世界は混沌としていた。
神聖ブリタニア帝国の第99代“悪逆皇帝”ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、仮面の男“ゼロ”の手にかかって果てた後、世界は熱狂に包まれた。
これからの世界は、力で押さえつけられるのではなく、話し合いによって上手く回っていくと、誰もがそう考えた。そのためのゼロという存在であり、超合集国連合であり、黒の騎士団の存在であった。
しかし違った。
何が間違いの元だったのか。
全てはルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを“悪逆皇帝”としたことが、そしてその命を奪ったことが誤りであったのだと人々が気付いたのは、彼が死んでからそう長い時間が経ってのことではなかった。
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、即位直後は開明的であり、そのドラスティックな改革── 皇族特権の廃止、貴族階級の廃止、財閥の解体、ナンバーズ制度の廃止、エリアの順次開放宣言など── から、民衆からは“正義の皇帝”、“解放王”と呼ばれ、最初に彼を“悪逆皇帝”と謗ったのが、当時の超合集国連合の最高評議会議長皇神楽耶であり、それまで彼はせいぜい広大な皇帝陵の破壊の他には“悪逆皇帝”と呼ばれるようなことは何一つしていなかったことが一つ。
現在では超合集国連合に加盟し、大国としてその要の一つとなった神聖ブリタニア帝国改め合衆国ブリタニアの代表、ナナリー・ヴィ・ブリタニアが、自国の帝都ペンドラゴンにフレイヤ弾頭を落とした張本人の一人であり、そのために1億からの人間が一瞬のうちに死んだと分かったことが一つ。
第2次トウキョウ決戦のフレイヤ弾頭投下の後で行われた、黒の騎士団幹部たちとブリタニアの使者との間で行われた会談により、黒の騎士団日本人幹部たちによりゼロが謀殺されようとしたことが知れたことが一つ。それは映像の一部── 音声はなかった── が流れたことで明らかとなったことであり、映像がある以上、否定はできない。
そしてその映像から分かったことがもう一つ。これこそが一番大きな事実だろう。
ゼロが、実はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア本人であり、現在のゼロが真っ赤な偽物であること。
嘘はいつかはバレる時がくる。いつまでも隠し通せるものではない。
何時、誰が、どのようにしてその情報を、映像を流したのかは分からない。けれど流されたそれらに、世界は恐慌をきたした。
合衆国ブリタニアの、その代表であるナナリー・ヴィ・ブリタニアの信用は地に落ち、超合集国連合は信頼を失くして機能しなくなり、黒の騎士団、特に日本人幹部たちは裏切り者の烙印を押された。当時の黒の騎士団の事務総長であり、合衆国日本の首相となっていた扇要とその夫人である千草ことヴィレッタ・ヌゥは石もて追われた。現在のゼロも同様に。
誰もが誰をも信じられなくなり、各国は疑心暗鬼に駆られた。とても話し合いによって纏められる空気ではなくなっていた。誰を、何を信用していいのか、皆分からなくなっていた。
信頼を築くのは大変だが、その信頼を失くすのは一瞬で済む。そして失った信頼を回復するのには、更に長い時間と大変な労力を要する。
そもそもたった一人の死によって世界が纏まるなどと思ったのが間違いなのだ。世界はそれほど簡単でもなければ、そんなに優しいものでもない。たった一人の犠牲の上に成り立つ世界などたかが知れている。
一人の魔女が嘲笑っていた。あまりにも呆気なく崩れた世界に。
そしてその魔女の協力者達たち嘲笑みを浮かべていた。
世界は、人々は、思い知ればいいのだと。あの方の苦しみを、哀しみを、孤独を、痛みを、人々は思い知るべきなのだと。
そうして世界は混沌に包まれる── 。
── The End
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