陽はまた昇る



 今日、ルルーシュが死ぬ。ルルーシュを仇と呼び続けるあの愚かきわまりない男の手によって、彼の望みのままに。
 ルルーシュ。私が、真実、自分の共犯者と認めた唯一の存在。私のことを、嫌いも、恨みもせず、それどころか、私が魔女なら自分が魔王になればいいだけだと、そして私に笑って死ねと言ってくれ唯一人の男。私が(ギアス)を与えた者たちは、そのほとんどがいつか私を憎み、恨み、自滅していったというのに、その力に飲み込まれるもことなく、私に力を与えてくれたことを感謝しているとすら言ってくれた男。
 死にたいと、それだけを願いながら生きてきた私が、もしもこの男と共にといることが叶うなら、永遠の時を生きるのも悪くないかもしれないとすら思った存在。
 しかしそのルルーシュは死にいこうとしている。かつての親友だった男の望みを叶えてやるために。それだけではないのは分かっている。ルルーシュは己の罪深さを悔いている。妹たちの望みを叶えてやろうとしている。その世界を得るために、自らを人柱としようとしている。
 だが私に言せれば、とんでもない馬鹿だ。愚かな行為でしかない。
 世の中はそんなに甘くはない。確かに人は変われるものではあるが、そう簡単に変われるものでもない。ルルーシュの死後、暫くの間は彼が望んだような世界が訪れるかもしれない。けれどきっと、それはほんの僅かの間だけで、すぐに元の争いに満ちた世界に戻るだろう。永い時を生きて世界を見てきた私だからこそ、そう言いきれる。ルルーシュの望みは叶わないだろうと。
 何より、ルルーシュよりも、彼を殺そうとしているあの男のほうがずっと罪深いというのに、何故ルーシュが死ななければならない。
 あの男は、見たもの、聞いたこと、与えられたものをそのまま受け取って信じるだけだ。なにも考えない。本人は考えているつもりのようだが、実際には何も考えていない。理解していない。しようとしていない。だから簡単にルルーシュを「仇」と言い続けていられるのだ。ルルーシュが何も言わないこともその原因の一つではあるだろうが。しかし実際のところ、確かにあの娘の死のきっかけとなったのはルルーシュの放った一撃だが、その死を決定的なものにしたのは、ほかならぬあの男の無知で愚かな行動にあったというのに。するべき事をせず、してはならない事をしたあの男こそが、あの娘の死を決定的なものにしたというのに。
 それだけではない。あの男は、ルルーシュは自分たちが“匿われている”存在だと告げていたのに、それを表面だけで受け止めて、その意味を何も考えてはいなかった。理解していなかった。だから皇女の騎士となり、それ以後も学園に通い続け、ルルーシュの傍に居続けた。それがルルーシュたち兄妹にとってどれほど危険なことか、全く考えることもせずに。
 あの男は、ルルーシュを幼馴染、親友と言いながら、実のところ、ルルーシュのことを何も理解していなかった。だからルルーシュが何も言わずにあの男のためにしてやっていることに対して無頓着だったし、ゼロがルルーシュであることにも気付かなかったし、ルルーシュがゼロとして差し伸ばした手を取ることもなく、突然現れた見知らぬ子供── V.V.── の言葉を信じて、ゼロたるルルーシュを追い、捕らえ、ルルーシュが誰よりも憎んでやまないシャルルに売り払い、己の出世を買った。その出世で得たラウンズという地位が何を意味するのか、何ができるのか、できないのか、何も気付かずに。いや、それ以前に、名誉ブリタニア人となりながら、ラウンズになりながら、ブリタニアという国の事すらほとんど理解していなかった。ルルーシュが死ぬこと、その存在が失われることの意味も、ルルーシュから示された表面のことしか理解していないだろう。そんな男にゼロ── ルルーシュ── の代わりなど務まるはずもない。たとえシュナイゼルをブレーンとして傍につけても。
 そしてそんな男のために、その男の手にかかり、仇を打たせてやろうだなんて、ルルーシュは人がいいにも程がある。あの男のことを抜かしても、実現はしないだろう計画そのものについても言えることだが。
 ルルーシュが死ぬ。ルルーシュという、私にとって唯一と言っていい存在が失われる。ルルーシュがいなくなったら、私はもう誰とも契約を交わすつもりはない。つまり、私は永遠に一人で生き続けることになる。
 今まで、多くの契約者との別離(わかれ)があった。だがルルーシュが失われるということは、これまでとは全く違う。単に契約者がいなくなるというだけではない。口にしたことはなかった。だが、自分から唯一愛していると言える男が失われるのだ。それは私の世界が変わることを意味している気がする。
 けれど変わらぬこともある。ルルーシュがいなくなっても、陽は沈み、また昇る。明日も、明後日も、その先も。日々、陽は昇り、沈み、また昇る。それだけは変わらず繰り返される。私の中の哀しみも何も関係なく。もしこの世の何かが変わっても、それだけは決して変わることはない。
 陽が昇るたびに、日が変わるたびに、きっと私はルルーシュを思い、彼がいないことを哀しみ続けるだろう、この生ある限り、永遠に。

── The End




【INDEX】