愛しき者




 ナナリー。俺の、両親を同じくする唯一の実妹。
 おまえを愛していたよ、この世の誰よりも。だから、おまえには決して苦労はさせまいと、望みを叶えてやろうと尽くしてきた。足は無理でも、せめて目だけでも、と思ってきた。
 俺は確かに、このエリア11となった日本に送られてから、おまえには言わなかった多くの事があった。けれどそれらは全ておまえのことを思ってのことだった。何よりもおまえに心配をかけたくなかったから。
 だからおまえは、俺がおまえのためにどれほど苦労してきたか、知らなかった。いや、知ろうともしなかったのだろうと今は思う。そしてそれが、おまえをこの世の苦労や汚いものを知らない真っ白な存在にしてしまった。
 結局、俺がおまえのためにしてきたことは何も通じていなかったのだろう。だから簡単にシュナイゼル異母兄上(あにうえ)の言葉を信じて騙され、その傀儡となってしまった。自分で考えるということすらも放棄して。少しでもきちんと考えることができたなら、ペンドラゴンからの住民の避難など到底無理だということは簡単に理解できただろうに。
 そして俺とスザクに、嘘をついていたからと、敵だと宣言してきた。俺たちがどんな苦汁を味わって来たか知ろうともせずに。
 トウキョウ租界に放たれたフレイヤによって死んだと思っていたおまえが生きていた。それは純粋に嬉しかった。けれど同時に、その後の計画を考えた時に、俺は戸惑い慌てた。それをスザクはおまえが生きていたことで俺たちの計画が変わってしまうのではないかと考えたからのようだったが。
 少しして落ち着いて来た時、俺は改めて思った。俺の愛した妹のナナリーは、やはりトウキョウ租界で死んだのだと。俺たちに敵対宣言をしてきたナナリーは、もはや俺の愛したナナリーではないのだと。だから今思うのは、かつてナナリーが望んだように、この世界が優しい世界となるように、計画を実行することだけだ。



 ロロ。俺の偽りの弟。偽りの記憶の中、俺の監視者であり、暗殺者でもあった弟。
 けれど偽りの記憶の中でとはいえ、共に過ごした一年間は本物だった。
 記憶を取り戻した後、ナナリーの居場所を奪って俺の前にいるおまえを、ボロ雑巾のように扱って、いずれ捨ててやるつもりだった。殺してやろうとすら思っていた。
 ナナリーがフレイヤの中で死んだと思った時も、おまえに対して怒鳴り散らし、醜態を見せ、殺してやるつもりだったと叫んだ。
 それなのにおまえは、黒の騎士団の連中に銃を向けられ、KMFで囲まれ、今にも殺されそうになった俺を庇い、俺のKMF蜃気楼で斑鳩から飛び出し、更には心臓に負担をかけるおまえのギアスを、俺は何度もやめろと言ったのに、酷使し続けて、俺の腕の中で微笑(わら)いながら満足そうに死んでいった。
 今なら言える、おまえは間違いなく俺の、たとえ血の繋がりはなくとも俺の真実の弟だと。そしてふがいない兄のこの俺を許してくれと。



 C.C.、俺の共犯者。俺に絶対遵守という(ギアス)をくれた少女。その力と引き換えに自分の望みを叶えて貰うと言った。もっともその望みとやらが何なのか、それを知ったのは随分後だったが。
 おまえが魔女なら俺が魔王になればいい、とも俺は告げた。
 唯一、おまえの真名を知る俺を、おまえはどう見ていたのだろう。考えていたのだろう。おまえ自身はそのことについては決して何も言わなかった。
 ただひたすらにピザが好きで、ピザを食べていれば満足そうにしていた。俺のやることに一々何かを告げることもほとんどなかった。たとえどう思っていたとしても。俺を共犯者と呼び、俺がおまえの望みを叶えればそれで満足で、他はどうでもいいのか、と思ったこともあった。
 記憶を()くした── 力を封じた── おまえは可愛かったよ。これがあの、唯我独尊と言ってもいいだろう態度をとるおまえとは思えないほどに。
 そしてCの世界で、せめて死ぬ時くらいは笑って死ねと、かつて俺が告げた言葉を切なそうに告げたおまえ。
 俺たちの計画── ゼロ・レクイエム── を本心では反対していたのだろうことは分かっていた。だが、止めることはしなかった。それはかつてナナリーが望んだ、優しい世界を創るために必要なことだと俺が思っていたから。俺がそう思っていると、考えていると気付いていたから、おまえは俺に対して何も言わなかったのだろう。
 C.C.、おまえの心からの笑顔を見たいと思うよ。
 叶うなら、生まれ変わってもう一度おまえに会いたい。そしてその時こそ、おまえの願いを叶えよう。
 その前におまえの望みが叶っていたら不可能な事ではあるが、もし叶うなら、おまえの望みを叶えて、そしてその代償に、というのもおかしな話だが、おまえの本心からの笑顔を見てみたい。
 おまえを、愛しているよ。C.C.、俺にとって永遠の唯一の共犯者。

── The End




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