続・解任と復帰




 枢木スザクは後悔していた。何をかといえばエリア11の副総督を解任されたユーフェミアと共にブリタニア本国に来たことに対して。
 ユーフェミアは副総督を解任されたことで、落伍者の烙印を押されたようなものだ。自然、周りの目は厳しく冷めたものとなる。第3皇女としてのそれなりの待遇は変わらぬものの、どうしても能力の無い弱者と見られてしまうのだ。
 特に社交界においてそれは顕著であった。パーティーなどに招待されても、誰もユーフェミアの相手をしようとはしない。招待者もおざなりの挨拶をするのみだ。
 そしてその騎士であるスザクは、公的な選任騎士ではないためにその場に共に在ることはできず、控えの間にいることになるのだが、そこではそこでナンバーズ上がりの騎士ということで蔑まれた目で見られる。
 そしてそれがまた、ナンバーズ上がりを騎士にするなど愚かなことを、とユーフェミアに対する心証を悪くする。堂々巡りだ。
 自分が思っていた事とは違う、こんな事になるなどと思い描いていたわけではないとスザクは思う。とはいえ、ユーフェミアに付いていってくれるな、というコーネリアに対して、否、とは言えなかった。その結果の今の現状に、スザクはただ甘んじるしかない。
 だがユーフェミアに対する忠誠も揺らぎ始めている。
 現状を変えようと努力をしない、できないユーフェミアに失望を感じ、自分は何故ユーフェミアを選び主としてしまったのかと、その時の事を思い出しもせずに後悔だけを強くしていく。



 一方、ブリタニアに帰国して初めての休日らしい休日に、ルルーシュは己の三人の後見人の来訪を受けていた。
 応接室で咲世子の淹れた紅茶と茶菓子を前に、三人がそれぞれ話しかけてくる。
「あの娘はナンバーズとはいえ、己の分を弁えたいしたものじゃの。じゃが仮にも宰相補佐を務める皇子の宮に仕える者があの者だけというのは、他の者に侮られる元ともなろう。(わらわ)の宮から、何人か寄越そうほどに」
「それはいい。流石はギネヴィア。私はそんなことには気付かなかったよ。あと選任騎士も決めた方がいいね。ところでシュナイゼル、補佐としてのルルーシュはどうだい?」
「とても役に立ってくれていますよ。七年もの間皇室を離れ、市井に暮らしていたとは思えないほどに」
「それは良かったこと」
 ほほほ、とギネヴィアが笑う。
「本当に良かった。連れ戻した甲斐があったというものだね」
「ええ、異母兄上(あにうえ)。これでルルーシュが無駄な考えを捨ててくれさえすれば、何もかも御の字ですよ」
「そうだね。ここ数年、政務を宰相であるシュナイゼルに丸投げでおかしな事に夢中になっている父上に何かあれば、ブリタニアも変わる。無駄な考えをいつまでも持ち続ける必要はないよ、きっと君の望むような国になるだろうから」
「異母兄上の仰る通りじゃ。父上の後はそなたが後を継ぐのじゃからの」
「その時は私が変わらずに宰相として補佐をしてあげるから何の心配もないよ」
「どうせ父上の夢中になっている計画も上手くいく道理はないからね」
 ルルーシュは三人の会話に冷や汗を垂らしていた。
 つまり、三人ははっきりと口に出してはいないが、ルルーシュが反逆をしていた── ゼロであった── 事を知っているのだ。そしてそれを知った上で後見に名乗り出て、しかも父の後を自分に継げと言っていることになる。
 自分に教えてくれる気配はないが、父たる皇帝が何に夢中になっているのかも、そしておそらくはそれが上手くいかないだろうことも、三人とも何もかも承知しているのだ。
 その三人が自分の後見である以上、現在の皇帝である父に何かあれば間違いなく自分が後を継ぐことになるのだろうと思う。少なくとも今自分の目の前にいる三人はそのつもりでいる。
 それが分かって、ルルーシュは副総督を解任されて帰国したユーフェミアや、彼女に随行してきたスザクのことを思いやる余裕もなく、何としてもエリア11に残るべきだったのか、それともこうして本国に帰ってきて良かったのか、思い悩むところである。

── The End




【INDEX】