギアスをかけて引き込めと、支配下においてしまえと重ねて言ったのにと。
 そして、悲劇は起きた。
 事の発端は、スザクが通学するアッシュフォード学園で行われている学園祭を訪れたユーフェミアが、変装してはいたものの、本人だと知れたことから、取材に訪れていたマスコミを前に、上司たる、総督たる姉であるコーネリアに相談することなく、己の名で“行政特区日本”の構想を発表したことである。そしてその中で、ユーフェミアはゼロと黒の騎士団に対し、特区への参加と協力を口にしたのだ。
 その宣言一つで、黒の騎士団は動きを封じられた。参加しなければユーフェミアの宣言に希望を見出したイレブンたる日本人たちから参加しないことを責められるだろう。しかし、かといって参加すれば、武装解除させられるのは目に見えている。つまり、黒の騎士団は武力を、ブリタニアに抗する力を奪われる。そうなったが最後、その後に何があっても、黒の騎士団はもうブリタニアと対することはできない。そしてそれは黒の騎士団だけではない。エリア11となった日本が、ブリタニアに対抗して独立することは不可能になる。参加してもしなくても、黒の騎士団の命運は失せたようなものだ。そして日本はこの先ずっと、ブリタニアの属国のままになり、独立など夢想になる。だが、そこまで見えている者は少ない。ユーフェミアの騎士たるスザクなどは、これが正しい方法だと、素晴らしい政策だと、ユーフェミアを礼賛し、ルルーシュたち兄妹に、彼らの立場を知っていながら、特区への参加を促してくる。イレブンたる日本人のための特区に、どうしてブリタニア人が参加などできようか。ましてやルルーシュたちの立場を考えればなおさらだ。しかしスザクはそのようなことには全く思い至らないらしい。
“行政特区日本”の開会式典において、ユーフェミアが宣言をしようと立ち上がった時、ゼロはブリタニアから奪ったKMFガウェインに乗って会場に姿を現した。ゼロはユーフェミアと二人だけの話し合いを望み、ユーフェミアはそれに応じた。ゼロの目的は、ユーフェミアにギアスをかけて、自分を撃たせることだった。そして特区は自分を撃つための罠だったのだと、そうして特区政策を失策させる予定だったのだ。だが、ユーフェミアが特区設立のために「ブリタニアの名を捨てた」との言葉に、負けを認め、自分の構想を含めることにして、彼女の手を取ろうとしたが、その時、不幸にもギアスが暴走し、仮面を外したルルーシュがユーフェミアに説明をしている時、暴走に気付いていなかったルルーシュの放った言葉が、絶対遵守のギアスとしてユーフェミアにかかってしまった。それは本来のユーフェミアなら決して行わないような内容だった。だが、当然の如く、ユーフェミアはギアスに逆らえなかった。そして彼女は一人の日本人を撃ち、兵士たちに日本人の皆殺しを、虐殺を命じたのだ。
 確かに、ユーフェミアにかかったギアスは「日本人を殺せ」というものではあった。しかし、何人とか、全員とか、そのようなことは一言も言っていない。つまり、一人殺せばそれで済むものでもあったのだ。しかし、ユーフェミアは式典会場にいる日本人の皆殺しを命じた。それはユーフェミアの中にある、皇族としての意識が根本にあったのだろう。何かあれば皇族、皇女としての立場を遺憾なく発揮するというような。“慈愛の姫”と呼ばれ、同じ人間同士、差別するのはおかしいというのも間違いなくユーフェミアの思いであっただろうが、同時にまた、弱肉強食を謳うブリタニアの皇女であり、それが彼女の無意識の中に刷り込まれており、それが今回の、日本人皆殺し、という命令に至ったのだろう。
 そして次々と殺されていく日本人たち。その中の、ある老婦人の最期の言葉に、ルルーシュはもう己のとるべき道は一つしかないのだと思い知らされた。たとえそれが彼の望むものではなかったとしても。
 ゼロとして、ルルーシュはユーフェミアを撃った。一度かかったギアスは解くことができない以上、ユーフェミアの動きを止めるしかない。そのために腹部に一発。それだけならば、ユーフェミアが死ぬことまではないはずだとの思いもあった。ブリタニアの医療技術を考えれば、彼女が死ぬはずがないと。それが今のルルーシュにできる最善の方法だった。それしかなかったのだ。
 だが、ユーフェミアは死んだ。かつて数十発近い銃弾を受けながら死ぬことなく助かったマオと違って、命を失う危険のない腹部に一発だけのユーフェミアは、死んだ。それは、ユーフェミアを救うために取ったスザクの行動が全て裏目に出た結果なのだが、スザクはそのようなことには思い至らない。自分の前に突然現れた見も知らぬ謎の子供の言葉を真に受けて、ユーフェミアを殺したのは自分の目的を達するために手段を選ばなかったゼロ。そしてゼロはルルーシュ。それだけを全てと信じて何も疑わなかった。見知らぬ子供が何者なのか、それを考えることすらしなかったし、不思議にも思わなかった。スザクにはユーフェミアの死という現実と、彼の考えではそれを齎したゼロがルルーシュ、つまりユーフェミアを殺したのはルルーシュであり、自分はルルーシュに裏切られたのだと、それしかなかった。
 しかしルルーシュの立場から言えば、先に裏切ったのはスザクの方である。スザクはルルーシュの立場、その思い、考えを知りながら、名誉ブリタニア人となり、軍人となり、果ては第3皇女の手を取って皇族の騎士となったのだから。それでもルルーシュのスザクに対する思いは変わらなかった。初めてできた大切な友人、幼馴染とも言える親友。立場を異とし、敵対しているという事実を知った後も、それでもルルーシュのスザクに対する思いは変わらなかった。だが、それはルルーシュだけだったのだろう。スザクは一方的な自分の思いだけで、ルルーシュのことを何一つ考えてはいなかった。それは行政特区の件以前からだ。ルールに従うのが正しい、ルールに従うべきだと、ただその一念だけで、相手を思いやることも、物事の内容を深く考えるということもなかった。だから彼は気付いていなかった。スザクの考えはあくまで彼個人のものにしか過ぎず、多くの日本人の考えを、思いを否定したものだということを。そう、スザクの考え通りでは、日本はいつまでもエリア11、つまりブリタニアの植民地に過ぎず、日本人が望む独立などありえないのだということに全く気付いていなかった。自分の考えが正しいのだと、他の者の考えなど、思いやることもなかったのだ。
 ゆえに自分の考えを、思いを肯定してくれる言葉だけを疑うことなく信じ、式典の虐殺行為の結果、ブラック・リベリオンという、黒の騎士団を中心とした日本人の一斉蜂起が起きたが、スザクはユーフェミアの仇を討つ── 実際にはそれ自体、真実から外れた間違ったことなのだが── ことしか頭になく、戦闘中、突如戦線離脱したゼロを追い、ゼロの、いや、ルルーシュの「ナナリーを」との言葉を聞き入れることもなく、スザクはルルーシュを撃った。



 そして1年余り──
 ルルーシュはスザクによってシャルルに売られた。スザクが代償として望んだのは己の出世。臣下としては帝国一の騎士たるラウンズの地位を求め、シャルルはそれに応じた。
 そしてルルーシュはシャルルの持つ記憶改竄のギアスによって多くのことを忘れさせられ、代わりに偽りのものを与えられて、24時間監視体制のとられたアッシュフォード学園に一般人として“弟”と共に戻された。シャルルはルルーシュと契約を交わしたコード保持者のC.C.の存在を求め、ルルーシュをそのための餌としたのだ。
 しかし、C.C.を中心に、逃げ延びていた黒の騎士団の者たちの手によってルルーシュは解き放たれた。C.C.によって本来の記憶を、そして同時に、記憶を改竄されたことにより失っていたギアスも取り戻した。とはいえ、そのギアスは暴走状態にあり、C.C.はそれを普段は通常の状態にしておくための特殊なコンタクトレンズを用意していた。
 ルルーシュが記憶を取り戻したことによって、ブリタニアから処刑されたと公表されていたゼロが「私は帰ってきた!」と力強く、その復活を宣言し、捕らわれの状態にあった黒の騎士団の団員たちを無事に解放した。
 その状況に黙っていられなかったのはスザクだ。ルルーシュが記憶を取り戻してゼロとなったのではないか。それを確かめるために、かつて彼を迎え入れたアッシュフォード学園のミレイをはじめとする生徒会のメンバーに対しても、シャルルが記憶改竄のギアスをかけることに協力しながら、そのことに対しなんら良心の呵責も抱いていないかのように学園に復学してきたのだ。その上、ルルーシュの記憶を確かめるために、スザクはナナリーを利用した。しかしそれは、すでにルルーシュに付いたといっていい状態にあるロロの絶対静止のギアスのおかげで乗り切った。
 そしてルルーシュは思った。
 自分は間違っていた、C.C.の言うようにすべきだったのだと。
 スザクは自分が出世して力を得るためなら、他の人間のことなどどうでもいいとでもいうように、欧州において“白き死神”と呼ばれるほどの活躍をした。つまり、戦争の中でそれだけ多くの敵を殺戮してきたということだ。スザクはラウンズのワンになってエリア11を貰い受けるとルルーシュに告げた。それが正しい方法だと。そして顔には出さなかったが、ルルーシュは呆れたものだ。それの一体どこが正しいのかと。そのようなことは現在のワンであるヴァルトシュタイン卿がいる限り無理な話であり、仮にヴァルトシュタインがいなくなったとしても、名誉ブリタニア人であるスザクがワンになることなど決してありえない。確かに皇帝の言葉は、絶対君主制のブリタニアでは絶対ではあるが、皇族も貴族も、誰もが反対するだろうし、シャルル自身、そこまで反対を受けてスザクをワンにしてやる理由などない。そしてまた、仮にスザクがワンになり、エリア11を所領として貰い受けたとしても、そこはあくまでブリタニアに属するものであって、決して日本ではない。日本にはなりえない、戻ることはない。しかもそれはスザクがワンでいる間だけのことだ。そんなことのためにルールに従っているだけだとして、幾多の国々の多くの人間を殺し、ブリタニアの領土拡大に手を貸しているスザクを、日本人の誰が認めるだろうか。スザクはルルーシュがユーフェミアを殺したと憎み続け仇を討ちたく思い続けているが、それを言うなら、あの特区の式典会場でブリタニアに殺された日本人たちの関係者、そしてスザクの手にかかって果てた他国の兵士の関係者たちはどう思うだろうか。スザクは自分の思いだけで、他の者の思いを全く考慮していない。まるでこの世にいるのは、正しいのは自分だけだとでもいうように。だからミレイたちにギアスがかけられるのも平然としていられたのだろう。スザクはそのことについて何も思っていないから、平然と復学し、以前の時のように振舞えるのだ。
 そんなスザクを思った時、自分にとってのスザクは、日本とブリタニアの戦争が終わるまでの間だけだったのだと思う。再会した時、スザクは名誉ブリタニア人の軍人だった。その時から、ルルーシュとスザクの道は分かたれていたのだ。再会すべきではなかった。最初の再会は偶然だったが、スザクが学園に編入してきた時、彼を友人、親友だなどと周囲に告げるべきではなかったのだ。それをせずにいたなら、防げたことが多かったのではないかといまさらながら思えてならない。
 だが、ルルーシュの中にはスザクに対しては初めてできた大切な友人という、どうしても消せない記憶があり、それゆえに学園に編入してきたスザクに対してあれこれと手を貸してやった。それが間違いだったのだ。学園に編入してきた時点で、スザクはルルーシュの知るスザクとは変わってしまっていたのだから。
 それをしなかったのは、できなかったのは、初めての友人ということと、残っていた情、だったのではないかと今は思う。ルルーシュはルルーシュとしてある時は、常にスザクの友人として、幼馴染の親友として彼に対し、あれこれと世話を焼いていた。それをスザクは必ずしも知らなかったし、気付いていないことが多かったが、ルルーシュはずっとそう思い、接してきた。だが、スザクは違ったのだ。彼はルルーシュの真実の姿を知り、その思いも考えも知っていながら、それを忘れたかのような態度を取り続けていた。表面上は確かに友人だったが、実際にはすでに違っていたのだ。だから何よりも自分の思い、考えが一番で、そのためなら平気で── ルルーシュに限らず── 友人を売ることができるのだろう。その結果が、証拠が目の前にある、ミレイたちに対してもかけられたシャルルの記憶改竄のギアスだ。
 だから思う。ルルーシュのスザクに対する友情は、遅くとも、スザクがユーフェミアの手を取った時点で消えていたのではないかと。ただそれまでの情があったから勘違いしていたのではないかと。それは未練と同義かもしれないと思える。かつてのスザク、友人であったスザクのままでいて欲しいという思いが生んだ未練。その感情がルルーシュにスザクをC.C.にあれこれ言われながらも、大切な友人として扱い、その結果、ナナリーを浚われ、自分はスザク本人によって誰よりも憎んでやまないシャルルに売られて利用された。
 そして今また、その情にすがろうとしている自分をルルーシュは自覚している。
 ゼロとして()ち上げた超合集国連合の第一號決議として、日本奪還が決定され、連合の下部組織としての軍隊となった黒の騎士団は、キュウシュウの本隊とトウキョウ方面軍に別れて日本に対して攻撃をかけることになっており、すでに宣戦布告もされている。
 その日本、つまりエリア11の現在の総督は、ルルーシュの行動を抑えるのが目的なのだろう、ブリタニアに戻されたナナリーだ。そのナナリーを守るために、ルルーシュはスザクの力を借りようとしている。他にナナリーを守るすべを見出せないからだ。スザクはナナリーをルルーシュの記憶を確かめるために利用はしたが、それでも彼はナナリーをルルーシュのように切り捨ててはいない。少しは守ろうとしてくれていると思える。だから遺された情にすがり、未練だと思いながら、スザクにナナリーを守ってくれと頼むために、懐かしいともいえる枢木神社に足を向けている。罠が仕掛けられている可能性を考えながら、それでも、誰よりも大切なたった一人の実妹であるナナリーのために。

── The End




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