誰が駒鳥殺したの




 誰が駒鳥殺したの。
 それは私、と雀が言った。



「ルルーシュはユフィの仇だ」
 Cの世界でルルーシュがシャルルたちを消した後、そう言って、スザクはルルーシュに剣を向けた。
「だから?」
「だから、だと!? おまえは、自分の妹を殺しておきながら……」
「くっ……」
 未だに何も知らず、気付かずにいるスザクに、ルルーシュはおかしさを耐えられなくなっていた。
「は、はははっ」
 大きな声ではっきりと笑い出したルルーシュに、スザクは怒りから顔を真っ赤にして怒鳴り上げた。
「おまえは、やはり生きていちゃいけない! おまえは人間の皮を被った悪魔だ! 生きている資格なんかない!!」
「そこまで言うなら、まず問いたい。俺がユフィを撃った時、おまえは何処にいた?」
「え?」
「皇族の選任騎士であるならば、何よりもその仕えるべき皇族、つまりユフィを守るために、おまえはユフィの傍らにいなければならなかった。だが俺がユフィを撃った時、ユフィの傍には誰もいなかった。選任騎士たるおまえを含めて、誰一人として」
「そ、それは……」
 スザクはルルーシュの問いかけに答えることができず、瞳を彷徨わせた。
「騎士ならば、常に守るべき主の傍らに控え、最悪、己が身を挺しても、あの時に限って言うならば、俺がユフィに向けて撃った銃弾を己の身に代わりに受けてでもユフィを守るべきだった。なのにそこにおまえはいなかった。おまえは一体何処で何をしていた?」
 守るべき主を守らずに何をしていたのかと、ルルーシュはスザクに重ねて問う。
「それに、俺がユフィに向けて撃ったのは腹部に一発だけ。ユフィを身動きできないように止めるために、けれど致命傷にはならぬようにと」
「な、何が言いたいんだ……」
「ここまで言ってもまだ分からないか?」
 眉を顰めるだけで、本当にルルーシュの言わんとしていることを理解できないスザクの様に、ルルーシュは再び笑い声を上げた。
「確かにおまえは体力馬鹿だと俺はよく言っていたが、流石に、おまえがにここまで本当に何も分かっていない大馬鹿だとは思っていなかったよ。
 おまえは、俺に撃たれたユフィをどうした? どう扱った?」
「そ、それは、少しでも早くユフィを救うために治療をと、ランスロットでアヴァロンへ……」
「そう、おまえはKMFで上空にいるアヴァロンへユフィを運んだ。その行為により、ユフィの躰に負担のかかる行為を、傷口を悪化させるだけのものでしかないことをしたんだ」
 ルルーシュの言葉に、スザクは返すべき言葉もなく息を呑みこんだ。
「それだけじゃない。ユフィは翌日発表されると言っていたが、仮にもシュナイゼルは帝国宰相の地位にある。ならばユフィが皇籍奉還を行ったことはとうに知っていただろう。つまりユフィはもう皇族ではなく一般の者だと。それにユフィは皇籍奉還という技を使って無理矢理成し遂げたが、彼女がやったことはブリタニアの国是に反したこと以外の何物でもなく、そうまでして()ち上げた特区でユフィがしたことは、原因の如何にかかわらず、現象だけ見ればただの虐殺。つまりブリタニアという国に泥を塗っただけ。加えて、ユフィは皇位継承争いを考えれば、シュナイゼルにとっては政敵であるリ家のコーネリアが溺愛する実妹だ。
 まだ分からないか、スザク?
 シュナイゼルにはユフィを助ける理由や意味など何一つ無かった。そんな場所に、おまえはユフィの躰にかけてはいけない負担をかけ、傷を悪化させるだけ悪化させた状態で運び込んだ。しかもロクな治療は施されないだろう場所にだ。
 ユフィの負傷は、確かに小さなものではなかったが、おまえが彼女の躰にかけた負担をかけずに、きちんと応急処置を施して、それなりの設備、技術を持った所へ運んでいれば死ぬことはなかった。助かったはずなんだ。俺が与えた傷は決して軽いものだったとは言わないが、それでもその程度の傷しか与えなかった。腹部にたった一発、それも急所を外していたのだから。
 確かに俺はユフィを撃った。それは間違いのない事実で、否定などしない。だがユフィに死の止めを刺したのは、他でもない、ユフィを守るべき選任騎士という立場にあったおまえだよ、スザク。撃った俺ではなく、おまえが、おまえこそが、ユフィを殺したんだ。死への引導を渡したんだよ」
 最後にはスザクを指さしながら告げられたルルーシュの言葉に、スザクは手にしていた剣を執り落とし、それにも気付かぬかのように、その場で倒れ込むかのように蹲った。
「ぼ、僕が……、僕がユフィを……」
 スザクは両手で頭を抱え込み、その場に突っ伏した。
「嘘だ、嘘だ、嘘だっ!! 僕はただユフィを助けたくて……」
 今のスザクには何も考えられない。ただルルーシュの言葉が、スザクの頭の中で木霊し続け、それに対して否定の言葉を叫び、泣き喚き続けるだけだ。
 実際、あの時のスザクには、ただ一刻も早くユーフェミアを治療のできる場へ運び込むことだけを考えて、他の事は一切考えていなかった。いや、考えられなかった。自分のしている行為が、如何にユーフェミアに負荷を与えることなのか、そんなことにすら考えはおよんでいなかった。
 その時の、何も深く考えずにとったスザクの行為を、如何に浅慮な考えなしのことだったかと、自分が仇と言い続け、狙い続けていたルルーシュに冷酷に事実を突き付けられて、ユーフェミアを守るべき立場の騎士であった自分が取った行為を、それこそがユーフェミアを真に死に至らしめたのだと責められ、それはまた、自分のルルーシュに対する憎しみは、間違いも甚だしいものだったのだと言われたも同じことであり、今のスザクはただ泣き続けることしかできない。
 そんなスザクを、ルルーシュは冷酷に見やりながら、C.C.に外へ出ることを促した。
 C.C.はスザクの様子を気にかける素振りを見せたが、ルルーシュはそれに対して、冷たくただ一言、「放っておけ」と言って出口へと歩き始め、C.C.も結局は直ぐにその後を追った。
 ルルーシュにはまだやるべきこと、為さねばならぬことがあるのだから、今のスザクに構っている余裕などない。スザクはすでにルルーシュにとってはただの裏切り者でしかなく、友情はとうに消え失せていたのだから。



 誰が駒鳥(ユフィ)殺したの。
 それは(スザク)、と(ルルーシュ)が言った。

── The End




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