人 生




 俺は間違えた。
 人生とは、自分で切り開いていくものだ。
 俺はおまえのためを思っておまえを守り続けてきた。しかしそれが間違いだった。
 兄として、妹のおまえを守ること、その全てが間違っていたとは思わない。
 だが、俺のそれは違った。
 俺はおまえを守るために、守るという名目で、結局のところは世間の有様を知らせることなく── それでも周囲から多少なりとも耳に入ってくることはあっただろうが── 甘やかしてきたのと同義だった。
 身体障害を抱えるおまえは、弱肉強食を謳うブリタニアにおいては、弱者以外の何者でもない。それは事実だ。しかしそれでも、たとえ弱者と分類されようとも、おまえの人生はあくまでおまえの人生であり、何もできないということはないはず。探せば、何かしか見つかったはず。
 たとえ兄とはいえ、俺に妹であるおまえの人生を決める権利はない。狭めることもしてはならない。
 俺がすべきことは、外敵からおまえを守りつつ、しかし同時に、おまえが自分で自分の人生を切り開いていくことができるように、教え導いてやることだった。
 おまえを守る── それは、俺にとっては俺が生きていくための何よりの理由だった。父から「生きていない」と生を否定された時から、それは明らかに俺のトラウマとなり、俺は歪んでいったのだろう。そしておまえを守ることが俺の生きる理由となった。それが間違いの元だったのだ。
 今なら分かる。子は親を選べない。そして親には子を育てる義務がある。だから親が子に対して「生きていない」などと言う権利はない。子がいつか独立して一人で生きていくことができるように導いてやるのが親の務めだろうと。
 その点で、俺がおまえにしてきたことは誤りだった。母が殺され、父に捨てられ、たった二人きりの兄妹で生きていかねばならなくなった時、小さな頃はともかくも、ある程度の年齢になったなら、ただ守るだけではなく、少しずつでいい、己一人で自分の人生を切り開いていけるように、それを探す術を教えていくべきだったのだ。
 それをしなかったばかりに、おまえはシュナイゼルの言うことをあまりにも素直に単純に信じ込み、自分で考えるということをせずに、言われるがまま、フレイヤを帝都ペンドラゴンに投下することを認め、一国家の首都を破壊、いや、その全てを消滅させ、億に上らんとする余りにも多くの人の命を、人生を奪い去った。そしてそのことに対して、これもまたシュナイゼルの言葉を信じるままに、己では何の検証をしようともしなかった。
 おまえをそんな風にしてしまったのは、結局のところは俺の育て方、おまえに対する接し方に一番の問題があったのだ。
 何時か、おまえは真実に気付く時が来るだろうか。己の為した事の結果を知る時が。そしてその時、果たしておまえはどうするのだろう。きっととても後悔するだろう。もしかしたら正気を保つことができなくなるかもしれないとも思う。けれどそれでも、何時の日にか、おまえが自分が為した事の真実を知る日が来ることを望む。そしてその責任をきちんと果たすことを。
 それがおまえを残して逝こうとしている俺の一番の後悔であり、心残りであり、最期におまえに対して望むことだ。
 そしてこんな愚かな兄のことは忘れてくれていい、けなし、罵ってくれていい。それでも、俺はおまえを愛していたよ。俺のおまえに対する育て方は結果的に確かに間違っていたが、その思いだけは俺の真実だから。

── The End




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