瓦解の予兆




 人の口に戸は立てられない。



 最初は、その時は誰も不思議には思わなかった。皆、ただ上の指示に従っていただけだった。
 だが一旦事が落ち着けば、見えないものが、見えなかったものが見えてくる。
 何故ブリタニアと敵対している超合集国連合の下部組織である黒の騎士団が、そのブリタニアと共に行動するのか。
 否、それ以前に、ブリタニアの特使が訪れた直後の蜃気楼の奪取とゼロ死亡の発表は一体何だったのか。
 一体誰がゼロの専用機である蜃気楼を、黒の騎士団の旗艦である斑鳩から奪取したというのか。
 蜃気楼はフレイヤ弾頭の被害も受けず、無事に斑鳩に戻ったのだ。それはすなわちゼロの無事を意味する。それが何故、負傷が元で死亡などということになっているのか。
 次から次へと疑問が浮かんでくる。
 浮かんできたそれらの疑問は、人の口から人の口へと回っていく。幹部たちの知らぬ間に、斑鳩にいた日本人団員から他の国の団員たちに。
 そうなれば、やがて団員たちの間に広まった疑問は、超合集国連合を構成する国の中枢にまで何時の間にか広まりつつあった。
 それでなくてもゼロ死亡の報は各国に激震を齎したのだ。
 単なる超合集国連合の下部組織である黒の騎士団のCEOの死であったなら、それほどの激震を起こしはしなかっただろう。だがゼロは違う。
 ゼロは超合集国連合の精神的支柱だった。
 ゼロという存在があったればこそ、超合集国連合が為ったのである。ゼロという奇跡の具現者の元に、各国は集まったのである。
 その支柱であるゼロの死亡という報が、超合集国連合を構成する各国にどれほどの衝撃を齎すものであるのか、神楽耶も、黒の騎士団の日本人幹部たちも、余りにも軽く考え過ぎていた。
 そして超合集国連合に何の報告もなく勝手に結ばれたブリタニアとの休戦協定。確かに神楽耶は超合集国連合最高評議会議長ではあるが、だからといってその最高評議会に何も諮ることなくことを決める権限は必ずしもない。よほどの緊急事態であれば多少事情は異なりはするだろうが。そして今回の休戦協定に関して言えば、一時停戦までならばまだしも、そこまでの緊急事態とは言い切れない。各国の思惑としては、とりあえず停戦協定を結び、その後、休戦について最高評議会での話し合いを持ち、そしてその決定待ち、といった手順が妥当なところであった。
 ましてや各国の議員から見れば、神楽耶は年若く、僅か100万の人口しかいない亡命政権の代表であり、その神楽耶が最高評議会議長となれたのはゼロという後見があってのことである。でなければ、各国は神楽耶を議長として認めたりしなかった。
 つまりゼロあっての黒の騎士団であり、超合集国連合であり、神楽耶の最高評議会議長就任なのである。
 その前提がなくなり、最高評議会の判断を仰がずに勝手に動く。しかも超合集国連合が敵として認定しているブリタニアと共同で行動をとる黒の騎士団の不可解さ。加えて、漏れ聞こえてくる騎士団の団員たちの間で囁かれている疑惑の数々。それらは各国の代表である議員たちの心を揺るがした。
 本当に黒の騎士団を超合集国連合の剣と盾として信用していいのか。議長であるとはいえ、神楽耶の独断専行を許していいのか。このままでは最高評議会の存在意義そのものが疑われる。
 各国の間に、黒の騎士団への不信と、それに伴い超合集国連合として纏まることへの評価、最高評議会議長たる神楽耶の存在── 彼女の資質、能力、判断力など── に疑問が湧き上がり、かつ、広がりつつあった。
 ゼロ死亡の報と共に広まりつつある各国の黒の騎士団、特に蜃気楼が奪取されたとしてその撃墜を命じた日本人幹部たちと、最高評議会議長である神楽耶への不信から、超合集国連合が瓦解するまで、もう少し?

── The End




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