宮廷事情




 その日、第5皇女カリーヌが自分の離宮で上位皇位継承者を何人か集めて茶会を開いていた。
 色々と出た話題の中で、ふいにカリーヌがユーフェミアに尋ねた。
「そういえばユフィお異母姉(ねえ)さま、あのナンバーズの騎士を解任なさったのよね?」
「え? ええ、解任したけれど、それがどうかして?」
 ユーフェミアがナンバーズ上がりの名誉ブリタニア人の騎士を解任したと知れた時は、宮廷中で一時大いに話題になったものだ。ましてやそうして解任された騎士を、第6皇女のナナリーが拾い上げるような形で己の私的な騎士としたのだからなおさらである。
「どうしてわざわざ本国まで連れてきた騎士を、いきなり解任したのかしらと不思議に思って」
「ルルーシュに忠告されたのよ、解任した方が私のためだって」
「ルルーシュお異母兄(にい)さまに? ユフィお異母姉さま、そんなにルルーシュお異母兄さまと親しくしてらしたようには思えないけれど」
 カリーヌはユーフェミアの答えに更に疑問を持った。
「ちょっとね、色々あったのよ」
 流石に記憶の逆行がどうのこうのと、ナナリーやスザクが言っていたことは馬鹿らしく思えて話す気になれないユーフェミアだった。だからそう簡単に受け流した。
「でもそれで正解だったと思うよ。あの名誉はブリタニアの騎士というものを本当には理解していなかったからね」
 同席しているルルーシュが口を挟んだ。
「ああ、でもそれは過去形ではなく現在進行形でだね」
 それに同意するようにシュナイゼルが述べる。
「そうですね。ユフィの騎士に任命されたのに、異母兄上(あにうえ)のところの特派に所属し続けたし、今は今でユフィに解任されたらナナリーに鞍替えだ。理解(わか)っていればナナリーに鞍替えなんてするはずありませんからね」
 シュナイゼルの言葉にルルーシュが返した。
「ナナリーもナナリーよね。あの()も何も理解していないわ。やっぱり庶民出の母親の子供だからかしら」
 クスクスと笑いながらカリーヌがナナリーを馬鹿にしたように言う。
「そうだね。本来、騎士にとって主はただ一人だ。解任されてすぐ他の皇族に乗り換えるような者を騎士とは言わない。それでも、仮に不幸にも病などの自分の手の届かぬところで主を亡くしてしまった忠義に篤い騎士ならまだしも、解任されたばかりの騎士を自分の騎士に任じるようなことはしないものだ」
「そうよね、ルルーシュお異母兄さま。そういった意味ではお似合いの二人なのかしら。ユフィお異母姉さま、やっぱりあのナンバーズを騎士から解任して正解よ」
 カリーヌは笑いながらユーフェミアに告げた。
「そうね。今では何故彼を私の騎士に任命したりしたのかと、反省しているわ」
 ユーフェミアはスザクを騎士に任命した時のことを思い出しながらカリーヌに答えた。
 今、冷静になって考えてみれば、あれは、同情、あるいは同病相哀れむ、といったものだったのかもしれないと。
 戦闘中、ナンバーズだと知れた途端に批難を浴びていたスザクと、記者会見で真面にインタビューに応じることもできず、お飾りと陰で言われるままにいた自分。
 どこか通じるものを感じて騎士に任命したけれど、その通じるものとは、お互いに他人に認められていないというものだったのかもしれない。互いに通じるものがあったのではなかったのかもしれないと。
 そして今は、ナナリーがかつてのユーフェミアと同じ目にあっている。いや、もしかしたらもっと悪いかもしれない。
 ナナリーはかつてのユーフェミアのように、皇女でありながら騎士というものを本当には理解せず、ユーフェミアが騎士から解任したスザクを拾うようにして即座に自分の騎士に任命した。それは確かに私的なもので、選任騎士ではないが、傍から見れば同じことだ。
 騎士というものの本質を理解しないまま、スザクを己の騎士に任命したナナリーと、ユーフェミアから解任されたばかりにもかかわらず、あっさりと乗り換えるようにナナリーの任命を受け入れたスザク。
 この二人のことは、宮廷ではいい笑い話の種になっている。
「騎士といえば、ルルーシュ、君もそろそろ騎士を持った方がいいんじゃないのかい? 君が高校を卒業したら、父上は君を何処かの総督にするつもりでいるようだし」
 シュナイゼルがルルーシュに話を向けた。
「ええ、そうですね」
「心当たりはあるのかい?」
 重ねてシュナイゼルが問うのに、ルルーシュは考えながら答えた。
「エリア11でクロヴィス兄上の所にいたゴットバルト卿が、兄上を守れなかった分、私を守りたいと、騎士にしてくれと言ってきているので、考えているところです」
「ゴットバルト卿なら、辺境伯の身分だし、騎士というものの在り方をよく心得ているはずだ。彼なら君の騎士として十分な働きをしてくれるだろう」
「そうね、いい話だと思うわ、ルルーシュ」
 シュナイゼルに賛同するようにユーフェミアが告げ、カリーヌも頷いた。
 皇族の騎士になるということは大変な名誉であり、私欲を投げ出してその主に仕えることだ。生半可な忠誠心で務まるものではない。その覚悟もなしに騎士になるのは、その者を騎士に任命した皇族に対して無礼なことであり、また、そんな人間を騎士に任命した皇族の恥ともなる。
 ユーフェミアはスザクがナンバーズの出であり、いくら事前に教えられたとはいえ、真に皇族の騎士たるものがどういうものかを理解していなかったのを把握できていなかった。だが過日の出来事で、スザクの態度から自分を蔑にされているように感じ、また、ルルーシュからの忠告を受けてスザクを解任した。
 解任されたスザクはてっきりエリア11に戻るかとばかり思っていたのだが、同じ記憶を持つとやらいうナナリーに拾い上げられ、今ではナナリーの私的な騎士になっている。
 それが周囲からどんなに恥ずかしく愚かなことに見られているか、ナナリーもスザクも理解していない。
 スザクを解任したことは間違ってはいなかったと、ユーフェミアはそれを見て思った。そして今度騎士を任命するようなことがあれば、その時こそ間違えまいと思う。
 いささか遅きに失した感は否めないものの、ユーフェミアがスザクを解任したことはそれなりに評価されている。逆に評価を落としたナナリーと更なる恥の上塗りをしたスザクとは対照的に。
 そうしてナナリーとスザクの主従は、表立ってこそいないものの、他の皇族や貴族たちから笑い話の種となって、今日も宮廷の中で囃し立てられている。

── The End




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