合 流




 エリア11総督コーネリア・リ・ブリタニアが更迭された。
 理由は実の妹であり、また部下でもあった副総督ユーフェミア・リ・ブリタニアの暴走を止められなかったことによる。
 確かにユーフェミアの唱えた“行政特区日本”を彼女の皇籍奉還と引き換えに認めたのは本国であるが、それ以前に総督であるコーネリアが認めていなければ、本国も認めることはなかったのである。
 ゆえに部下の独断独走を止められなかったことを理由として、総督たるコーネリアの更迭が決定されたのである。それに伴い、コーネリアの皇位継承順位も後退し、それは他の皇族たちを喜ばせた。
 これら一連の動きの裏でコーネリアを追い落とすべく動いていたのは、もちろんシュナイゼルである。
 コーネリアの後任としてエリア11に新しい総督として赴任してきたのはカラレス将軍である。ナンバーズ蔑視の染みついた男であり、また戦闘に関してはどちらかといえば策を弄するよりも力押しの男である、とはシュナイゼルからルルーシュが得た情報である。
 シュナイゼルはルルーシュとの約束を守っていた。
 情報と武器弾薬、そして活動資金を提供し、それによって黒の騎士団の装備、資金源は豊かになり、団員も大幅に増加した。そしてゼロはシュナイゼルに言われていた通り、コーネリアの更迭とそれに続くカラレスの就任に際して、シンジュクゲットーにおいて独立を宣言した。
「私は今ここに、日本の独立を宣言する。私たちがこれから作る新しい国はあらゆる人種、歴史、主義を受け入れる心の広さと、強者が弱者を虐げない矜持を持つ国家だ。その名は合衆国日本! ここはすでにブリタニアの植民地たるエリア11にはあらず、日本人の住む独立した国家である。私は約束しよう、ブリタニアの脅威からこの新しい国、合衆国日本とそこに住む人々を守ることを!」
 それはエリア11中のメディアを占拠して放映された。
 ナンバーズとしてブリタニア人に虐げられていた日本人は喜びに沸き、一方、カラレスは怒り心頭に達して、部下たちを即座にゼロが独立を宣言したシンジュクゲットーに向かわせた。
 しかしそれは遅きに失した。ゼロはその宣言以前に、すでに部隊を幾つかに分けて政庁をはじめとして主要な軍事施設に団員たちを配置していたのである。そしてカラレスが部隊を率いて政庁を出ると同時に黒の騎士団は攻撃を開始した。
 そのことに気付いたカラレスは慌てて政庁に戻るように部下に指示を下したが、カラレスたちが戻る頃には手薄になっていた政庁はあっという間に黒の騎士団の手に落ちていた。
 他の主要施設においても多少の差はあれ似たようなものだった。力押しのカラレスは他の施設からもシンジュクゲットーの黒の騎士団を一網打尽にすべく部隊を出していたのである。加えて唯一の第7世代KMFランスロットはデヴァイサーであったスザクの失脚と共に出撃ならないままである。
 帰るべき場所を失ったブリタニア軍は右往左往するしかなく、それでも政庁まで戻ってきたカラレスはそこが市街地であるにもかかわらず、政庁を占拠した黒の騎士団の精鋭部隊との戦闘を開始した。
 戻るべき場所を失い補給線を絶たれたブリタニア軍は、ひたすらカラレスの力押し、数で押すという戦いに終始し、数の優勢はあれど、ゼロの策の前には赤子の手を捻るようなものだった。
 やがてブリタニア軍から脱落者が出始めた。その筆頭は名誉ブリタニア人である。本来日本人であった彼らは黒の騎士団に味方し、それまでの己らの所属部隊であったブリタニア軍に対して、武器を奪い攻撃に転じたのである。
 結果、一日と保たずにカラレスは黒の騎士団に捕えられ、ブリタニアのエリア11政庁は正式に黒の騎士団の押さえるところとなった。
 ゼロはトウキョウ租界に戒厳令を敷き、そこに住まうブリタニア人に対しては外出禁止を、そして日本人に対しては、己の独立宣言を引用し、ブリタニア人を傷つけたり強奪などといった愚かな行為に走らないように放送を通して通達した。



 その頃、エリア11の異変を聞いたブリタニアでも騒動が起きていた。
 主義者と呼ばれる、ナンバーズ制度やブリタニアの国是である弱肉強食主義を否定する集団が、帝都ペンドラゴンにおいて蜂起したのである。
 ブリタニア人もまた、どこまでも弱肉強食を謳い上げる皇帝の方針に疲れ切っていた。
 皇帝であるシャルルは愚かな事と断じて軍を動かし、主義者たちを葬ろうとしたが、彼らの行動に一般の臣民の中からまで同調する者、果ては治安のために出動した軍の中からまで同調する者たちが現れたのである。
 それらは全てシュナイゼルの根回しによるものだった。
 執務室で報告を受けていたシャルルの下、徐ろに執務室の扉が開けられ、帝国宰相であるシュナイゼルを先頭に数人の騎士たちが入ってきた。
「如何した、シュナイゼル」
 シュナイゼルは胸元から銃を取り出した。
「! 何のつもりだ、シュナイゼル!?」
「あなたは己のおかしな研究に没頭し国政を投げ出した。国政を疎かにする人物に皇帝たる、為政者たる資格はありません。その地位、退いていただきましょう」
 執務室には皇帝直属の騎士であるラウンズたちは一人もいなかった。彼らは皆、EUをはじめとする戦闘地域に赴いていたのである。皇帝を守るべき人物は、その時執務室には誰一人としていなかった。ワンのビスマルクですら。
「シュナイゼル、まさか今回の騒動を引き起こしたのはおまえか!?」
 ハタと思い至ったかのようにシャルルは声を荒げて問いかけた。
「そうです。巨大になり過ぎた国は中から膿んでいく。あなたの言う進化など、このブリタニアにはもはや望めない。進化するためには中から変えなければならない」
「何を馬鹿な事を言っている! 儂は世界を……!」
 シャルルの眉間をシュナイゼルの撃った銃の弾丸が貫いた。
 シャルルの大きな躰が座っていた椅子ごと勢いを持って、大きな音を立てて倒れた。
「片付けろ」
 シュナイゼルは表情を何一つ変えることなく、また何の心境の変化もないように自分のすぐ後ろに立つ副官のカノンに命じた。
「はい」
 カノンが部下に命じてシャルルの遺体を片付けようとしているところへ、再び執務室の扉が開いて、今度は皇位継承権第1位の、シュナイゼルの異母兄(あに)であるオデュッセウスが己の騎士と共に入ってきた。
「……本当にやったのだね、シュナイゼル」
 中の様子を見て、オデュッセウスは一言そう告げた。
「はい、異母兄上(あにうえ)。これから、たった今からあなたがこのブリタニアの皇帝です」
「君が皇帝になるつもりはないのかい?」
「父上の下で宰相として各国への侵略を繰り返してきた私よりも、今後の新しいブリタニアのためには異母兄上の方が相応しいと、そう考えます。ですが、もちろん異母兄上が皇帝としてあられるために必要だと仰っていただけるなら、これからも叶う限りお力になる所存です」
「では今後も帝国宰相としてその手腕を発揮してもらいたいものだ」
「イエス、ユア・マジェスティ」
 シュナイゼルはそうオデュッセウスに返した。
「エリア11でも騒動が起きているそうだが、それに関しての情報は?」
 カノンたちがシャルルの遺体を片付けている間、オデュッセウスとシュナイゼルは執務机の脇にある応接セットに互いに向き合って腰を降ろし話を進めている。
「全て順調に。ルルーシュは日本の独立を宣言し、カラレスを拘束したとのことです」
「そうか。では一日も早くルルーシュを呼び戻したいものだね。あの子は子供の頃から利発だったが、君と同様に優秀なのだろう?」
「そうですね。でなければ日本の独立を勝ち取るようなことはできなかったでしょう」
「今後の事もある。一日も早く君とルルーシュの協力を得て新しいブリタニアを創っていける事を望むよ」
 オデュッセウスの言葉にシュナイゼルは首肯を垂れるだけだった。
 これでルルーシュを迎えにいける、これからは共に過ごせると。



 その頃、独立を果たした合衆国日本では、ゼロが自分は黒の騎士団から身を引く旨を伝えていた。
「どういうことだ、ゼロ! これからという時になって!?」
「これからの事は、軍事に関しては藤堂が、政治向きの事に関してはキョウト六家がある。心配することはあるまい。私はかねてのシュナイゼルとの約束通りブリタニアに赴く。これから私がやるのは、日本の独立が為った以上、ブリタニアの中からの改変だ」
「なんだってブリタニアのためなんかに! 確かにシュナイゼルから色々な提供があって助かったけど、だからってあなたがブリタニアのために動く必要なんかどこにもないじゃないですか」
 食ってかかるようにカレンがゼロを詰める。
「必要はある。何故なら私はブリタニア人なのだから」
 言いながら、ゼロはそれまで人前では決して外したことのなかった仮面を外した。
「ル、ルルーシュ!?」
 仮面の下から現れたのは、漆黒の髪と紫電の瞳を持つ、明らかにブリタニア人と分かる、それも未だ少年と言える顔だった。
「そういう訳だカレン。後はよろしく頼む」
 驚きに言葉もないカレンの肩を軽く叩くと、ゼロことルルーシュは政庁を後にした。それに付き従うのはもちろんC.C.のみだ。
 その様を他の団員たちはただ呆然と見送っていた。



 ルルーシュはシュナイゼル直轄である特派のロイドたちと合流し、ミレイにナナリーのことを頼むと一言連絡を入れた後、日本を後にしてシュナイゼルの待つブリタニア本国に向けて出立した。

── The End




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