虐殺再び




 エリア11総督ナナリー・ヴィ・ブリタニアの宣言した、かつての副総督ユーフェミア・リ・ブリタニアの提唱した“行政特区日本”の再建。
 その設立にあたっての条件は、ゼロの国外追放。
 しかしそこに集まった100万の日本人たちは、巨大スクリーンに映し出されたゼロの合図によって全員がゼロと化した。
 ゼロは自らを記号化したのだ。誰が本物のゼロかも分からない中、ブリタニア側は混乱の極みだった。その会場の混乱に、アーニャは早々にナナリーを式典会場のステージから奥へと引き戻した。
「何が起きているのですか?」
 目の見えないナナリーには何が起きているのか全く分からなかった。
 それに対してアーニャは、「スザクがいるから大丈夫」と答えるのみだ。
 明らかな反乱分子たる100万のイレブン、すなわち日本人に対してどう対処すべきか。ブリタニアへの恭順を拒む不満分子として処分すべきか、それともあくまでゼロとして国外追放にすべきか。
 そんな中、100万もの反乱分子を許すことはできないと、ローマイヤは銃を取り出した。
「死になさい、ゼロ!」
 止めようとしたスザクは、間に合わなかった。一発の銃声がその始まりだった。
「きゃあっ!!」
「何をっ!」
「貴様ら、やはり俺たちを最初から虐殺するつもりで!」
「一年前と同じことを繰り返すつもりだったのか!?」
 ゼロたちは武器も持たず、ただ逃げ惑うのみ。
 そんな中、スザクの制止の声はすでに届くことはなく、相手は反乱分子としてブリタニア軍による粛清が始まった。上空に待機していたKMFからもゼロたちに向けて攻撃が開始され、地上でもローマイヤの発砲をきっかけとして、会場内に配置されていたKMFからのゼロたちに対する攻撃が始まった。
「枢木スザク! これが貴様の答えかっ!?」
 スクリーンに映し出されたゼロから、スザクに対して侮蔑を込めた言葉が発せられた。
「ち、違う、これは……っ!」
「だが現にブリタニアは国外追放との処分を決めたゼロに対して攻撃を開始した。つまりブリタニアは最初から約束を守る気などなかったということだ」
「それは詭弁だ! 貴様がこんな策を弄さなければ、こんな事態にはならなかった!!」
「ゼロは国外追放、そう言いながらゼロを殺しているのはどこの誰だ!?」
 スクリーンに映し出されるゼロとスザクとの遣り取りが交わされている間にも、多くのゼロたちが倒れていく。
 TV中継機内の中のアナウンサーは叫ぶ。
「これは大変なことになりました。ゼロと化した大勢のイレブンに対し、ブリタニアはこれをブリタニアに対する不満分子であるにすぎないと判断し、粛清を開始した模様です」
 アナウンサーとしてはそう表現するしかなかった。
 ゼロは一人、つまり、スザクが対しているゼロ以外は全て偽物と判断し、ブリタニアは一斉に攻撃を開始したのだ。
「やめろ! ユフィもナナリーも許す気だったんだ! こんなのは間違ってる!!」
 ステージの上のスザクの叫びは虚しく響く。
 大勢のゼロたちが、大混乱の中、逃げ惑い、次々と倒れていく。
「これは間違いだ! 止めろ、攻撃を中止しろ!!」
 最早スザクの叫びは誰にも届かない。
 そんな中、中華連邦から申請のあった氷上船が会場であるシズオカゲットーに着岸する。
「皆、船に乗り込め! この地から脱出するのだ」
 生き延びたゼロたちは負傷したゼロたちを庇い、互いに手を貸しあい、船に乗り込もうとブリタニアからの攻撃を逃れながら氷上船へと向かう。
「枢木スザク! 貴様は所詮は日本人の名を捨てた裏切り者に過ぎなかったようだな。貴様を信じた私が愚かだった」
「この事態を招いたのは貴様のせいだ! 貴様一人だけが国外追放のはずだったのに、そうしたらこの特区は成功していたのに!」
「それは貴様の思い上がりだ! 日本人が望んでいるのは一部の地域だけの日本ではない! ブリタニアの干渉を受けない日本の独立。貴様にはそれが分かっていない。これだけ多くの人々が望む日本の独立を貴様は理解していない! 枢木スザク、私は失望したよ。所詮ブリタニアの狗に成り下がった貴様に日本人を守ることを期待したのが私の間違いだった!」
 次々と倒れていくゼロたち、その一方で船に辿り着き乗り込むゼロたち。
 船の所有は中華連邦にあり、流石にブリタニアも氷上船に辿り着いたゼロたちに対しては手を出しかねていた。
 それでも何の武器も持たず、ただ逃げ惑っていただけの大勢のゼロたちの死体が会場内のあちこちに倒れ伏している。
 シズオカゲットーに集まっていた100万人のおよそ半分が死に、残りの半分が、負傷を負いながらもどうにか氷上船に辿り着いた。
 作戦通りにうまくいけば、一人も欠けることなく全員無事に国外脱出できていたはずだった。しかし一発の銃声がそれを無為にした。
 所詮ブリタニアにとって、特区に集まったイレブンは自分たちに対する不満分子であり、粛清の対象でしかないのだと、特区に参加し、無事に船に乗り込んだ者たちも、そして参加することなく様子を見守っていた者たちも、ブリタニアにとって自分たちは何かあればすぐに処罰することを厭わぬ存在でしかないのだと思い知らされた感じだ。
 船に乗り込んだゼロたちは、ゲットーに残った大勢のゼロたちの死体を視界に収めながら離岸した。
 彼らはブリタニアに信義を求めたのがそもそもの間違いと、死んでいった者たちの無念さを思い、何時かきっとこの仇を、日本の真の独立を勝ち取るとの思いを強くした。



 その頃、ブリタニア本国の帝都ペンドラゴンにある宮殿、その中の100を超える離宮のうちの一つ、リブラ宮では、その中継を見ていたアダレイド皇妃が嘲笑していた。
「お── ほほほっ! これであの小娘もユーフェミアと同じ虐殺皇女じゃ! それもユーフェミア以上の! これで誰もあの小娘の言葉を信ずるものなどエリア11には存在しなくなる! いい気味じゃ。わらわを憐れんだ小娘が、ユーフェミア以上の虐殺を働いた小娘が、これでどんな処分を受けるか愉しみじゃ!」
 今回の虐殺は明らかにブリタニア側からの発砲が始まりであり、イレブンたちに非はない。単に彼らは国外追放処分を受けるゼロとなっていただけに過ぎないのだから。
 これによりエリア11に限らず、ブリタニアの言葉など何ら信用できぬのだと、諸外国に知らしめたに過ぎないことになる。
 そんな事態を招いたエリア11総督とその総督補佐たる枢木スザクに対して、ブリタニアの面目を潰したとして何らかの処罰が下されるのは間違いなかろうと、アダレイドはそれを思うと愉快でならなかった。
 自分に対して憐れみを浮かべた卑しい庶民腹の皇女が、支配されるべきナンバーズ上がりの、自分の娘を守らなかった騎士が処分を受けるのだ。胸の奥深くにしまわれていた恨みがこれで漸く少しは晴れるというものだと、アダレイドの嘲笑は続いた。

── The End




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