「お兄さま、スザクさん、私は……お二人の敵です!」
スクリーンの中、シュナイゼルが示した先にいたのは、死んだと報告されていた、ルルーシュの妹にしてエリア11総督のナナリーだった。
「ナナリー……生きて、いたのか……?」
「はい、シュナイゼルお異母兄さまのお蔭で」
「シュナイゼル……」
目の前に示された現実に、言うべき言葉を探しあぐねているルルーシュに代わってスザクが口を開いた。
「ナナリー。君はシュナイゼルが何をしたのか分かっているのかい?」
「はい。帝都ペンドラゴンにフレイヤ弾頭を撃ち込んだ」
スザクの責める言葉に動じることもなく、ナナリーは返した。
「それが判っていて何故!?」
「では、ギアスの方が正しいというのですか? お兄さまもスザクさんもずっと私に嘘をついていたのですね。本当のことをずっと黙って……。でも、私は知りました。お兄さまがゼロだったのですね。どうして……! それは私のためですか? もしそうなら、私は……」
そのナナリーの言葉にルルーシュは体の前で指を組んで答えを返す。しかし組まれた指は小刻みに震えていた。
「成程、確かに俺は、俺がゼロであることをずっと黙っていた。黙っていたことが嘘だというのならそれを認めよう。だが、ならばおまえはどうなのだ? アッシュフォードに庇護されてからは、ランぺルージという嘘の名と経歴を用い、第2次トウキョウ決戦では、フレイヤの使用で3,500万余もの死傷者を出しながら自分は死んだと嘘をつき混乱に拍車をかけた」
「それとこれとは違います。お兄さまのギアスは……」
「違わない! むしろフレイヤの方が脅威だ。人の意思など無関係に一瞬にして全てを消し去る。トウキョウ租界だけじゃない。今度の帝都ペンドラゴンへのフレイヤ使用で、1億もの人間が何も分からぬうちに一瞬にして消滅させられたんだぞ!」
「そんなことはありません! 帝都の人たちはあらかじめ避難させたはずです」
「避難させただと? 誰がそんなことを言った?」
「シュナイゼルお異母兄さまです」
「……それをおまえは信じたのか?」
「シュナイゼルお異母兄さまは嘘はつかないと仰っいました」
「それが嘘だとは思わないのか? つまり俺がゼロだと言わなかった、ただその一事で、おまえが生まれてから14年もの間共に暮らした俺よりもシュナイゼルを信じるというわけか。そういうことだな?」
確認するかのように問いかけるルルーシュに、ナナリーは揺らがない。
「分かった。おまえが俺の言うことを何も信じずにシュナイゼルの言葉に従うというのであれば、ブリタニア皇帝たる俺に弓弾く者として応じるまでだ。妹だとて容赦はしない。いや、俺にはもう妹はいない。覚悟するがいい」
「お兄さま!」
そう告げるだけ告げて、ルルーシュはまだ何か言いたげなナナリーを無視して通信を切ってしまった。
ルルーシュはうなだれて、右手をその額に当ててを頭を支えた。
『……兄さんは嘘つきだから……』
かつてのロロの言葉が脳裏に蘇る。
共に過ごしたのはたった一年程、そして血の繋がりは全く無かった。しかしロロは間違いなく、ルルーシュにとって弟だった。
「……共に過ごした時間や血の繋がりじゃないんだな……」
「ルルーシュ」
「ナナリーを特別扱いすることはできない。ましてやペンドラゴンの1億もの臣民に対する大虐殺はどうにもできやしない。ゼロ・レクイエムは潰えた。もう、あの方法では無理だ、被害があまりにも大き過ぎる……」
「ナナリーを切り捨てるか」
傍らで全ての遣り取り、ルルーシュの様子を見ていたC.C.が確認するように問いかける。
「スザクや、全て知った上で協力してくれている皆には悪いが、今の計画ではあまりにも無理があり過ぎる……。
俺には妹はいない。いるのは、いたのは弟のロロだけだ……」
そうしてルルーシュは自分の中からナナリーの存在を切り捨てた。
そしてもう一方のスザクは、ナナリーとの遣り取りに加え、ルルーシュの「ゼロ・レクイエムは潰えた」との言葉にショックを受け、ただただ呆然としていた。
── The End
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