後継者




 ゼロ・レクイエムによって、神聖ブリタニア帝国第99代皇帝たる“悪逆皇帝”ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがゼロにより弑逆された翌日、現在のゼロたるスザクは、ナナリーの「お兄さまの意思を継ぎたい」との思いから、彼女を次代の皇帝とすべく手配を整えていたが、その発表前に本国から新皇帝即位の発表がなされてしまった。
 発表を行ったのは、皇帝直属の諮問機関である枢密院であり、新皇帝たる人物は、5代前の皇帝の妹が降嫁した先の、今は元となってしまった地方貴族、ドニェプロフ侯爵家の当主アナトリィである。
 ゼロたちは急遽、事の次第を確かめるべく、ブリタニアの新帝都ヴラニクスへと飛んだ。
 ヴラニクスで彼らを待っていたのは、枢密院議長のシュトライト元伯爵であった。
 飛び込むようにして枢密院の中に入ってきたゼロたちを前に、シュトライトは落ち着いた態度で、何もかも分かっているとでもいうような態度だった。
「あなたがシュトライト議長、でよろしいか?」
 ゼロの問いかけに、シュトライトは「はい」と首肯した。
「今回の件、一体どういうことか説明してもらおう。我々はナナリーを次の皇帝として考えている」
「その前に、皆様おかけになってください。立ったままでは落ち着いて話もできません」
 確かにシュトライトの言う通りであり、ゼロと、同行してきたシュナイゼル、カノン、コーネリア、ギルフォードは示された応接セットのソファに腰を降ろし、ナナリーは車椅子をゼロの隣に寄せた。
「この度の新皇帝の人選は、ルルーシュ陛下のご遺言によるものです」
「何だと?」
「そんなことは聞いていない、そんな遺言を残していたなんて」
 ゼロ── スザク── すら聞いていないというルルーシュの遺言の存在に、一同は顔を見合わせた。
「ルルーシュ陛下は、ご自分亡き後のことを十分に考えておられました。その中で一番の懸念は、自分の次の代の皇帝が誰になるかでした。考えられたのはナナリー様。ですが、それはルルーシュ陛下にとっては決してあってはならないことでした。何故なら、ナナリー様はルルーシュ陛下と矛を交えて敗れた大逆犯、そしてそれ以上に、自国の帝都ペンドラゴンにフレイヤ弾頭を投下し、1億余りの人命を奪った大量殺戮者。そんなナナリー様を後継者に据えるのは、ルルーシュ陛下にとっては問題外だったのです。そこで我が枢密院に諮り、代を遡って新しい次代の皇帝となるに相応しい人物を探されました。その結果がアナトリィ陛下です」
 シュトライトの言葉に反論を述べられる者はこの場にはいなかった。シュトライトの言っていることはいずれも事実であり、彼らにすれば、今後のことを考えた場合、ルルーシュでなくとも後継者をナナリーに、というのは問題外だったのだろう。
 ナナリーは己の為した事実を突き付けられ、顔色を変え、ゼロもまたナナリーの意思を尊重するあまり、彼女の為したことを考慮することを無意識に避けていたことを悟った。
「5代という時を経て血は薄まっておりますが、性格的にも、アナトリィ陛下は問題のない方です。我々枢密院は、ルルーシュ陛下のご遺言に従い、アナトリィ陛下を支えて今後のブリタニアを導いていく所存です。ですがどうしてもあなたがたがナナリー様を次代の皇帝にと仰るのであれば、全てを詳らかにし、いずれに正当性があるか、国民に、場合によっては全世界の人々に諮ってもよいのですよ?」
「全てを、とは何のことだ?」
 コーネリアはシュトライトにどこまでのことを考えているのかと問いただす。
「もちろん、ゼロ・レクイエムの全て、ですよ。ルルーシュ陛下が本当のゼロであられたこと、シュナイゼル殿下の諫言により黒の騎士団に裏切られたこと、その結果のアッシュフォード学園での出来事。ルルーシュ陛下が“悪逆皇帝”などと呼ばれるようになったのは、そもそもアッシュフォード学園での超合集国連合の臨時最高評議会における、最高評議会議長皇神楽耶殿の発言からでしたし、その場での黒の騎士団の暴挙、暴言、内政干渉、ナナリー様が帝都にフレイヤ弾頭を投下したことなど、それこそ本当に全てを詳らかにしてもよろしいのですよ」
 そこまでのシュトライトら枢密院の覚悟を聞かされ、今回の新皇帝の人事に対して、否、と言える者はいなかった。
 否と言えば、シュトライトは告げた通りに全てを世界に詳らかにするだろう。その結果世界がどうなるか。
 超合集国連合は瓦解し、黒の騎士団は解体、そして黒の騎士団幹部たちや自分たちが批難の嵐を受けるだろうことは目に見えている。
 お兄さまの意思を継いで頑張っていきたい── そのナナリーの決意は立派だが、それまでにナナリーが為してきたことを考えれば、彼女を新皇帝にというのはとても無理な話なのだ。
 ゼロたちはシュトライトの言葉に黙って引き下がざるを得なかった。



 神聖ブリタニア帝国第100代皇帝アナトリィの治世は、第98代皇帝シャルルの植民地主義、覇権主義を否定し、穏健融和路線であり、第99代皇帝ルルーシュの為した、特権階級の廃止、ナンバーズ制度の廃止、人種差別の廃止を受け継いだものだった。
 そしてある時、アナトリィはマスコミのインタビューに答えて言った。
 自分は先のルルーシュ陛下の遺言に従って治世を行っているに過ぎないと。
 その発言は、現在アナトリィが行っている事柄を考えれば、ルルーシュの“悪逆皇帝”というイメージとは遠くかけ離れたものだった。
 そこからマスコミや研究者たちによって、かつてのルルーシュの業績の見直しが諮られ、流石にルルーシュがゼロであったことまでは分からなかったようだが、それ以外はシュトライトが詳らかにしてもよいと言っていたこととほぼ同等の内容が明らかとなり、当時の超合集国連合最高評議会議長であった皇神楽耶と、黒の騎士団、特に黒の騎士団幹部の多くを占めていた日本人幹部たちに対する世論は一気に厳しくなった。
 戦後、合衆国日本の初代首相となっていた扇要は、元々その器ではなく、失政も相次いだことから即座にその座を追われ、黒の騎士団に幹部として残っていた者たちも次々に黒の騎士団から追われた。
 ブリタニアは人口比率条項から未だ超合集国連合には加盟していなかったことに加え、ナナリーたちは一般市民として市井に紛れていたがために直接の被害は受けなかったが、超合集国連合と黒の騎士団は、その運営内容、規律、各種条項を改めて見直し、新しい運営を迫られることとなった。
 最終的に、皇神楽耶は議長職を引き、ゼロことスザクも参謀であったシュナイゼルと共に黒の騎士団から身を引き、そのまま黒の騎士団は解体されて新しい組織が編成され、ブリタニアも加盟した超合集国連合共々、新しい時代を迎えることとなったのである。

── The End




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