自　嘲

　何故自分はあの男を親友だなどと思っていたのだろう、とルルーシュは思った。
　ルルーシュとナナリーの兄妹が、祖国から、ブリタニアからどんな扱いを受けていたか知っていた彼。
　日本が敗戦した時、「ブリタニアをぶっ壊す！」と、そう叫んだルルーシュを知っていた彼。
　なのに長じて彼は日本人であることを捨て、名誉ブリタニア人となり、軍人となって、本来自分と同胞であるはずのイレブン── 日本人── を殺している。
　どうしてゼロとして、ブリタニアを敵とする者として、彼を救ってしまったりしたのだろう、とルルーシュは今になって後悔している。
　アッシュフォード学園に編入してきた彼に、ルルーシュは、自分たち兄妹はアッシュフォードに匿われているのだとはっきりそう告げたのに、なのにちっとも理解していなかった彼。
　名誉である彼がＫＭＦのデヴァイサーになっているなどとは思いもしなかった。ましてやかつての師匠を平気で殺せる人間になっていたなどとは。
　この時は、ルルーシュは自分の迂闊さが自嘲(わら)えて仕方なかった。なんでそんな人間になってしまった彼を仲間にしたいと思ったのか。
　そしてルルーシュたちが隠れているのを知りながら、何も理解しないままに副総督の選任騎士となり、あまつさえ、副総督がいいと言ってくれているからと、自分の公的な立場も考えずに学園に通い続ける彼。それがルルーシュたち兄妹をどんなに危険な状態に追い込んでいるかも知らない、何も気付かないままの彼。
　自分の正義── 自分の属する国のルールに従うこと── だけを正しいと信じ、何故ゼロが他のイレブン(日本人)たちの希望となっているのかも考えずに、ただひたすらにゼロを否定し続ける彼。
　ゼロを殺すと言いながら、結局殺すことができずに、ブリタニアに、皇帝に差し出して更なる地位を求めた彼。
　彼は本当に、これっぽっちも分かっていないのだ、ブリタニアという国が。だからゼロを引き渡せば、国が、皇帝がゼロを裁いてくれると信じている。
　そして彼自身が求めたように、ナイト・オブ・ラウンズという、ブリタニアでは臣下としては最高の騎士の位を貰って、これで国を中から変えていけると理想に燃えている。絶対専制主義国家、皇帝の支配する帝国であるブリタニアで、皇帝でも、皇族ですらもない、如何に地位を得たとはいえ、所詮は名誉でしかない彼には、到底できるなど有り得ないことなのに、それを全く理解していない。そう、本当に彼は何一つブリタニアという国の本質を分かっていない。
　そんな彼に対してルルーシュが覚える感情は、もはや自嘲でしかない、何故彼を救ってしまったりしたのかと。
　だからルルーシュは嘲笑(わら)ってやろうと思う、彼── 枢木スザク── を。
　おまえがしたことは、テロリストのゼロを皇帝に差し出したのではなく、行方不明だった帝国の皇子を皇室に戻しただけで、おまえの望みなど決して叶いはしない夢物語なのだと。国を中から変えるというおまえの望みは、所詮ただのつまらない夢想に過ぎないのだと。



　コンコンとノックがされて扉が開き、侍従が入ってくる。
「ルルーシュ殿下、お時間です」

── The End