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「因果なものだな」
ふと、ルルーシュは自分のベッドの上でピザをパクついている魔女を見ながら呟いた。
「ん？ 何のことだ？」
それを耳にした魔女── C.C.── は食べる手と口を止めてルルーシュに尋ね返した。
「権力を握った者が最後に何を望むかといえば、不老不死だ。つまり今のおまえだな。しかし実際に不老不死のおまえは、権力者でもなければ、生きたいと願っているどころか死を望んでいる」
「不老不死などつまらんものだ。短い限られた人生だからこそ、人は楽しみを見つけ、哀しみを味わう。
だが私には楽しみなど、楽しかったことなどない。哀しみは、無かったとは言わない。だがそれも長い時間の中で薄れ去った。
不老不死に良いことなど何もありはしないさ。ただあるのは、死ねない、老いることができない、何も遺せないということだけだ」
「何も遺せない？」
「そうだ。人はその血を次代に遺せるが、私にはそれすらもできない。ただ生きているだけだ。
それより、いきなりそんなことを言い出して、何かあったのか？」
ルルーシュが突然そのようなことを言い出したことを疑問に思って、C.C.はルルーシュに尋ねた。
「いや、たまたま思い出しただけだ」
「思い出した？」
「昔、枢木神社の土蔵で生活してた時、その蔵の中に『枕慈童』という能の本があったんだ。昔の中華で、800年も生き、神通にも通じて仙人になった童子の話だよ。
その能は「めでたけれ」と祝言で終わっているんだが、元をただせば帝の枕を越えた罪科で人も滅多に訪れぬような山奥に妙文を記した枕を持って流された身で、その妙文を菊の葉に写して、その下露で延命をはかり、それどころか不老不死になったわけだが、どうしてそこまで喜んでいられたんだろうな、と思ってな。所詮は作り話に過ぎないが」
「ふん。昔の中華の宗教、道教といったか、それの最終目標は仙人になって不老不死になることだったそうだから、そこから来てるんじゃないか？」
「なるほど。だが人も来ないような山奥でたった一人で不老不死になって何が楽しいんだ？ むしろおまえのように死を望む方が理解できるな」
「理想と現実は違うということさ」
「理想と現実、か」
「そう。私にとって不老不死であるということはこの上ない現実だが、その話を作った人間にとっては、それは理想に過ぎない。何故なら本当の不老不死を知らないから。
不老不死など、理想どころか悪夢だよ。何度死んでも生き返る、本当に死ぬことはできない。なのに苦しみだけは、痛みだけは味わうんだ」
「そうか……」
と一言で答えてルルーシュはフッと笑った。
「何だ？」
「いや、流石に何百年も生きた魔女の言葉には重みがあると思ってな」
「一体どうしたんだ、今日のおまえは？」
らしくもない、とC.C.はルルーシュに問いかける。
「何でもないさ。ただふと思い出しただけだよ」
その能の本を見つけた土蔵で一緒に遊んだルルーシュの幼馴染は、今日、ブリタニアの第３皇女であるエリア11副総督の選任騎士となった。
その二人の属するブリタニアの皇帝は一体何を望んでいるのか。過去の権力者たちのように、今のC.C.のような不老不死でも望んでいるのだろうかと、ふとそう思っただけだ。限られた人生だからこそ、C.C.の言うように楽しみも哀しみも実感できるのだろうに。
── The End
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