EU戦での勝利を祝しての祝賀会の後、部屋に戻ったスザクを一人の少女が待っていた。
「君はっ!?」
ライトグリーンの髪、琥珀の瞳、かつて常にゼロと共にあったゼロの共犯者であり、シャルルが捜し求めている不老不死の魔女C.C.。
「大したご活躍のようだな、裏切り者の騎士よ」
「何だって!?」
捕まえなければ、と思いながら、スザクはC.C.から放たれた言葉に目を見開く。
「僕のどこが裏切り者だと言うんだ!」
「裏切り者だろう。何よりもナンバーズとブリタニア人の平和共存を望んでいたユーフェミアのかつての騎士よ。ユーフェミアの意思に共感を覚えていたおまえが、今では弱肉強食を謳うシャルル直属の騎士たるラウンズだ。ユーフェミアから見れば間違いなくおまえの行動は裏切りに他ならないのではないか? ましてや騎士にとって主とは唯一人のはずなのに、ユーフェミアが死んだ途端にシャルルに乗り換えたのだから」
「それは! ブリタニアで力を得るためだ! ブリタニアで力を得て、ワンになって日本を取り戻すために必要な事だからだ。僕の心は今でもユフィのものだ、決して裏切ってなんかいない!」
「だがおまえがしていることはユーフェミアが望んでいたこととは真逆の事に違いはないだろう? それでなくとも、ユーフェミアに膝を折った時点で、その昔、ルルーシュたち兄妹を守ると言った誓いを破り彼らを裏切った男が」
C.C.の指摘に、かつて幼かった頃、確かにルルーシュたちを守ると約束していたことをスザクは思い出した。だがその約束をスザクは違えたことはない。確かにルルーシュたちとの間には七年もの空白の期間はあった。だが、少なくともルルーシュがゼロだと知るまでは、その約束を忘れたこともないし違えた覚えもない。
「僕は約束を忘れたりなんてしてない! ユフィの騎士になったのも、ユフィの考えに共鳴してのこととはいえ、その根本はルルーシュたちを守るための力が欲しかったからだ! ルルーシュがゼロなんかでありさえしなければ……!」
スザクの言葉にC.C.は呆れたように溜息を零した。
「ルルーシュたちを守るため? 危険に落としておいてよく言う」
「? どういうことだ?」
「おまえ、本当に分かってなかったのか? そこまで馬鹿だったとは思わなかったな」
「な、何をっ!?」
「本当のことだろうが。名誉で軍人のおまえがルルーシュの傍にいる、更には皇族であるユーフェミアの選任騎士になった。にもかかわらず、彼女が許しているからと学園に通い続けルルーシュの傍に居続ける。それがどれほどルルーシュたち兄妹に危険を齎していたか、本当に理解していなかったのか?」
「僕が傍にいたことが、危険?」
訳が分からないというふうにスザクは目を見開いた。そんなこと、考えたこともなかった。ユーフェミアの騎士となったことで、ルルーシュたちを守る力を得ることができたと喜んでいたのだ、当時は。
「本当に分かっていなかったんだな。ルルーシュはおまえに言ったはずだぞ、皇室から隠れている、アッシュフォードに匿われていると。そこに皇族の選任騎士が来てみろ。ましてやおまえは名誉上がり。おまえの追い落としを狙う者は大勢いるし、それを抜きにしても、騎士となるおまえの身の回りは調べられることになる。それはつまり、隠れているルルーシュたちの存在に気付かれる可能性が高まるということだ。おまえがルルーシュたちの傍にいる、それだけでな」
「そ、そんな……」
スザクは考えてもみなかったことをC.C.から告げられて躰を震わせた。自分の存在がルルーシュたちを危険に曝していたなど、考えつきもしなかった。
「それを、幼馴染の親友だからとおまえを生徒会に入れてやり、学園で過ごしやすいようにしてやり、更にはユーフェミアの騎士として膝を折ったおまえを、おまえが出世したのだからと、心の中ではどう思っていようともおまえには喜んでいると思わせた。そこまでしてやったルルーシュにおまえは一体何をした? それだけじゃない。ルルーシュがゼロとして登場したのは、クロヴィス暗殺の容疑者として逮捕されたおまえを救い出すためが最初だ。なのに当のおまえは、ゼロに救われたことも忘れたかのようにゼロを否定し続け、白兜のデヴァイサーとして黒の騎士団の一番やっかいな敵となった。そしてそれを知っても、少なくともルルーシュは、ルルーシュ・ランペルージはおまえの友人であり続けようとしたし、ゼロとしても何度もおまえを仲間に引き入れようとその手を差し出しもした。
おまえはそんなルルーシュの心を少しでも理解しようとしたことがあったのか? それとも親友として当然のことと受け取っていたのか? だとしたらルルーシュはおまえから見たらとんだお目出度い奴だったということだな。
それの一体どこが幼馴染の親友なんだ? 笑わせてくれる。おまえはルルーシュから与えられるものを当然の如く受け取っておきながら、真実を何一つ知ろうともせずにただルルーシュを否定し続けた。いや、今も否定している。 そんなおまえが裏切り者でなかったとしたら、一体裏切り者とはどんな奴を指して言うんだろうな」
スザクはルルーシュがゼロだと知れる前のルルーシュの自分に対する態度を思い出していた。
確かにルルーシュは何時もスザクのことを気にかけてくれていた。誤認逮捕から解放された後、心配をかけたくないと技術部に配属になったと告げた時、心底安堵したようにルルーシュもナナリーも喜んでくれていた。そしてユーフェミアの騎士になった時には、おそらくミレイの発案ではあったのだろうが、祝賀会で喜んでくれてもいた。騎士になったことを、「おめでとう」と笑顔で祝ってくれていた。その裏でルルーシュがどんな思いをしていたか、その身にどれほどの危険を感じていたかなど、考えたこともなかった。
「ふん。おまえもルルーシュとは別の意味でお目出度い馬鹿な奴だと思っていたが、今回のことで更に痛感したよ。おまえは私が思っていた以上に大馬鹿だ。力を付けてブリタニアを中から変える? それこそブリタニアの掲げる弱肉強食の理論に他ならないというのに、それにさえ気付いていないのだろう? おまえはブリタニアという国にどっぷりつかっている。名誉と付くとはいえ、正しくブリタニア人そのものだよ、シャルルの騎士以外の何者でもない。せいぜい力を付けてエリア11を己のものとして、ブリタニア人としてイレブンを飼い馴らすことだな」
「そ、それは違う! 僕は……」
スザクがC.C.の言葉に思いをとぎらせ顔を上げた時には、窓が開いて入ってくる風にカーテンが揺れているだけで、魔女の姿はすでに何処にもなかった。
スザクは力なく床に頽れた。
ルルーシュがゼロだったことを抜いて、そうと知る前のことを考えた時、自分が如何にルルーシュたち兄妹のことを考えていなかったか、如何に自分のことしか考えていなかったか、如何にブリタニアの法に則った自分の考えだけが正しいのだと思い込んでいたか、思い知らされた気がした。
そして何よりもゼロの登場が自分のためだったとは。確かにクロヴィスを殺したのはルルーシュだったのだろう。だがそれはシンジュクゲットーの掃討作戦を止めるためだった。そしてゼロとなったのは誰でもない、スザクのため。自分という存在がゼロという化け物を生み出したのだと知らされて、スザクは恐怖した。自分がいなければルルーシュがゼロとなることもなく、従ってユーフェミアがゼロに操られて日本人虐殺などという真似を働くこともなく、ましてやゼロによって、異母とはいえ実の兄に殺されることもなかったのだと知らされて、己自身の存在を嫌悪した。
自分がいなければゼロは存在することもなく、ルルーシュは今も妹のナナリーと共にアッシュフォードで何事もなく暮らしていけるはずだったのだと思い知らされて。
けれどもう遅い。スザクはゼロを捕まえ皇帝の前に引き摺りだした。そしてスザクはその褒賞として皇帝直属の騎士たるラウンズの地位を得、今またこのEUで罪もない人々を殺している、ブリタニアのために。そこに一体どんな正義があるというのだろうか。
もっとルルーシュと話し合うべきだった。思い返してみれば、何度もルルーシュが自分に何か言いかけていた節があった。それにもっと思い至るべきだった。
しかし全ては後の祭り。スザクはルルーシュの心を、思いを何も知らぬまま、気付かぬままに来てしまった。二人の心は擦れ違ったまま、もう二度と昔のような関係に戻ることはないのだろう。
── The End
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