除 籍




 第3皇女ユーフェミアの選任騎士に就任してから暫くしたある日のこと。その日は、ユーフェミアは外出の予定はないということで、スザクは朝から特派に顔を出した。
「おはようございます」
 スザクが作業テーブルのところにいたロイドとセシルに挨拶すると、ロイドが目を丸くして応えた。
「あれっ、スザク君? 君、どうして此処に来たの? もしかして、通達、まだ見てない?」
「えっ? 通達?」
「そう。特派は除籍、軍も除隊。確か、昨日か一昨日付けで」
「なっ!? 知りません、そんなこと!! 除籍って、除隊って、僕が何かしたっていうんですかっ!?」
 ロイドに食ってかかるようにスザクは問いかけた。
「何をした、って、君、ユーフェミア皇女殿下の騎士になったじゃない」
「? それがどういう関係があるんですか?」
 思わぬ答えに、スザクは頭の中でクエスチョンマークを飛ばす。
「ホントに分かんない?」
 ロイドは右の人差し指で眼鏡を上げながら問い返した。
「分からないから聞いてるんじゃないですかっ!?」
 スザクのその答えに、ロイドは思わず肩を竦めた。
「僕も、それからシュナイゼル殿下もさぁ、待ってたんだよね。君か、もしくはユーフェミア皇女殿下、せめてコーネリア殿下が言ってこられるのを。でもそう待っていられる状態でもなくなってね」
「僕やユフィ、あ、いえ、ユーフェミア皇女殿下が何を言うっていうんですか?」
 スザクはユーフェミアを愛称で呼び、それに気付いて慌てて呼び直して言葉を続けた。
 その様子にロイドは意地悪そうに、ほんの一瞬ではあったがニッと笑いを浮かべた。
「君はユーフェミア皇女の選任騎士になった。それに間違いはないよね?」
「そうですよ」
「で、この特派はシュナイゼル殿下の直轄」
「そんなことは知ってますよ。だからどうだっていうんです?」
「ここまで言って分かんない? 君はユーフェミア皇女殿下とシュナイゼル殿下と、二人の皇族に仕える形になっちゃったわけだよ」
「それのどこに問題があるんですか?」
 その言葉に、まるで何も分かっていないスザクに、端で聞いていたセシルが額に手を当てた。
「皇族の騎士、選任騎士の意味、分かってる? その方ただ一人に仕える騎士、ってことだよ?」
「分かってますよ、叙任式の前に一通り教えて貰いました」
「なら分かりそうなもんだと思うけどねぇ。君はユーフェミア皇女の選任騎士になった。つまり、もう他の皇族の方々に仕えることはない、できない。それがたとえ宰相のシュナイゼル殿下であっても」
「あ……」
 漸く事の次第を呑み込んだように、スザクは一言口にした。
「分かったぁ?」
「で、でもユフィなら許してくれるはずです、今までも何も言われなかったし……」
「ボク、待ってた、って先に言ったでしょ。でももう待ってられる状態じゃなくなったんだよね。ユーフェミア皇女殿下が何も言わなかったのは、許してたんじゃなくて、理解してなかっただけ。コーネリア殿下が何も言ってこなかったのは、君が名誉だってことの方にばかり気をとられていたからかな、って思うけど。だからシュナイゼル殿下は君を特派から除籍したの。ついでにユーフェミア皇女殿下は軍人じゃなくて文人だから、文人のユーフェミア様に軍人をつけるわけにはいかないってことで軍は除隊」
「何故、軍人じゃ都合が悪いんですか? コーネリア総督の騎士のギルフォード卿だって軍人なのに!」
「ギルフォード卿が軍人なのは、仕える相手であるコーネリア総督ご自身が軍人だからだよ。でもさっきも言ったように、ユーフェミア副総督は文人、ゆえに選任騎士が軍務についてたらまずいわけ」
「だから、それは何故ですか?」
 スザクの理解の無さに、ロイドもいい加減厭になり始めていた。しかしはっきり分からせないわけにはいかない。
「軍務に就いている間に主に何かあったら大変だからに決まってるじゃない。
 だからこれは忠告。学校も辞めた方がいいね。で、始終主の傍に控えるべきだよ。例え政庁の中にいたとしても、テロリストが入り込んだり、何が起きないとも限らないからね。分かった?」
「そんな……、ユフィがいいって言ってくれているのに……」
「どうしてもって言うんなら、本国の枢密院とかけあうんだね。ダメ出ししてきたのはあそこだから。まあ、その後にシュナイゼル殿下からも一言あったけどさ。」
 尚も言い募るスザクに、ロイドは呆れたように最後通牒のつもりで枢密院の名を出した。
「枢密院? 何ですか、枢密院て?」
 ロイドは思わず深い溜息を吐き出した。
「そのくらい子供じゃないんだから自分で調べなよ。ボクたちはこれから新しいパーツを決めなきゃならないんだから。とにかく、分かったらとっとと主の元へ帰るんだね」
 半ば投げ遣りに言い放ったロイドは、もうこれ以上言うことはないとばかりに、セシルと向かい合う形に座り直してファイルをめくり始めた。
 その様子に、スザクは本当にもう此処は自分のいていい場所ではないのだと、漸くそれだけを察して、トボトボと特派のトレーラーを後にした。

── The End




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