昔々、この世がまだ混沌としていた頃のこと。
世界の一角に、不老不死といわれる漆黒の髪と紫電の瞳を持つ心優しき魔王と、その魔王が愛し、またその魔王を愛する、同じく不老不死といわれるライトグリーンの髪と琥珀の瞳を持つ魔女の治める、小さいけれど豊かな国がありました。
その国には、人間の他にも妖精や精霊、ユニコーンなど── 後に幻獣と呼ばれるものたち── も数多く棲んでいました。
時にちょっとした諍いや揉めごと、悪戯が行われることもありましたが、魔王の支配の下、平和な日々が続いていました。それは何時までも続くものだと、皆、疑ってもいませんでした。
ところがある日のこと、その国の豊かさに目をつけた他の国の王が、邪悪にして巨大な魔物を引き連れて攻め寄せてきたのです。
魔王は国内にいる者たちを自分や魔女の住む塔に避難させると、ただ一人で果敢に敵の前に姿を見せました。
しかし敵から逃げ遅れた一部の人々を人質として押さえられ、魔王は思うような攻撃ができないばかりか、あろうことか敵の魔物の手に捕らわれてしまったのです。
魔物はニタリと嗤うと、魔王を捕らえたのとは反対の手で、魔王の心の臓をその躰から抉り出して握り潰してしまいました。いかな不老不死であろうと、心の臓を失っては存在しえず、魔王の躰は一瞬のうちに塵となって消え去ってしまいました。
「あっ! ああ、ああああああああああぁぁ───── っっ!!」
塔に逃れてきた者たちを守るために残っていた魔女は、魔王が消滅したその瞬間にそうと悟り、その口から絶叫を迸らせました。
魔王を失った魔女の大いなる怒りと嘆きは、魔女の持つ本来の力を遥かに上回って敵の上に巨大な雷となって襲いかかり、魔物諸共に呑み込んで全てを滅ぼし去りました。
後に残ったのは、敵の陣営のあった焼け野原と数多の屍と、愛する魔王を失った魔女の深い悲しみ。
敵はいなくなったものの、自分にとって唯一の存在である魔王を失った魔女の悲しみは、嘆きは、決して癒されることはありません。人々や人外のものたちが魔女を慰めますが、魔女が魔王を偲んで悲しみの涙にくれる度に、雨が降り、風が吹き、時に嵐が襲い、豊かであった国は見る影もなくなりました。
気が付けば、魔王の消滅以来、人外の存在は少しずつ次々とその姿を消してゆき、そうしていつしか魔女自身も掻き消すようにその姿を人々の前から消してしまいました。
永い時間が流れ、やがて人外の存在は神話や伝説の中のみの存在となっていきました。
神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの治世の時代。
その第5皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの長子が産声を上げた時、それまで止まっていた運命という名の歯車が、ゆっくりと、けれど確実に、その時を刻み始めました。
── The End (?)
|