生まれた時が悪いのか、それとも俺が、俺という存在自身が悪かったのか。
何もせずに生きていくだけなら、それはきっとたやすいことだったのかもしれない。
けれどそんなことは俺にはできなかった。
真実を何も知らず、母に愛され、その愛に包まれているのだと信じていた幸せだった幼い頃。
しかし母を殺され、目と足の自由を失い障害者となったたった一人の妹を抱え、その妹と二人、死んでこいと、名前だけは親善のためという都合のいい名目の、けれど実態は人質として一触即発状態にある、敵国といっていい国に、いわば行って死んで来いと送り出され、そしてやがて、分かってはいたことだが、その母国からの突然の宣戦布告。
その国── 日本── は僅か1ヵ月ほどで神聖ブリタニア帝国に敗れ、11番目の植民地として“エリア11”と呼ばれることになり、そこに住んでいた日本人も、ナンバーズとして“イレブン”と呼ばれるようになって、ブリタニア人から差別を受けるようになり、そんな中、俺は、俺たち兄妹を捨てたブリタニアという国と実父である皇帝シャルル・ジ・ブリタニアに対する憎しみだけを育んでしまった。そうでもしなければ、とても生きてはいけなかったから。
とはいえ、幼い身で何ができるでもなく、唯一俺たちを探しにきて庇護してくれた、かつて母の、ヴィ家の後見であったアッシュフォード家に匿われ、出自を隠して名を偽り、妹と二人だけで生きてきた。そう、ある程度の年齢になり、ブリタニアに反逆できるまでの力を付けることができるようになるまで、何時何処から来るかもしれない暗殺者の存在に、そして可能性として俺たちを裏切ってブリタニアに売るかもしれないアッシュフォードの動向にも神経を尖らせながら。
そうして神経を張り巡らせ、息を顰めるようにして生きてきた日々の中、俺は一人につき一回だけ、という制限付きとはいえ、絶対遵守という名のギアスという力を得た。それはその力を俺に与えた、自らを魔女と名乗る少女── C.C.── に言わせれば、人としての理から外れて、俺を孤独にする王の力ということだったが、それでも構わなかった。その力を手に入れることとなった時、すなわち魔女と契約を交わした時、異母兄である総督たるクロヴィスの親衛隊に、妹を残して殺されるわけにはいかなかったし、それにブリタニアに反逆するために力が必要だったのも事実だったのだから。
その力のために、誰よりも俺を理解してくれた愛する異母妹を自ら手にかけることになり、結果として、どれだけ裏切られてもたった一人の大切な親友と、特別な存在と思っていた幼馴染の手によって、愛する実妹と引き離され、憎んで余りある父に売られ、記憶と力を失わされて、父の求めるC.C.をおびき出すために、24時間体制の監視下で餌としての日々を送らされることとなった。そして俺自身の力のせいではなく、間接的にではあっても、記憶を取り戻した後、俺を、自分の父親を死なせたゼロだと知りながら、誰よりも、そして最期まで好きだと、生まれ変わってもまた好きになる、とまで言ってくれた少女を殺された。そしてまた、偽りの日々を共に過ごし、ナナリーが死んだと思った後、罵倒を浴びせた俺を、それでも黒の騎士団の者たちに裏切られた俺を救うために、俺の制止の声も振り切って己の心臓に負担のかかる力── 絶対静止のギアス── を使い続け、その命を懸けて、誰よりも、そう、本当の妹であるナナリーよりも俺を理解し、俺を真実の兄のように慕ってくれた弟も失った。
そしてそんな後に知った、知らされた真実。
母の死の真相と、そしてその母と父がやろうとしていること。
それは人間としてとても許されることではない。決して許していいことではない。人間としての尊厳を失ってまで、どうして生きていると言うことができるのか。
そしてそれを正しいことだという両親が信じられなかった。信じたくなかった。
しかし二人が為そうとしていることは紛れもない事実であり、俺はそれを否定し、その結果、二人はCの世界とやらに飲み込まれたのだろうか、消え去った。
愛する異母妹を、実妹を、偽りの、だが最後には真実と言えるほどに思えた大切な愛しい弟を、そしてこんな俺を愛してくれた少女を失い、実の両親── 母はすでに精神体でしかなかったが── を殺し、その後で立てた計画の下、力を使ってブリタニアの皇帝となり、計画を進めていく中、実妹が実は生きていたことを知らされ、そしてその妹から敵と言われ、けれど今になって計画を変えることもできずに敵対し、やがて迎えたその日。
今まで生きてきた年月、後悔することが何もなかったと言ったらそれは嘘になる。けれど俺は幼い日に誓った。祖国ブリタニアを壊すと。それに何よりも、実父から「生きていない、死んでいるも同じ」と言われて、何もせずに生きていくことなどできなかった。俺は生きているのだと、何よりも証明したかった。そして力を手に入れたからこそ、真実を知ったからこそ、できること、やらねばならぬことがあった。それは力を手に入れたことによる義務であったかもしれない。否、権利だと言っていいかもしれないとすら思う。
それこそが俺が今まで生きてきたことの何よりの証。確かに力そのものはC.C.から与えられたものだが、それは誰に与えられたものでもない、俺自身が手に入れたもの。
C.C.との契約── 約束── を叶えてやれないことや、全てを知って協力してくれながらも俺の命を惜しんでくれる者たちには済まないと思うが、それでも手に入れた権利を手に、俺の汚名と引き換えに、これからの世界が、異母妹や実妹が望んだ“優しい世界”になることを願いながら、俺は、逝く──。
── The End
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