あの方は私にとって、いいえ、ブリタニアの植民地となり、イレブンとなった日本人にとって希望の星でありました。
何時かブリタニアから日本を解放してくださると、それを信じて付いてまいりました。
あの方が日本人でないことは承知しておりました。
桐原は何も言わずに逝き、あの方の正体を知ることはできませんでした。
あの方自身、ご自分の素性に関しては決して打ち明けられることはありませんでした。
それでもあの方が私たち日本人にとってはかけがえのない方であることに変わりはありませんでした。
どこまでもあの方を信じて、エリア11となった日本を遠く離れることとなっても、それでもあの方が決められたことを信じると、そう決めて何処までも付いてまいる所存でございました。
けれど。
あの方が私たちを騙していたのだとの証言に、私は打ちのめされました。
あの方が、あろうことか敵国の皇子だったと知ってどれほどのショックを受けたことでしょう。
更にはあのユーフェミア・リ・ブリタニアによる“行政特区日本”における日本人虐殺が、実はあの方が招いたことだと知らされた時、如何に私が打ちのめされたことか、誰に分かるでしょう。
誰よりもあの方を信じ、あの方のなさることには深い考えがあってのことと、そう考えてどこまでも付いてまいる所存でありましたのに。
だのにあの方は私たちを裏切られた。いいえ、裏切り続けていた。
私たちを利用し、戦争をゲームのように愉しんでいたのだと、あの方の部下だった者たちからの報告にどれほど打ちのめされたことか。
何故あの方を信じ、日本を離れ遠い処まで来てしまったのかと、後悔の日々でした。
やがて敵国ブリタニアの皇帝シャルルを倒し、自ら皇帝の座に座ったあの方。
皇族や貴族たちの既得権益を廃止し、ナンバーズ制度を廃止し、いずれ順次エリアの解放も行っていくと述べられたあの方。世間ではあの方は“賢帝”と呼ばれていました。
それを信じたいと思う一方で、信じることなどできぬという私がおりました。
一体どちらが本当のあの方なのでしょう。分かりませんでした。
そうして行われたアッシュフォード学園での超合集国連合臨時最高評議会。
あの方が皇帝となられたブリタニアの加盟を決めるための会議。
けれど私は、私たちは対応を間違えました。
仮にも一国の君主を檻に閉じ込め、本来、発言権の一つも持たぬ黒の騎士団幹部たちに、あの方の元の部下たちに内政干渉と取れる発言を許してしまいました。
それは評議会議長としては許されざる行為でした。
結果的に私たちはブリタニアに捕らわれの身となり、我が身の不甲斐なさを嘆いたものです。
そしてブリタニアの内戦とも言える第99代皇帝の座を巡ってのフジ決戦。
本来なら黒の騎士団は関与すべきではなかったのです。 なのに彼らはトウキョウ租界を破壊に導いた大量破壊兵器を擁する陣営に組しました。
それがフレイヤという驚異の兵器の存在を容認することだということに気付かずに。
あの方はフレイヤを制し、反逆者を捕え、黒の騎士団を捕え、世界の覇者となられました。
そして私がアッシュフォード会談で口にしたように、“悪逆皇帝”に相応しい言動を取られ、多くの殺戮を行われました。
ですがそれこそが素顔に被った仮面だったと気が付いた時は、余りにも遅過ぎました。
処刑パレードで復活したゼロに殺されたあの方に、私は全てを悟りました。
ああ、やはりあの方は私たちの星であったのだと。
あの方はたった独りで全てを背負って逝かれてしまわれた。
もうこの地上の何処を探してもあの方はいらっしゃらない。
何故私は、あの方を信じ切ることができなかったのでしょう。
桐原はあの方のことを全て承知の上で、そして何も言わずに心の内に秘めたままに逝ったというのに。なのに何故それを信じことができなかったのでしょう。
敵から与えられた情報だけを信じ、あの方のそれまでなされてきたことを振り返って考えてみることもなく、ただ闇雲に敵の投げてよこした言葉を簡単に信じてしまいました。
私たちに全てを遺して逝ってしまわれたあの方の命に、果たして遺された私たちはそれを受け取るのに相応しいと言えるだけのものがあるのでしょうか。
あの方がいない今、私には何も見えません。
私の星は、あの方は、永遠に失われてしまったのですから。
── The End
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