魔女の想い




 魔女── C.C.── はゼロ・レクイエムを前に悩んでいた。できうるならばこの己の共犯者── ルルーシュ── を死なせたくはないと。
 死なせない方法はある。自分の持つコードをルルーシュに継承させればいいのだ。
 それが元々の契約だ。契約の内容、己の要求が何か、それをルルーシュに話してはいなかったが、現在のルルーシュは知っている。今のルルーシュの状況を考えれば、彼は首を横に振るかもしれないが、どうしてもと、約束通り契約を果たせと迫れば、ルルーシュは従うだろう。
 そうすれば、己は永遠の生── 不死── から解放され、ルルーシュも死なずに済む。その代わり、今度はルルーシュが永遠の生を、死ぬことのできない生を歩むことになる。
 そうなればこの世の悪を全て背負って死んでいくことが己の贖罪と考えているこの共犯者は、今度は己の罪を背負って永劫の時間(とき)を生きていくことを己の贖罪と考え、他の誰かにコードを継承させることなど考えず、それこそ永遠に、人類という存在がなくなる時まで、孤独に生きていこうとするだろう。
 ルルーシュに自分が味わったような真似はさせたくないと思う。
 しかし計画はすでに動いていて、ルルーシュは止まる様子を見せない。止めることを考えない。今はゼロ・レクイエムのためだけに生きているといっていい状態だ。
 人間(ひと)一人の命で得られる平和などない、そんなものは所詮一時のまやかしに過ぎないと、そう告げたとしてもルルーシュは止まることはないだろう。
 ルルーシュを死なせたくない。けれど自分と同じ不死の苦しみを味わわせたくもない。
 他の者は、全ては主の望むようにとすでに諦めている。しかしC.C.は二つの思いの間で揺れていた。
 そうやって魔女が一人悩んでいるうちに、ゼロ・レクイエム決行の日が来てしまった。
 結局、C.C.には止められなかったのだ。
 そして予定通り、復活したゼロによって“悪逆皇帝”ルルーシュはその剣にかかり死亡した。
 何故か、涙は出なかった。それがルルーシュの望んだことだったからだろうか。



 C.C.の悩みはあっけない解決を迎えた。
 ジェレミアの指示により政庁に引き返したところで、ルルーシュが息を吹き返したのである。何のことはない、神根島でシャルルと対峙した時、彼の持つコードがルルーシュに移っていたのだ。
 コードは一度死ななければ発動しない。だからC.C.も当の本人であるルルーシュも気が付かなかったのだ。
 しかし“悪逆皇帝”ルルーシュは、紛れもなく沿道の観衆の前で殺された。その存在が再び現れるのはまずい。ましてや今は“不老不死”の躰となっているのだ。齢を重ねることもない。そんなルルーシュが今後も表舞台に現れるのは難しい。
 結果、ルルーシュは生き残った者たちに後を任せ、二度と表に立つことなく、亡くなった者としてそのままC.C.と共に行く宛のない旅に出ることにした。
 永遠の時を生きるのも、一人ではなく二人でならば、魔王と魔女らしくていいかもしれない。C.C.はそう思って、微笑(わら)った。

── The End




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