星を継ぐもの




「宇宙へ飛び出すんだ……恒星の世界へ。我々はいよいよ 惑星外宇宙へ向かおうとしているんだ」



 ある夜、ルルーシュは連日連夜の少しも減らない執務と、一部の者しか知らないが、やがて行うゼロ・レクイエムの後のことについての指図書を纏めている間に、一息入れ、夜のとばりが降りた中、執務室の窓から夜空を見上げた時、以前、まだアッシュフォード学園にいた際に読んだ、とあるSF小説の中に出てくる、ある人物の台詞を思い出した。
 宇宙(そら)── それは、何時しかルルーシュの未来を思う時の一つの夢となっていた。
 かつて、人類はこの地球という大地を飛出し、大気圏の外に出た事があったのだ。それは決して妄想などではない。
 以前、シャルルがブリタニアの皇帝として即位する前、2回目の世界大戦が終結した後、その大戦時には味方同士であった国々が、その国家体制、厳密に言えば、経済政策の差から対立するようになった。それは共産主義と資本主義である。
 ブリタニアは、国家体制としては皇帝を頂点にいただく専制君主国家であったが、経済的には資本主義国家である。そのブリタニアを中心とする、西側世界と呼ばれる国々と、ソヴィエトを中心とした東側世界と呼ばれた共産主義の国々。直接的な対立こそなかったが、先進国と言われた国々は、その両方の陣営に別れて、世界は冷戦状態となり、それ以外の第3世界と呼ばれた発展途上の国々において、代理戦争が行われたりして、結果、多くの人命が失われ、大地は荒れた。
 そんな状況の中、ブリタニアとソヴィエトは夫々に宇宙開発に力を入れ始めていた。
 そして世界初の有人宇宙飛行に成功したのはソヴィエトだった。宇宙飛行士を乗せた宇宙船は、2時間弱という時間で大気圏外を一周して地上に戻った。
 もちろん、ブリタニアは帝国の威信をかけてこれに対抗した。そしてそれが人類初の月への有人宇宙飛行計画だ。宇宙開発においては、ソヴィエトに出し抜かれた形となってしまっていたブリタニアは、その計画を成功させることにより、ソヴィエトに対して優位性を示した。
 両国政府の意図はともかく、それらの出来事は、人々に宇宙に対する興味を増大させ、夢を齎した。開発も進められ、大気圏外と地球とを往復するシャトル計画も進められた。
 地球の衛星たる月へは至ることができた。ならば、次は太陽系内の他の惑星へ、そしていずれは外宇宙へ。また、シャトル開発計画を受けて、宇宙ステーションや、スペースコロニーの開発など、さまざまな夢が実現可能だろうと予測されたり、どのような形になるかを人々に想像させた。それは豊かに。SF小説や、ドラマ、映画などの様々なメディアでも繰り広げられた。
 しかし、それは夢に終わった。
 ブリタニアにおけるシャルル・ジ・ブリタニアの皇帝即位である。
 もちろん、それまでも軍備の開発も行われていたが、シャルルが皇帝となって以降、宇宙開発はおざなりにされ、ひたすら軍事に関する開発、ことに、人型二足歩行兵器── KMF── が開発されて以降は、更に拍車がかかった。そしてシャルルは世界各国に対して侵略戦争を開始したのだ。手始めは、ソヴィエトをはじめとする東側諸国だった。
 結果、宇宙に対しては、ブリタニアと、EUの一部の国に、戦略のための必要性から軍事衛星や、あるいは天候観測のための気象衛星を打ち上げる程度のものしか残らず、それ以外のものはやがて見向きもされなくなり、それまでの開発記録はどこかに封印でもされたのか、あるいは不必要と処分されたか、消え失せ、やがて人々の心の中から宇宙への夢もまた消えていった。
 ルルーシュは、それをいまさらながらに惜しいと思う。ましてや、侵略戦争の原因を知った後では尚のことだ。
 そんなくだらないことのために、人類はこの地球に閉じ込められたのかと。
 だから思うのだ。ゼロ・レクイエムが成功し、世界に平和が齎されたなら、人々には再び昔を思い出して宇宙に対する意識を、夢を持ってほしいと。
 そう考えて、ルルーシュはゼロとなるスザクに遺す指南書の最後の方に、その旨を記した。すなわち、何時か宇宙開発への着手をと。
 それを認めながら、小説の中である科学者が述べていた言葉が思い起こされる。



「我々人類は今、押しも押されもせぬ太陽系の支配者として、恒星間宇宙のとばくちに立っている。
 ならば、行って我々の正当な遺産を要求しようではないか。我々の伝統には、敗北の概念はない。今日は恒星を、明日は銀河系外星雲を。宇宙のいかなる力も、我々を止めることはできないのだ」



 何時の日にか、それが現実のことになればと切に願いながら、ルルーシュは人々が地球の大地を離れ、宇宙に飛び出していく日を、人類の限りない未来を夢に見る。

── The End




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