めぐりあい




 その出会いは偶然だったのか、それとも必然だったのか。
 彼女── C.C.── に問えば、きっと必然だとの答えが返ってくるのだろう、そうルルーシュは思った。



 賭けチェスの代打ちの帰り、事故にあったトラック、そこにあったブリタニア軍から奪われたポッド。
 ルルーシュが単なる野次馬に徹していたならば、その出会いはなかったはずで、けれど野次馬たるをよしとしなかったルルーシュは自らトラックに近付き、中のポッドを見つけた。
 そしてその時、ルルーシュの脳裏を(よぎ)った声。
 ── 見つけた。
 それは紛れもなく少女のもので、一体何処から、と思うや、再び走り出したトラックに、ルルーシュはその荷台の壁面に思い切り躰をぶつけていた。
 そして再度停止したトラック。ルルーシュは改めてポッドを確認した。
 軽く叩いてみる。すると、突然の光とともにポッドが二つに割れて、中からブリタニアの拘束服に身を包んだ少女、つまりC.C.が姿を現した。
 ルルーシュは倒れ込んできた少女の拘束具を解いてやった。すると目を開けた少女は瞳を細めて、微笑みながら一言呟いた。
「見つけた」
 先刻、脳裏を過ぎった声と同じ声、同じ台詞にルルーシュは戸惑う。
「ルルーシュ、私の魔王。かつての私の盟友マリアンヌの長子たるルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
「何故その名を知っている!?」
 隠してきたはずの名前、すでに死んだことになり鬼籍に入っているブリタニアの元第11皇子。その名を何故、ブリタニアに拘束されていた少女が知っているのか。更には亡き母マリアンヌを盟友だと言う。
 少女の年頃はどう見ても自分と同じくらいだ。その姿からは、マリアンヌと盟友などという言葉はとてもではないが似つかわしくない。
「私はC.C.。不老不死の魔女」
「不老不死? 魔女? それにさっき俺のことを魔王だと言っていたが、どういう事だ……?」
「話は後にして今は此処から離れる方が先決だ。ブリタニア軍は私を捜している。つまり、私を捕えていたポッドを奪ったテログループを捜しているということだ。それが何を意味しているか、考えずとも分かるだろう?」
「……そうだな。話は後からでもできる」
 二人は地下で停止したトラックから降りて、そのまま地下通路を進み、地上への出口を探した。とにかく少しでも早くトラックから離れることが先決と、そのために自然と足の歩みも早くなる。
 しかしそうして地上に出た処に居合わせたのは、不運にもブリタニア軍、しかも総督であるクロヴィスの親衛隊だった。
「その娘をこちらに渡してもらおうか」
 クロヴィス総督の親衛隊の隊長と思しき軍人の一人がルルーシュにそう告げた。
 親衛隊の隊員たちは皆、ルルーシュに銃を向けている。
「彼女を渡したら、俺は?」
「貴様には不幸なことだが死んでもらう。貴様はブリタニア軍の毒ガスを奪ったイレブンのテロリストに協力する主義者としてな」
「ごめんだな」
「だが今の状況からどうやって逃げる? 逃げる方法など有りはしない。残念だが巻き込まれた不運を呪うがいい」
 隊長はそう言うと持っていた銃の引き金を引いた。
「やめろ── っ!!」
 ルルーシュの前に彼を庇うようにして少女が立ちはだかる。
「C.C.!」
 出会ったばかりの、けれど何故か自分を知っていた少女。母を盟友だったと言っていた少女。だからあるいは母の死の真相を知っているのかとの思いも過った。その少女がルルーシュを庇い、彼に向けて撃たれた銃を真面にその身、額の中央に受けて倒れていく。その躰にルルーシュは思わず手を伸ばしていた。そして少女の腕を掴む。途端に脳裏に流れてくる声。
 ── 力が欲しいか? たとえそれが人とは異なる摂理、異なる時間、異なる命を紡ぐものとなろうとも。その覚悟があるのなら……。
 何故かルルーシュに躊躇いはなかった。
「結ぶぞ、その契約!」
 その答えと同時に脳裏に流れ込んでくる映像。それはC.C.の記憶ででもあるのか、それともC.C.が告げた力に関与するものなのか。それは分からない。ただそれらが流れてきたと同時に、ルルーシュは己の左目に宿った力に気が付いた。そしてその使い方も。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる」
 ルルーシュは改めてルルーシュを撃つべく銃の引き金に指をかける親衛隊の隊長をはじめとする者たちに命令を下していた。
「貴様たちは死ね!」と。
 それが全ての始まり。その時がルルーシュがC.C.言うところの魔王となり、母国ブリタニアに対する反逆の狼煙を上げる始まりの時だった。
 七年もの間の、かつてヴィ家の後見であり、現在の庇護者であるアッシュフォードに匿われての暮らしから、安穏たる暮らしから離れて修羅の道を歩むきっかけになった時。



 C.C.は告げる。
 私たちの出会いは必然だった。おまえが母国に対して反逆の意思を抱いている限り、やがて母国に反逆するために()ち上がったであろうことが必然だったようにと。
「もし俺がおまえの手を取っていなかったら?」
「おまえなら取ると思っていたさ。いや、知っていたと言うべきか」
「C.C.、おまえは一体何者なんだ、何故俺のことを知っていた?」
「言っただろう、私は不老不死の魔女にしてお前の母マリアンヌの盟友であった者。おまえのことはおまえが生まれた時から、いいや、生まれる前から知っていたよ。だからずっと見守ってきた、おまえが妹と共に日本に送られてきてからもずっと」
「ずっと? なら母さんが殺された理由も、犯人も知っていると!?」
 C.C.の答えに、ルルーシュは一番疑問に思っていたことを尋ねた。
「その時は私はすでにブリタニアを、マリアンヌの元を去っていた。だから直接のことは知らない。大凡の察しはつくが。だがそれは私が教えることではなく、おまえが自分自身で導き出さねばならない答えだ」
「つまり、教える気は無いということか」
「少し違う。教える事ではないということだ。だがやがておまえはその答えに辿り着くだろう。そしてそれを知ったおまえがどう動くか、それが私がおまえに近付いた理由だ」
「どう動くか分かっていると?」
「そこまでは分からない。ただ、それで私の運命も変わる。そんな予感がする。だから私はおまえに力を与えた。おまえを守るために。
 覚えておけ、ルルーシュ、我が魔王よ。おまえは運命の子、この世界の運命を変える宿命を背負った子。そのために私たちは出会ったのだということを」
 C.C.の言葉には謎が多過ぎて、ルルーシュの理解の許容範囲を超えていた。
 しかしC.C.の言葉をそのまま信用して推測するなら、母マリアンヌは世界に対して何らかの影響を及ぼすようなことに関係していたのかと考える。だからその息子である自分を、C.C.は運命の子と呼ぶのかと。



 そうして魔女と出会い魔王となったルルーシュの修羅の道が、祖国ブリタニアへの反逆の道が始まる。

── The End




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